オカントリオの奇妙な旅路40

小十郎はすぐに見つかった。だが意識を失ったままだった。
吉継は小さくため息をつき、小十郎を抱え起こした。ぐらり、と垂れた頭を自分の腕で支える。なかなか目を覚ます気配のない小十郎に眉間を寄せ、首筋に手を添える。
「…死んではおらぬな」
よくよく観察すれば、ぜぇぜぇと荒い息をしていて、体も熱を持っている。別れる時まで体調が悪いようには見えなかった。
ということは。
「…我やあれより早く始まったということか?」
吉継は顔をしかめ、早々にその場を去ろうと小十郎を背中に背負って小屋を出た。

 「…っ、と」
久秀の起こした爆発を跳躍して避けた佐助はちらり、と狼煙を確認する。黄色い狼煙は上がっていない。
佐助は半蔵に視線を飛ばし、合図をする。
「どうかしたかね」
「俺様もさぁ、時間ないからさ?」
「…なるほどこちらは釣りというわけか」
佐助の大型手裏剣と久秀の刀が交差して音を立てる。佐助は久秀の言葉にニヤ、と笑う。
「ごめんね、ちょっとそろそろまずいんだわ」
「…成程元の姿に戻る目処がついたというわけか」
「察しがよくて助かるよ。残念だったね」
佐助は久秀の刀を弾き、後ろに下がって距離を取る。ひゅんひゅん、と手裏剣を回す。
半蔵も他の忍を倒し、佐助の隣に移動する。
「そゆことで」
「元の姿に戻ってしまうのならばあまり用はないな」
「ほんっと、察しがよくて助かるわ。じゃね」
佐助はわざとらしくそう言うと半蔵と共に姿を消した。久秀はそれを追いかけはしなかった。


 「ちと遅かったな」
「橋の下とはまぁ、定番だよねぇ」
先に今日の夜を越す場所、とある川にかかる橋の下で三人は合流した。
小十郎はまだ目を覚まさず、熱にうなされたような状態で、吉継のももを枕に横になっていた。半蔵はぎょっとしたように小十郎に近寄る。
「小十郎様…っ?」
「…右目の旦那どしたの」
「見つけた時からこのざまよ。恐らくだが最上との距離を考えてもこやつが最初に小さくなったのであろ」
「……なるほど、ね」
「!」
佐助がふら、と体を揺らしがくりと膝をついた。ついで倒れそうになる上体をを、吉継が表情を変えないまま腕を突き出し支える。
吉継はふぅ、と息をついた。
「二番手がぬし、最後が我であろ」
「…体あっつ…大谷の旦那よく平気だね…」
「…ヒヒッ、我は元の病床の身体に戻るだけゆえ。この程度の熱と痛みとうに慣れておるわ」
「…なるほどねぇ……」
佐助は相当痛むのか、そのままずるずるとその場に倒れた。半蔵は若干焦ったように吉継を見る。
「おい、大丈夫なのか」
「縮んだ最初とは違って大きくなるのよ、身体が痛むのは仕方なかろ。さて、こうなると元の体の大きさの服を用意せねばな」
「…それなら俺が」
「ほぅ?」
「代わりに、あんたには小十郎様をお預けしたい」
「等価交換というわけか?忍の分際で大したものよ」
きらり、と吉継の目が物騒な光を宿したが、吉継は案外あっさりそれを了承した。