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賽と狂犬、希望と亡霊19

きゅおっ、とあまりの速さに地面と擦れた左近の靴が音を立てる。
その音を立てたとき、左近は政宗の間合いに入っていた。
「ー!」
そのままの勢いで顔めがけて繰り出された回し蹴りを、政宗はとっさに腕を振り上げることで辛うじて直撃を避けた。
びり、と腕が痺れる。左近は受けられたと分かると、にっ、楽しげに笑った。
「いいね、そうこなくっちゃー!」
左近は足を引くと同時に跳躍し、先程蹴った方の足で着地すると同時に反対の足で思いきり政宗の胸部を叩きつけた。
その足の切り替えはあまりに速く、反応し損ねた政宗はその攻撃をもろにくらい、数歩後ろへよろめいたように下がった。
「ーッ、やってくれる…!」
政宗は大きく息を吐き出したあと、ぎり、と歯をならし、だがどこか楽しげな目で左近を見据えた。勝家とは違う、左近の好戦的な雰囲気が気に入ったのだろうか。
政宗はすぐに戦闘体勢に戻り、地面を蹴った。政宗は受け手に回る質ではない。相手がなんであれ、攻めていくのが政宗のスタイルだ。
左近も楽しそうにそれを受け入れる。どうやら左近と政宗のバトルへの向き合い方は、似た者同士らしい。
「はぁーーッ!!」
政宗は勢いよく左近に斬りかかる。
一撃。二撃。三撃。次々に左右の攻撃を繰り返す。左近は避けたり受けたりしながら直撃をかわす。
「………………さて」
一人残された勝家は、どうしたものかとぽつりそう呟いた。
左近は自分たち豊臣の目的は伊達だと言った。だが織田と豊臣が敵対しているのは事実だ。左近にその気はなくとも、恐らく豊臣勢は伊達を倒せば織田にその牙を剥くだろう。
こちらは伊達に攻められ劣勢だ。引くのが吉であろう。
勝家は逆刃薙を下げ、一歩下がった。
「どこへ行く」
「ーーーー!」
そして不意に後ろからかけられた言葉と左近のそれより遥かに冷たい殺気に、勝家は振り返らぬまま勢いよく逆刃薙を振り抜いた。
たんっ、と軽やかな音がして相手が跳躍してその攻撃を避けたことが分かった。勝家はすぐさまそちらへ振り返り、逆刃薙を構え直した。

そこにいたのは三成だった。不愉快そうに勝家を見据えていて、その後ろの左近と政宗には興味を示していないようだ。
「…貴方は…」
「貴様に名乗る名など無い。貴様はこの場で…「あーっ!!三成様っ!たんま!!」
三成が勝家の問いかけにそう冷たく返し、刀を腰の位置に構えたところで左近が三成に気が付いた。そして慌てたようにそう叫び、政宗を弾き飛ばすと興味を無くしたかのように政宗に背を向け、三成の元へ飛んでいった。
「なっ!?てめぇ、」
放置された政宗は怒りを露にするが、そこで三成の存在に気が付き、すぐに追おうとしていた足を止めた。
左近は慌てて三成の元へ駆け寄ると、勝家との間に入った。
「アイツの相手は俺が!!俺がするんで!ほらっ、三成様、あっちに伊達政宗いますよ!!」
「んなっ、テメェ人を見世物扱いすんじゃねぇ!」
「喧しい。貴様が相手をしていたのだろう、なぜ私に回す」
「そりゃあ大将首は三成様のもんでしょ!それに俺は、伊達政宗よりこっちのと戦いたいんすよ。ねっ、お願いしますよ三成様ぁー」
「…………好きにしろ」
三成は左近の物言いに呆れたように肩を竦めたが、大将首との言葉に関心は勝家から政宗に移ったか、左近の提案を受け入れ三成は政宗に向き直った。
「…豊臣の左腕、石田三成か。そいつの口上を聞いた辺りで何となく予想は出来ていたがな…」
政宗は強敵の出現に僅かに渋い顔をしたが、それもすぐに消え、相変わらずの楽しそうな笑みを浮かべた。
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