もうお前を離さない330

「な?!」
石田は驚愕して振り返った。その内にも二発目が落ちる。
「…村越ッ」
さぁぁ、と石田の顔が青ざめた。
西軍の本陣からは勢い良く炎が上がっている。その熱気が離れた所にいる石田にも分かる程だ。本陣にいた兵士はまず――無事ではないだろう。

西軍の本陣は、呆気なく陥落した。

一気に東軍の士気が高まった。
「……す……いえやす……ぃぃいえやすぅぅぅぅぅっっ!!!!」
石田が、吠えた。周りの東軍兵士は慌てて石田から離れる。
大谷はやれやれ、とため息をついた。
「愚かな者め、徳川が…」
「いぃえぇやぁすぅぅぅ!きぃさぁまぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
石田はそう怒鳴ると地面を蹴った。石田を恐れ、周りの兵士が少なくなっていた為に、乱戦の最中とは思えない程の早さで石田は愚者坂に向かって走っていった。


「な?!」
同じ時、真田は呆然と燃え上がる西軍本陣を見つめていた。
「なんだ?ありゃどっちだ」
「…我が方の本陣にござる……」
「……………。なにっ?!」
「え、え?やばくないか?」
流石の宇都宮も動揺している。真田はぎゅう、と槍を握り締めた。
「黎凪…ッ」
本陣に置いてきた宮野の姿が頭を過った。意識しない内に腕が震え始める。
「おい!真田幸村!」
「は…はっ?」
「さっさと次に行くぞ。東軍方の陣営を落としゃ、戻ってる時間も作れるだろ」
「尼子殿……」
思いがけない尼子の言葉に真田は我に返る。
「真田の大将!」
「!佐助」
そこへ、空から猿飛も姿を見せる。猿飛はぎょっとしたように尼子と宇都宮を見た。
「わぁなんか増えてる!じゃなくて、石田の旦那が」
「!?三成殿が如何いたした?!」
「凄い勢いであの坂に走ってった。多分、あそこに徳川がいる」
「!そうか…ッ。………佐助、俺はこの先にある陣を落とした後、一旦本陣に戻り、小早川の陣へ向かう。反対の陣をお前に任せたい、よいな?」
「了解!……無事だといいね」
「!……そうだな」
猿飛の言葉に目を伏せた後、真田は槍を持ちなおした。
「宇都宮殿は佐助と、尼子殿は某と来てくだされ!」
「ねぇ、そういやなんでいるの?」
「陣の守番をしてくださる。細かい話は後だ!」
「じゃぁ…じゃあな、真田!」
宇都宮と猿飛に背を向け、真田は地面を蹴った。その後ろを尼子がついてくる。
「…おい」
「なんでござろう?」
「お前がさっき言ってた黎凪ってのは誰だ?」
「…………某の嫁にござる」
「?!お前、所帯持ちだったのかよ?!」
「??如何なされた尼子殿」
「……………。なんでもねぇっ」
ぶつぶつ呟いている尼子に一度だけ不思議そうに首を傾げた後、真田は槍を構えた。
「燃えろ緋の珠、螺旋の如くぅぅっ!!」
技を放ち、周りの兵士には目もくれずに駆け抜ける。
陣大将が真田の鬼気迫る勢いに慌て始めた頃には時既に遅し、真田は陣大将の槍を叩き割っていた。
「この陣、武田軍及び尼子軍が占拠する!では、後はお任せいたす」
「おい真田」
「なんでござろう?」
早速本陣に向け走りだそうとしていた真田は、尼子の声に慌てて足を止めた。
尼子はじ、と真田を見つめた。
「宇都宮から誘いの文を貰った時、文にはお前は戦に勝つ事ではなく、戦を収め共存する事を目指してると書いてあった。お前、本気でそんな事目指してるのか?」
「!」
「俺はお前にそれが聞きたくて付き合ってるだけだ」
尼子の言葉に、真田は尼子を振り返った。