オカントリオの奇妙な旅路39

「大丈夫か?」
「…ちょーっとそろそろやばいかもね」
「…そうよな」
痛む頻度があがり、長さも長くなっている。骨が内より体を押す痛み。異常な成長痛だ。
吉継はそれに踏まえ、病の兆候も出始めている。吉継は肩をぐ、と押さえた。
がさっ、と音がして半蔵も合流する。佐助はじゃきん、と音をさせて手裏剣を開いた。
「俺様と半蔵さんで松永とその手先の気を引く。その隙に大谷の旦那は右目の旦那助けといて。時間は」
佐助は半蔵から渡された筒に火をつける。
シュウッ、と乾いた音を立てて、薄い黒い煙が頭上にあがる。日が沈んでいるため、注意してみないと分からない。
「この煙が消えるまで。…非常事態にはこの黄色いやつを大谷の旦那があげる。いい?」
「うむ、問題ない」
ひょい、と投げ渡されたそれをぱしりとキャッチする。佐助と半蔵は顔を見合わせると頷きあい、静かに姿を消した。
吉継は渡された筒を懐にしまうと、小十郎のいる小屋が見えるところに陣取った。


 「…!」
風を切る音に、小屋に続く道の傍らに立っていた久秀はぴくりと瞼を動かし、振り返りざまに振り抜いた刀で飛んできたそれを弾いた。
かんっ、と音を立てて苦無が力をなくしたように地面に落ちる。その音に、ざわざわと木が音をたて、数人の忍と思しき人影が現れた。
久秀はにやり、と笑う。
「やぁ御機嫌よう。武田の忍と…独眼竜の所の忍かね?」
「さぁーすが、もうお見通しってわけ?」
奇襲に失敗したー元から成功させる気はなかったようだがー佐助と半蔵は久秀の前に姿を見せた。ひゅるるるる、とヨーヨーのように大型手裏剣を回し、佐助はにこ、と笑う。
「帰ってくんなァい?あんたにあげられるものなんか、今の俺様達にはねぇのさ」
「成程今回の旅で卿らは一種の絆のようなものを築いてしまったというわけかね」
「絆?そいつは違うなぁ」
佐助は仰々しく肩をすくめ、にやりとした、どこか意地の悪い笑みを浮かべた。久秀は表情を変えずに佐助に先を促す。
「俺様達は持ちつ持たれつ、利用しつつ利用されつつ、そういう関係さ。わざわざ助けようなんてするのは、今回の活動で劣る点を作らないためさ」
「要するに借りを作りたくない、と?」
「まァそゆことだね。そうしたもんは俺様達の最大の弱点になるからさぁ?」
「ふ、なるほどね」
久秀は何か面白かったのか、くく、と笑った。佐助もにこにことした笑みを浮かべたまま、だが少しも笑っていない目で久秀を見据え、大型手裏剣を構えた。
「右目の旦那、返してもらうよっ!」
佐助のその言葉を合図に、佐助と半蔵は強く地面を蹴った。

 「…っ、と」
同じ頃吉継は残っていた忍を叩き伏したところだった。気絶している事を確認し、よっこらせ、と立ち上がる。
「さぁて、早に連れ出すとしよ」
からり、と慎重に戸を開ければ、板張りの床に転がっている小十郎が目に入る。
数珠をなかに飛ばし、他の気配がないことを確認すると、吉継はするりと小屋の中に入り小十郎に近付いた。