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Not revolved transmigration 2



『真田』

一度として忘れたことのない、愛した者の声が鼓膜を震わす。
振り返れば目に入る美しい月のように輝く銀の髪。
『行くぞ。だが死ぬ事は許さない』
『はっっ!!お誓い致しまする、三成殿!』
そう返せば、口元に僅かに浮かぶ笑み。

真田は、その石田三成の笑みを、何よりも守りたかった。



 「………………」
真田は混乱する頭を何とか落ち着かせようと頭を抱えていた。

間違いなく、職員室で見た教師はかつて己が愛した武士、石田三成だった。それは間違いようがない。
ちら、と徳川の方を見れば、席に着いたままぴくりとも動かない。
―――無理もなかろう
―――戦国の世で三成殿を殺したのは………徳川殿なのだから
真田はそう心の中で呟き、目を伏せた。

「静かにしろ。そして席に着け」

騒がしい教室内に凛と響いた声にびくっ、と真田の肩が跳ねた。
ばっ、と勢いよく頭をあげれば、いつの間にか教壇にあの教師の姿があった。
生徒が皆席に着いたのを確認すると、彼はおもむろに口を開いた。
「私の名は石田三成。産休に入られた前田まつ先生に代わり、このクラスの数学を担当する。何か質問はあるか」
簡潔明朗な自己紹介に生徒はぽかんと石田を見上げた。
そんな中、すっ、と伊達が手を挙げた。
「Hey,teacher.家康がアンタの髪、タイプだってよ」
「まっ?!政宗!?」
かぁ、と徳川の顔が赤くなる。そしてクラス中からひゅーひゅーと冷やかしの声が上がる。
それに対して、石田は眉間を寄せただけだった。
「…伊達政宗。貴様はありがた迷惑という言葉を知っているか」
「あぁ?」
「頼まれた訳でもないのに他人の内情を口にするな。貴様が今、口にした事がまだ明かしたくない気持ちだったらどうする。軽々しくそんな事を言うな」
「…アンタ、言ってくれるじゃねぇか」
伊達の目に物騒な色が宿る。伊達は教師に反発しなかった事のない、所謂不良だった。思わず竦みそうな目付きでぎろりと石田を睨んだが、石田は全く動じなかった。
「言い分があるなら後で聞いてやる」
「なんだ…逃げんのか?」
「私は逃げも隠れもしない。しかし教師としてこれ以上授業の時間を私事に使う訳にはいかないだけだ。言い足りないのならば職員室に来い。待っている」
「…!」
石田の思わぬ言葉に伊達はぽかん、と石田を見つめた。クラスメイトも伊達に物怖じせずそう言い返した石田にぽかんとしている。
「出席を取るぞ」
石田は気にせず名簿を開いた。
「……?」
この時真田は、ある事に気が付いた。
―――何も、反応しない
石田は今、確かに名簿を見ている。だが徳川や真田、そして伊達の名前を見ているはずなのに反応しない。
―――政宗殿にはかつての記憶がない。まさか、三成殿も……っ?!
「欠席はいないな。では始めるぞ。まつ先生は空間ベクトルに入る前で終わっているな。空間ベクトルに入る。教科書を開け」
石田は真田にも徳川にも見向きしないまま名簿を閉じ、黒板に向き直ってしまった。何人かの女子が小声でかっこいい、などと騒いでいたが、真田は半ば呆然と石田を見ることしか出来なかった。
「…?…、真田幸村」
「……っは?!」
そんな視線に気が付いたのか、ふと我に返ると石田が己を見ており、真田は思わず裏返った声を上げてしまった。
「何をぼんやりしている。体調でも悪いのか?そうであるならば無理はするな」
表情は変わらないまま、しかしすらすらと出た言葉はかつての彼からは想像出来ないような優しい言葉。真田はふるふると首を横に振り、大丈夫でござる、と小さい声で返した。
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