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もうお前を離さない8

「帰りたいでござるよ…否、某は帰らねばならぬッ!されど、この状況下、いかにそんな希望を持てと言うのでござるか!」
「諦めちゃったら全ておしまいだろ!」
「仮に宮野殿が某と同じ状況だったら諦めないでいられるのでござるか?!」
「!」
初めて宮野が詰まった。幸村の頭を振る手を止め、目を逸らした。
「…。そもそもそんな感情を抱かない」
「!」
「…、私に…私には、幸村のように守るものも、この世界で成すべき事成さねばならぬ事も何もない。…諦める諦めないの前に、帰りたいと思わないかもしれない。…この世界に…生き抜くことに…興味はない」
「な…ッ」
「幸村、私と違って貴方には貴方を必要とする人がたくさんいるだろう?その者達の為に、貴方はなんとしても帰るべきだ。…それまでは私を利用するくらいの意気は見せてくれ」
「宮野殿…」
「あんたは大将だろう?来る道があるなら帰る道も必ずある。可能性が無きに等しくても、諦めないで希望を持つんだ。…分かったら、もうここを出てくなんて自殺行為はするなよ」
ぱっ、と宮野は幸村の顔を離し、再び背を向けた。
「…………」
幸村は石田三成並に自分や周りに興味がない宮野に呆然としていた。
否、石田が興味がない理由ならば分かる。自分が神と崇める者の為に全てを尽くす、それが石田が自分に興味を持たない理由だ。だから宮野と石田のそれは大分違う。
宮野がそこまで興味を持たない理由は、何なのだろうか。
幸村には分からず、かと言って聞くこともできず。ただ、布団にその身を横たえる事しか出来なかった。
だが
「…宮野殿」
「なにー」
「…宮野殿の言葉で、目が覚めた気がしまする。見ず知らずの所へ来て、怯えていたのかもしれませぬ。宮野殿のおかげで、まだ諦めずにいれそうでござる。頭では分かっていても、恐怖が勝っていたのでござろう。宮野殿の言う通り、探せば帰り道が見つかるやもしれませぬ。…ありがとうございもうした」
「いやいやいやいやお礼を言われるような事は言ってないよ?…幸村が簡単に諦めるのがらしくないからああ言っただけさ」
「…そうでござるか」
自分に興味がない宮野は、その分他人に随分と優しいようだ。先の説教も幸村を励ますためのものだったようであるし、何より、幸村が今言われたい言葉を言ってきた。

諦めないで、希望を持て。

誰かに言ってもらわねば、分かっていても実行出来なかっただろう。
「(変わった…女子でござる。いとも簡単に、人の心に入り持ち上げてくれる…。何故なのだろうか…)」
幸村はそっと、胸の内で呟き目を伏せた。


数分後、聞こえてきた寝息に宮野は幸村を振り返った。
「…寝たか。さぁてと、バイト休みになっちゃったし何するかな…。宿題も終わって他のバイトも入る所なかったしなぁ。…私も寝るかぁ、まだ5時だけど」
宮野は一人でそう呟いた後、座っていた座布団を半分に折り畳み、クローゼットもなしている押し入れから冬用のコートを取り出した。
座布団を折り畳んだ上に頭を乗せ、コートを上からかけて足を丸め、即席の布団を作り出すとすぐさま宮野も眠りについた。
「…おやすみなさい、真田幸村」
そう、呟いてから。



それから数時間後。目を覚ました幸村は叫びだしそうになって慌てて口をふさいだ。
「み、みみみみ、みやややののどのの…」
「ん…?あ、完全寝てた…幸村おは…あら」
「かかかかか顔ががちちかいいいでござぁぁぁあぁぁ!」
いつの間にか、宮野が幸村の布団に入り込んでいたらしい。幸村の顔は真っ赤だ。
「ごめんごめん。隣で寝たはずだけど寒かったからか寝相が悪かったからか…あーでも暖かい」
「はははれんちなりぃぃぃぃぃいぃぃ…」
「冗談だって」
宮野はそんな幸村の反応に肩を震わせて笑っていた。
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