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もうお前を離さない3

幸村は物に触れないようにしながら部屋に置いてあるものをよくよく観察して回った。見た目だけでは理解できない物ばかりだった。どうやっても分かりそうにないので、幸村は最初に寝かされていた布団に戻る事にした。
布団の上に座り、軽く教えてもらった現状を頭の中で整理する。とにかく、今このアパートなるものを出ても、どこにも自分の知り合いがいないらしいことだけは確実に理解出来ていた。
「…みやの、れいな…殿」
教えてもらった名前をつぶやいた。
不思議な少女だった。以前から幸村の事を知っているとはいえ、どうやら一人暮らしらしい女が容易に家に男を入れるなど、幸村には考えられなかった。そしてどこか彼女には、自分に興味がないようにも見えた。
自分がどうなろうと――そう、例え不本意な形で死を迎えるかもしれないとしても。
「…」
幸村は最初に渡された書を再び手に取った。自分の好敵手の絵が表紙に描かれている書は、酷く読み込まれているようにも見えた。彼女にとって、自分の世界はもしかしたら思い入れのある所なのかもしれない。幸村はそう思った。
「どうやらこの日の本には…御館様も佐助も政宗殿も石田殿もいらっしゃらぬ…徳川殿も…。この幸村、天下を別け隔てんとする戦を目前に、なんたる不覚!どうにかして、なんとしても、早急に帰らねばならぬ!」
一人で小さく自分を戒める言葉を呟く。その書を机の上に置くと、幸村は布団に寝転がった。
動き回って気が付いたことだったが、どうやら負った傷は大分深かったらしい。じくじくと痛み、包帯にはうっすらと血が滲んでいる。誰に負わされた傷かは思い出せないが、油断していたのだろうか。
幸村は静かに目を伏せ、すぐに眠りに落ちた。






数時間後、幸村は強く扉が叩かれる音で目を覚ました。室内が明るくなっていることから、日の出は過ぎた事が伺えた。
幸村は慌てて返事をしようとし、慌てて口元を抑えた。何があっても出ないで。宮野の言葉が思い出されたからだ。
「ちょっとー?」
「……っ」
「真田源二郎幸村さーん?!いるんでしょうー?!」
「っうぉっ?!」
幸村はまさか自分の名前が呼ばれるとは思わなかったので、思い切り驚いて声を上げてしまった。
その声に、扉の外の人間は盛大にため息をついたようだった。
「ここの大家のもんだけど。黎凪ちゃんに頼まれ事されてんのよ、開けなー」
どうやら、宮野の知り合いらしい。幸村は少し迷った後、扉の前に立った。
「大家殿、でござるか」
「あらやだござるだなんて。この世界の人間じゃないっての本当みたいね…」
「?そ、そんなに変でござるか?」
「黎凪ちゃんが言うにはござるは昔の謙譲語・敬語だったらしいけどねぇ…」
「はぁ…」
「取り敢えず話したいから、中入れなさい」
「中に入れ…ッ?!ダメで御座る許可されておりませぬっ!!!!」
「はぁぁ?!ちょっとうるさいわよアンタっ!いいからドア開けなさい!話があんのよ!」
「!も、もも申し訳ござらぬ。して、大家殿」
「何?」
「開け方が分かりませぬ」
「……あらま」
結果的に扉には鍵がかかっておらず、大家の松田と名乗った女性はまたため息をついていた。

もうお前を離さない2

幸村が食事をしている間、宮野は幸村が見たことのない物をせかせかと使いながら部屋をうろついていた。食べおわった後に机の上を見ると、やはり見たことのない文字のようなものが羅列した紙があった。
「真田幸村。取り敢えずー…今最低限聞いておきたいことはある?私はそろそろ出掛けなきゃいけないんだ」
「え?あ、はぁ…。…取り敢えず、ここはどこでござるか?」
「ここは貴方のいた世界の外の世界、とでも言おうかな。そして、貴方のいた世界から単純に400年後の世界」
「なんと!」
「ちょっ、静かに!ここはアパートって言って、隣の家との境の壁が薄い部屋だから、大きな声出さないで!」
「!もっ申し訳ござらぬ。しかし…ここが家、でござるのか」
「私はお金ないからね。アパートっていう小さい家の塊みたいな所しか住めないの。住める場所があるだけマシなんだよー」
宮野はクスクスと笑いながら語る。幸村はその笑顔に若干の違和感を覚えながらも、なんとか現状を把握しようとまわりの悪い頭を働かせた。
「つまり、この世界に某のような者はおらぬ、と?」
「幸村はゲームの中の人だからね…殊更いない」
「げぇむ?」
「なんて説明しようかな…遊戯の一つ?かな。幸村は戦国BASARA、っていう、私達の世界の歴史上存在する時代の戦国時代という時期に生きた武将達を元に作られた、ちゃんばらみたいな物に登場するの」
「はぁ…」
「実物があればいいんだけど…ごめんなさい」
「い、いえ!謝らないでくだされ!」
「…簡単に言っちゃうと、槍から炎を出せる人はいないの。握力で人殺せる人も、地面に潜れる人もいない。そもそもこの世界には戦も武将もない。だから、武器をとる人はいない」
「そ、そうなのでござるか!」
幸村は宮野の言葉を漸く理解できたような気がした。
要はこの世界は自分がいた世界とは全く違う世界であり、戦のない平和な世であるらしい、ということ。そして、自分のような人間はいない、ということを。
「…あ、やばい出なきゃ。申し訳ないんだけど幸村。私はこれからこの世界の学問所に行かなきゃならない。だから、この家から一歩も出ずに、ここで待っていてくれる?」
「?分かり申した…あ、廁はどこに?」
「…あー…廁ね…。よし、これは実物あるからちょっと来て」

