オカントリオの奇妙な旅路38

ひたり、と手袋を外した久秀の手が小十郎の額に触れる。老齢のそれは小十郎にはひやりと冷たく、ぞくり、と鳥肌がたつ。
久秀はふむ、と小さく呟いた。
「……別に熱があるだとかそういう事はなさそうだ」
「…テメェには関係ねぇ」
「そうにも行かないよ、卿をどうしようかまだ決めていないからね」
「……ッ」
小十郎はあっかんべーをするように、んべ、と舌を出す。久秀は僅かに驚いたように小十郎を見た後、ふ、と薄く笑った。
「なるほど反抗できる元気はあるらしい。ならば別にいいな」
「………」
「それに、もうじき卿の仲間が来るであろうしな」
「!」
ぎし、と小さく音を立てて久秀が立ち上がった。外した左の手袋を再びはめ、置いていた刀も腰に下げる。
小十郎はもそもそと動いて久秀の方へ体を向けた。
「どうするつもりだ…っ!」
「どうもなにも、私がやりたいようにやるだけだ」
「てめぇ、」
「彼らは卿にとって敵だろう?何故そのように焦るのかね」
「ッ!」
久秀の嫌味に小十郎は眉間を寄せる。久秀はそんな小十郎に対して楽しそうに笑む。
「悪いようにはしないよ」
「信用できるか!行かせねぇぞ!」
「そのざまでかね?」
「っ、」
「そこで大人しくしていたまえ、少なくとも今の卿に出来ることはないよ」
久秀はそう言い捨てるように言うと小十郎を一人残して小屋から出ていった。
小十郎は小さく舌打ちをして、縄を解こうともがく。
だが。
「ぐっ…!う、あ……っ」
ずきり、ときた痛みに思わず呻いて体を丸める。ずきずきと身体中が内から圧迫されるように痛む。
「…こっ…な、時…に……っ」
小十郎はずきずきと痛む身体に、いつの間にか意識を失ってしまった。



 「………あそこか」
同じ頃、久秀が小屋から出てくるところを吉継が目撃していた。3人は三手に分かれ、小十郎が攫われた先を探していた。たまたま当たったのは吉継だったようだ。
距離が離れているからか、久秀は吉継に気がついていない。吉継は音を立てないように静かにその場を離れた。
 久秀の姿が完全に見えない辺りに来て、吉継はきょろきょろと辺りを見回す。
「………ここいらでよかろ」
そう小さく呟いて、佐助に渡された小さな笛を口にくわえ、ぴぃー、と長く吹いた。
少しして、がさっ、と木が音を立てる。佐助だ。吉継は感心したように佐助を見た。
「流石に速いの」
「いた?」
「松永が出てくるところを見た。おそらくそこであろ」
「…っ、と。右目の旦那大丈夫かな」
佐助はたんっ、と軽やかに着地した後、不意にふらりとよろめき、軽く胸元を抑えた。