もうお前を離さない331

「……本気にござる」
「本当か?」
「…尼子殿。貴殿は、戦における勝利とは、何だと思われまするか?」
「は?勝つ事だろうが」
尼子のどこか馬鹿にしたような口調に、真田は目を閉じた。
「某もそう思っており申した。されど、某は、ただ相手に勝つ事が勝利ではない、とある御仁に言われ申した。その勝利は、何も解決しておらぬ。勝ちのようなものでしかないと」
「何?」
尼子は眉間を寄せた。真田は槍を持つ手を見下ろした。
「ならば勝利とは何たるものなのか…ずっと考えておった……。そして某が出した答えが共存にござる。意見、考えが相反する者を説得できる事、そしてその違いを受け入れまた相手にも受け入れられる事、それが勝利であると」
「…!」
「どちらかの破滅でしか決着がつかないのでは、いつまでたっても戦は終わらぬ。そうは思いませぬか」
「…ま、確かにそうだろうが。全員滅べば終わるぜ?」
「貴殿は滅びたいのでござるか?」
「………」
「…某は、真の泰平というものを、一時でいい、作ってみたいのでござる。この国に生きる、全ての民の為に」
真田はそう言って目を上げた。尼子は僅かに驚いたように真田を見ていたが、不意に小さく吹き出した。
「面白い考え方をするんだな、お前は」
「!むぅ」
「行けよ。この陣は俺が守ってやる」
「!」
「お前の意見に賛同するワケじゃねぇが、お前が本気なのは分かった。その上で誰もなしえなかった泰平の世が来るなら面白そうだしな」
尼子はそう言って肩を竦めると真田に背を向けた。真田はその背に頭を下げると、本陣に向かうべく地面を蹴った。



「あれは…まさか金吾?!」
「Oh my...予定が狂ったな」
徳川と伊達からも、西軍本陣の様子はよく見えた。徳川は思わぬ小早川の行動に呆然としていた。
「…東軍に誘ってたんだろ?」
「あぁ…だが一度きりだ」
「…て事は自ら裏切ったってワケか」
「裏切っ……。………ッ独眼竜っ三成だ」
「!」
その時、2人の目に愚者坂目がけ一直線に走ってくる人影が見えた。徳川と伊達、本多そして追い付いていた片倉は静かに身構えた。
だんっ、と一際大きな音が聞こえた後、石田が姿を現した。
石田は徳川を睨み据えると、止まりもせずにそのまま徳川に突っ込んだ。
「いえやすぅぅぅぅぅっ!!」
他の3人には目もくれない。勢い良く振り下ろされた刀を、徳川は腕を交差して受けた。
「?!」
徳川は間近で石田の顔を見て、驚愕に目を見開いた。
石田は、泣いていた。
「貴様ァァァァッ!!どれだけ私から奪えば気が済む?!それ程までに私が憎いかぁぁぁっ!!」
「三成…?!」
勢い良く刀を薙払った石田は直ぐ様二の太刀を放つ。徳川は後ろに下がってそれを避けた。
「三成!お前と話をしにきたんだ!!」
「話に来ただと?貴様と話すことなどないッ!!愚鈍な己に懺悔して死ね!」
再びぶつかった2人。徳川はきっ、と石田の目を見た。
「それでは駄目なんだ!憎しみでは駄目なんだ!!憎しみも憤りも、たった1つの絆が癒す!その力が、天下を纏めるんだ!」
「癒すだと…?」
石田は徳川の言葉にぴくり、と眉を動かした後、俯いたと思ったら不意に小さく笑った。
「三成…?」
「は……はははははッ!!…確かにそうだろうな」
「!!!!」
「だが!その絆さえも奪われた今!!貴様にそんな事を語られるいわれはないッ!!」
「?!」
徳川は混乱しながらも石田の攻撃を弾いた。