そして幸村がトイレというものを使えるようになるまでに1時間かかってしまったとか。

「酷い言い方だけど幸村。貴方はこの世界では異端な存在。…この家から、何があっても出ないで」
「分かり申した。それにしても…何から何まで申し訳ございませぬ」
「気にしない気にしない。あと、敬語は使わなくていい。じゃあ、行ってきます」
「!お気をつけて!」
幸村はまだ暗い中に出ていった宮野を少し見送ってからアパートなる家の中を再び見渡した。

もうお前を離さない1

幸村が目を覚ました時、そこには見知らぬ風景があった。
「…む?」
幸村は頭をひねりながら起き上がった。
狭い部屋に幸村は寝かされていた。だがその部屋にあるものは見たことのないものばかりだった。キョロキョロと様子を伺っていると、不意に扉が勢い良くあけられた。
「ぬぉっ?!」
「あ、起きた」
入ってきたのは恐らく幸村と同じくらいの年であろう少女だった。その身に纏う服も、和服ではない。
この者はただ者ではない――そう思い咄嗟に槍を掴もうと手を伸ばしたが、そこには何もない。仕方ないので取り敢えず幸村はその少女の素性を探ることにした。
「某、真田源二郎幸村と申す者!貴殿はどなたでござろうか?」
「私?私は宮野黎凪。貴方にとっては初めましてかなー」
「…某にとっては?」

「私は貴方のこと知ってるよ、真田の大将?」

 【もうお前を離さない】

「ななっ何故?!貴殿は信州もしくは甲斐の方でござるか?!」
「いや、私は東京生まれの東京育ち」
「と…?」
「あ、ごめん間違えた。幸村の世界では江戸の出だよ」
「江戸?!…して、某の世界では、とは一体…?ここはどこでござるか?」
幸村がそう問うと、宮野は少し迷う素振りを見せながら幸村の前に座った。手には本が握られている。
「…真田幸村。私が何をいっても大声を出さないでね。今真夜中だから」
「…?分かり申した」
そう念を押され、幸村はよく分からないまま承諾した。宮野は幸村の言葉を聞くと、手のなかの本を差しだした。
「こ、これは政宗殿にそっくりな…」
「伊達政宗その人だよ、その絵は」
「はっ?!」
「中を開けてみて」
「?」
促されて幸村は本を捲る。そして、目を見開いた。
「これは…!御館様が倒れる前の出来事でござる!」

「その本の通り、真田幸村。あなたの世界は、私の世界では物語に過ぎないんだ」

宮野の言葉に、幸村は目を限界まで見開き、ぽとりと本を取り落とした。どうやら衝撃のあまり、声は出ないらしい。
幸村はしばらくそのまま固まったあと、ぎこちない動きで宮野を見た。
「…どうやったら帰れるのでござろうか」
「解らない。私もバイト終わって帰ってきて、その帰り道に貴方拾っただけだから、いつから貴方が居たのかも知らない」
「そ、そうでござるか…かたじけのうござる」
幸村の言葉に宮野はすまなさそうに玉を軽く下げ、どこにおいてあったのか盆を取り出した。
「きつねうどん。作ったんだけど食べる?」
「はっ?」
「いや、お腹すいてないかと思って。それに怪我もしてたし?」
そう宮野に指摘されて初めて、幸村は自分の体が手当てされていることに気が付いた。
幸村はありがとうございまする、と呟いて盆を受け取った。
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