もうお前を離さない332

「どういう事だ三成…ッ?!」
「貴様などに誰が懇切丁寧に説明などするか!貴様はまたしても私から奪った、それだけだッッ!!」
石田は徳川の首目がけて刀を振るった。徳川はそれを小手で受け、反対の拳を振り上げる。
石田は数歩後ろに下がると地面に刀を突き刺し、勢い良く刀を振り上げた。斬撃が徳川目がけ飛んでいき、徳川はそれを避けて石田との距離を縮めた。
「私が貴様に何をした!!私からあらゆるものを奪った者が、絆の何を説く!一番その言葉を口にしながら最も理解していないのは貴様だ家康ぅぅぅ!!」
「三成!ワシを憎むのはいい!!だが憎しみで戦うな!」
「知ったような口を効くな!貴様に私の何が分かる?!」
「分かっている!お前は…哀しくて美しい!!」
「意味不明だ!!」
石田はそう叫ぶと均衡していた刀を引き鞘を口でくわえると、刀を両手で持って体ごと回って徳川に斬り掛かった。徳川は慌てて後ろに跳躍して避けた。
石田は刀に鞘に納めると勢い良く地面を蹴った。徳川は未だに涙を流し続けている石田の目を見た。
「ワシはお前に憧れていた!お前の、その一途な迄の想いと、磨き澄まされた強さに!!一途に誰かを想うことをできるお前なら、誰よりも強い絆を築けるだろうと!!」
「絆絆と何度口にすれば気が済む!!私が秀吉様に向ける想いは絆などではないッ!!秀吉様の存在は、私が生きる全てだったッ!!あの方がいてこそ、私は生きる意味があったのだ!!」
「何を言う!お前は誰の為でもない…自分の為に生きろ!!」
「黙れ!!他者の為に生きる事が悪いとでもいうのか。ならば貴様はどうなのだ家康ぅ!!貴様は今、自分の為に生きているのか?!」
「!!」
石田の言葉に徳川ははっ、となった。石田は徳川から一旦距離を取ると流れる涙を忌々しげに拭い、鞘に納めた刀の柄頭を徳川に向けた。
「答えろ家康!!」
「ワシ、は…ッ」
――そういう考えはそうでもしなければ生きていけない人を否定するのと同じだ
言った後で宮野に言われた言葉を思い出した。
そしてはた、と気が付いた。自分は自分の為に生きていない、と。
詰まった徳川を石田は嘲るように笑った。
「何を戸惑っている?貴様は他者の為に生きる事は間違いだと言ったッッ!!貴様は今、己の為に生きているのだろう?!貴様は他者の事など何も考えていない!貴様は貴様の為に秀吉様を殺したのだ!!」
「それは違う!!」
「何が違う?!違うと言うならば、貴様の言葉は矛盾している!」
「…ッワシは…」
「………何だ貴様は…この期に及んで何を迷っている?!」
石田の怒鳴り声に徳川は俯いていた顔を上げた。
「違う!ワシはワシの為に秀吉公を殺したのではない!この国に生きる、全ての民の為だ!!だがワシはワシの為に生きている!!ワシの夢を成す為に!!」
「何が夢だ!貴様は己の野望を、夢という言葉で飾り立てているだけだ!!」
「三成!!ワシは!!」
「貴様を一度でも許そうなどと考えた私が愚かだった!!」
「……えっ…?」
唐突に石田の口から飛び出した言葉に徳川は驚いた。石田は無意識の発言だったのか、気にする事無く徳川を睨み続けている。
「やはり貴様だけは許さない!!例え世界が貴様を許そうと、私は貴様を許さない!!貴様の罪を!!私は決して許しはしない!!」
石田はそう叫ぶと勢い良く地面を蹴った。一瞬で縮まった間合いに徳川ははっと我に返り石田の刀を受けた。
徳川の頭の中は未だに疑問が渦巻いていた。