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もうお前を離さない7

包帯を取り替え、布団に寝かされる。宮野はその幸村に背を向けて机に向かっていた。
サラサラ、と宮野が何かを動かす音しか、しない。幸村は静かに起き上がった。
「宮野殿」
「殿なんていいってば。どうしたー?」
静かだったためか、前触れなく話し掛けても宮野は驚かなかった。
「…貴殿のお気持ちは分かり申した。だが、漢としてまた一武士として、ただ女子に甘える訳にはいきもうさぬ」
「…律儀だなぁ。言ったじゃん、私の自分勝手だって」
「貴殿の自分勝手だとはいえ、貴殿の生活に支障をきたしているのは事実でござる。…財政にも」
幸村の言葉にぴくりと宮野の体が揺れる。
やはりか、と幸村は軽く目を伏せた。
「…痛いところ突くなぁもー。でも、本当に気にしないでいいよ。大丈夫だから」
「納得出来ませぬ!何がどう大丈夫なのでござるか!」
「いやだってさぁ…。…じゃあさ、怪我治ってもしばらく一緒に居てくれる?」
「…は?」
「一人暮らしは寂しいんだよねー。同じ部屋に誰かいた方がありがたい。それでいいっしょ?」
「…。…!!そっ某は男でござるぞ!!」
「破廉恥奉行な幸村は女の体には興味ないでしょ」
「狽ネんでござるか破廉恥奉行とは?!」
宮野は幸村の反応に笑いながら幸村を振り返った。人工的に明るくされているらしい部屋で見る宮野の顔は、酷くやつれていた。目の下の隈も、はっきりと見える。
幸村はそんな宮野の顔を見て、再び目を伏せた。
「…できませぬ。…これ以上の無理は、宮野殿のお体にも厳しいでござろう」
「…。…幸村はここを出てそれでどうするの?」
「どうすると…「行くあてもないこの世界がどんなのかも分からないなのに出ていくというの?」…女子に!見ず知らずの女子に!迷惑はかけられませぬ!」
「ぶぁっかじゃないの!!!!」
「はぁ?!」
馬鹿と言われ、幸村は戸惑う。宮野はどうやら怒っているようだ。手に持っていた物を乱暴に机に叩きつけ、幸村の顔を乱暴に挟んだ。髪が引っ張られる痛みに、幸村は僅かに顔をしかめたが今はそれより宮野の顔が近すぎて慌てた。
「ちっ近いでござるよ!」
「幸村は甲斐・武田の為には私を殺せるんじゃないの!?というか、西軍の為には殺せないのか?!」
「は…?何を申される…?」
「幸村。アンタがいなくなったら武田軍はどうなる!!戦力を欠いた西軍は?!」
「ッ!!」
あまり宮野の前では考えないようにしていた事を指摘され、幸村は詰まる。宮野はその幸村に気付いているのかいないのか、乱暴に幸村の頭を振る。
「アンタがいなくなったせいで西軍が負けたなんて事になったら、生きにくくなるのは武田の兵なんだぞ!!それでもいいのかよ!!武田信玄や石田三成を裏切る形にもなるんだぞ!信玄さんはともかく、三成さん裏切ると大谷さん怖いぞ!」
「あ、あまり揺らさないでくだされぇぇっ!それに何故大谷殿ががが?!」
「だって大谷さんは三成のオカンだろ?」
「?!大谷殿は女ではないでござるよ?!」
「ってそんなことはどうでもいい!うん、落ち着け俺…。…幸村は如何な恩義を受けた人間であれ、甲斐・武田の脅威となるものは排除する、って自分で言ってたじゃんか。それは武田信玄や彼に託された武田の者達の為だろう?それ程の意志があるのに、なぜどんな手を使ってでも元の世界に帰ろうと思わない?何を犠牲にしても、武田の人間達の為に、元の世界に帰る為になら、やってみせると、思ってないのか…?」
「あ、あれは…!…っされど…某はどうやってここに来たのさえ、分からないのでござるよ…」
「じゃあ諦めるのか?」
「ッ!」

諦め。幸村は若干それを感じていた。
あまりに違いすぎる世界。自分のいる世界とはかけ離れた、世界。そんな世界に来てしまった自分。
帰れると思えと言うほうが、無理な話だ。

「…某は…ッ」
幸村は真っすぐすぎる言葉をぶつけてくる宮野に言い返せず、唇を噛んだ。
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