もうお前を離さない363

『毛利様はなぁ、一見冷酷な暴君みたいに見えるけどその実徹底的な合理主義者なんだよ!捨て駒の使い道をしっかり把握してる、つまりは誰よりも自軍を知ってるお方なんだよ!』
「…!」
『アニメでは悪役扱いされてたけどなぁ、一番勝利に近いのは毛利様の采配なんだぞ!捨て駒がなんだ!捨て駒にするのは敵の同情を誘ってもしも億が一負けた場合、兵の命を助けるためかもしれないだろ!』
「…ッ!」
『万が一じゃないのかい』
ぴくり、と毛利の指が跳ねた。
『俺だったら勝てるかも分からん兄貴的存在な大らかな人についていくより確実な毛利様を選ぶ!よく考えろよ、もし戦争になったらお前ら、長曾我部とかに大将になってほしいか?!』
『…確かに、毛利は領主としてはよく出来た人だよね。実際戦になって負けたら、生きてく糧を得られないし』
『だろ?さすが漓帆分かってる!あー!マジで捨て駒になりたい!』
『ちょ、止めてそういう事言うの引く』
『つかゲームの話なんだからリアルを持ち込むなよ!』
『喧しいわ!焼け焦げろ!』
「…でした!長々とすいません」
ぷ、と村越はそこでウォークマンを止めた。長曾我部は僅かに表情を曇らせた後、ちら、と毛利を見た。
毛利は何も言わずに目を伏せていた。
「…斯様な者は捨て駒には向かぬ」
「あ、光美フラれた」
「まぁでも、光美が言ってる事、外れてはいないみたいですね。毛利殿否定しないし」
「…!!ま、待て!斯様な事は…!」
「そういう割には顔が赤いではないか同胞。ヒヒヒッ」
「お…大谷貴様…!」
「……悪ィが少し抜けるぜ」
長曾我部はそう言うと席を起った。徳川ははっ、としてそんな長曾我部の後を追った。
「はい、次いってみよー」
宮野は周りの様子を見て、にっ、と笑うと再び筒を差し出した。


 「元親!」
「!家康…」
少し離れた場所で頭をわしわしと頭をかいていた長曾我部は、徳川の言葉に驚いたように徳川を振り返った。
徳川は徳利と盃2つを持ち上げ、にこりと笑った。
「少し話さないか?」
「……、おぅ」
長曾我部は困ったように笑うとその場に座った。徳川もその隣に座り、盃を差し出した。
「さっきの、気にしてるのか?」
「…少しな。あんな毛利の顔は見たことねぇし、あぁいう見方はした事もなかったしよ……」
「気にする事はないさ。人の見方は人それぞれだ。お前の見方が間違っているとか、彼女の見方が正しいとか、そんな事はない。ただ、彼女の見方も正しいと感じたなら、次からそう見ればいいのさ」
「…家康…お前、少し変わったか?」
長曾我部は徳川の言葉に僅かに驚いたように徳川を見た。
徳川はきょとんと首を傾げる。
「ん?そう思うか?」
「いや、そういう風に言うとは思わなかったからよ…」
「はははっ、そうか。ワシも宮野殿に会って、何か変わったかもしれんな」
「…宮野、ねぇ…。あの姫さんは一体何なんだ?この世界の奴じゃないらしいが…」
「ワシも詳しくは知らん。ただ、…この今は、彼女達無しでは為しえなかった。そう思うよ」
「…確かにな。村越とかいう姫さんがいなかったら、石田も許そうなんて考えなかっただろうしよ」
「……あぁ。…複雑な気持ちになるよ」
「家康……」
「だけどワシは後悔しない。…宮野殿は、わざわざここの為に己を世界を捨ててきてくれたんだ。それに報いるだけの泰平の世を、ワシ等の手で築いていこう!」
「!……、そうだな、家康」
長曾我部はにっ、と笑うと徳川と盃を合わせた。