2010-11-29 07:01
「今なんと?」
「!こいつ、母親と兄貴殺したんだよ!」
幸村に話し掛けてもらえたから調子に乗ったのか――女子達はわいわいと騒ぎ始める。
「一度は捕まったのに証拠がないから罰を逃れた卑怯者なんですよ!知らなかったんですか?」
「それなのにぬけぬけとまだ学校来やがってさ」
「ちょっと!黎凪はそんな事してないよ!」
「そうだよ!黎凪ちゃんそんな事する人じゃない!」
「でも母親の事も兄貴の事も嫌いだったらしいじゃん?」
「つか父親が最初に言いだしたんなら間違いなくね?」
「本当、一見大人しそうな面してるくせに怖いよねー。いつ刺されるか分かりゃしないじゃん?しかも筆箱にカッター入れてんだよ?」
「何それ、次のターゲット待ちみたいな?」
谷沢と岩井は宮野を庇っていたが、女子達は気にも止めない。宮野は振り返らず、立ち止まっている。その手は微かに震えていた。
「ッ…!…?!」
幸村は宮野を振り返った後、口を開こうとした伊達を手で制して静かに口を開いた。
「嫌いだったら殺すのか」
「…え?」
不意に出された幸村の言葉に、女子達は話すのをやめた。幸村はただ淡々と、普段の暑苦しさはどうしたと聞きたくなる程静かに言葉を紡いだ。
「嫌いだろうがなんだろうが黎凪殿の家族に変わりはない。黎凪殿は自分より他者を優先させるような人間だ。そんな人間が他者を、それも家族を殺すか?」
「な、何急に」
「父親が言ったらそれは正しいのか?」
「一番近くにいた奴が言ったらそうじゃん!」
「大切な人間を失った直後の人間に、正常な思考など働くわけないだろう」
「な…なんなのさ!アンタその殺人鬼の肩持つの?!」
「黎凪殿は殺人鬼などではない」
「それこそ証拠はあるのかよ!」
「証拠などない。俺は見ていないからな。だが確かに言えることはある。黎凪殿は感情で人間を殺すような人間ではない」
「はぁ?意味不明ー」
ぎゃはは、とついに女子は笑い始めた。幸村はそんな彼女達に刮目した。
「…何がそんなに面白い…」
「…っ何…」
ぎち、と幸村の握り締められた拳から音がなる。力の入れすぎで腕が僅かに震えている。女子達は幸村の怒りように再び黙った。
「許せぬ…!何故このような世界で家族を殺すなどと思う!!その考えが俺には理解できぬ!」
「だ、だって父親が」
「何故黎凪殿を見ようとせずに他者の言葉ばかり信じるのでござるか!」
「ご、ござる?!」
「父親の言うことは信じて、何故黎凪殿の言葉は信じないのでござるか!」
「…っだって…」
「もういい!!!!」
宮野の大声が校門に響き渡った。幸村は驚いて振り返る。宮野はいつの間にか振り向いていた。伊達はいない。
「あの男の言葉を信じたければ信じればいい!そしてそうやって私を嫌えばいい!私はなんと言われようともうどうでもいい!幸村も、うるさい!」
「う…うるさい?!」
「もう行くぞ!」
「れっ、黎凪殿っ!」
宮野はかなり怒っていた。おそらく伊達はそれを察していたの
だろう、先に車に乗って待っていて、二人が来ると同時に車を出させた。後にはただ、呆然とした女子達だけが残った。
「…申し訳ござらぬ黎凪殿」
「何が」
「また迷惑をかけてしまったでござる…」
伊達の車はよくドラマなどでお金持ちが乗っているようなタイプの車で、後部座席と運転・助手席が完全に遮断されている車だった。
その後部座席に、宮野と幸村は向かい合って座っていた。
「…別に幸村の行動に怒ってるわけじゃない。寧ろ、ああ言ってくれたのは嬉しい。…でももう、面倒はごめんなんだ」
「黎凪殿…」
「ぎゃあぎゃあうるさいだけの女子とは仲良くなりたいとも思わないしね」
「…。それでも某は許せませぬ」
幸村は膝の上で拳を作った。