オカントリオの奇妙な旅路41

半蔵は吉継が了承したのを確認するとひゅ、と風を切る音をさせて姿を消した。
吉継はふぅ、と息をつき、ぽすんと坂になっている地面に体を横たえた。腿には小十郎の頭、右腕には佐助の頭がある。
吉継は首を横に向け、斜め向きに空を見上げる。
「…まぁ慣れたとはいえ、痛く熱いことに違いはないがの」
ぴと、と左の手の甲を額に当てる。手はまだ冷たく、ひやりとした。吉継はまた、ふぅ、と息をついた。
ごそ、と小十郎が動く気配がする。
「…涼しい……ここ、は…」
「やれ、起きやったか」
「…大谷……?」
小十郎の頭が吉継の方を向いた。吉継は首を動かして小十郎を見る。小十郎は熱のせいか、ぼぅっとした顔をしていた。
「ここは…?」
「橋の下よ。松永はあっさり諦めたようよ」
「!…すまねぇ、な……」
「謝るような事ではなし、気にしやるな」
「…猿飛は?」
「勝手に我の腕を枕に寝ておるわ」
そうか、と小十郎はほっとしたように呟き、そのままふ、と目を閉じまた意識を飛ばしてしまった。
吉継はやれやれ、とため息をつく。そしてまた視線を空に戻した。
「…忌々しい夜空よな。しかし」
吉継はす、と左手をあげ、目の前にかざした。綺麗な、傷のない手に、ふ、とどこか嬉しそうに笑う。
「この姿に一度戻ることが出来たは…少しばかり嬉しいことよな……」
吉継はそう言うと、ぼんやりする意識を保てず、そのまま眠った。




 翌日。
「………っは!」
小十郎は不意に目を覚まし、がばりと起き上がった。体が僅かに重く、ぐらりと上体を揺らす。
「起きやったか」
数刻前に聞いたのと同じ言葉、だが聞きなれぬ声に小十郎はぎょっとしたようにそちらを振り返った。
そこには顔を布で隠し、腕に包帯を巻いている男がいた。包帯が巻かれていない腕を、小十郎には見えないように体の影へと隠しながら巻き続けている。
小十郎はしばらくぽかんとした後、はっ、と自分の体を見下ろした。

元に、戻っている。

「体が!」
「そうよ」
「この着物は」
「主の所の忍よ。先に起きた武田の忍と今、抜ける道を探しに行っているわ」
「…そうか」
小十郎はふぅ、とどこかほっとしたように息を吐き出した。吉継は歯を使って包帯の裾をきゅ、と結んだ。
小十郎は思い出したように吉継を振り返った。
「…お前、今はそんな姿なんだな」
「ヒヒッ、醜かろ?」
「いや、そんなことは…だがそれで歩けるのか?」
「歩けぬが、こちらの力は元に戻った故な」
こちらはどう用意したのか、吉継は座っていた座布団をふわりと浮かせた。そうか、と小十郎は不思議そうにその姿を見ながら頷いた。