貴方も私も人じゃない50

「すっ、すまない!すっかり失念していて…」
「い、いえ、問題ありません」
家康はそう謝りながら慌てて体の目立つところについた返り血を拭った。鎮流はそう言いながらも、視線を僅かに家康から逸らした。
半兵衛は、ふぅ、とため息をつく。
「敵と交渉すると分かっているんだから、少しは身なりに気を使ってくれたまえ。全く君はそういうところが疎くて困るよ」
「はは…申し訳ない」
「鎮流君も、無理することはないよ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「…ふふ。じゃあ行くよ、二人とも」
半兵衛はふ、と笑うと、城へと足を踏み入れていった。


「豊臣軍軍師、竹中半兵衛だ。今回の降伏の申し入れ、感謝するよ」
通された一室で半兵衛を前に、鎮流と家康がそれぞれ後ろに控える形で、敵将と対峙していた。敵将の方は装いこそ整えていたが、流石に疲弊している様子だった。
「…はい」
「じゃあ早々に交渉と行こうか。一応、もうこちらには攻撃の意思はない。君達次第だけれどね」
「……それは、どういう……」
「隣の部屋で殺気も隠さず待機してる子たち。下がらせてくれないかな?」
「…!…………」
「こちらも彼女には武装させているし、君に刀を隠し持つなとは言わない。だけど、こうも囲まれている状況だと君達の真意を疑わざるをえないんだ。分かるだろう?」
「………下がらせろ」
「しっ、しかし…!」
「いいからさっさとしろ!全滅してぇのか!」
「…そこまで気が付かなかった…」
半兵衛の言葉にバタバタと慌てる敵兵に、鎮流はぽつり、と呟いた。その声が聞こえたらしい家康は苦笑を浮かべる。
「気配を探るというのは早々できる事じゃないからなぁ」
「…ということは家康様も気付いていらっしゃった?」
「まぁ…。こういうことはよくあるから…」
「…なるほど」
「……下がらせたぞ」
「うん、ありがとう」
半兵衛は隣室に待機していた兵を下がらせたと報告する将に、にっこりと笑ってみせた。ぶるり、と将の体が震える。
「…さて、そちらの大将の首は確かもう三成君が取っちゃっていたね」
「…あぁ。それで足りないならば他の首も差し出そう」
「まず、そちらの残兵の規模を教えてくれるかな?」
「中隊5、小隊12…自分は第一中隊の隊長だった」
「…間違いないかな?」
「……あぁ」
「…、家康君、三成君に確認してきて」
「ッ!」
将は半兵衛の言葉に僅かに息を呑んだ。家康も驚いたように半兵衛を見る。
鎮流はじ、と将の顔を見つめていた。
「半兵衛殿、」
「念のためだよ、早く」
家康は半兵衛にそう急かされても渋い顔をしていた。将の方も、不愉快そうに顔を歪めていて、ゆったりと腕を組んだ。
「信用していただけないか?」
「んー…「はい」
信用できないのかと威圧する将に、半兵衛がどう答えようかと小さく唸ると、不意にそれを遮るように鎮流が肯定の言葉を口にした。