貴方も私も人じゃない49

「うん、悪くないね。あとは実際にそれをやる時にどうすればいいか、だ」
「はい」
「ところで、君。まだ日は浅いけど、家康君や三成君、大谷君、官兵衛君…彼らの中で、誰が一番当主に向いていると思った?」
「当主に…でございますか」
「うん」
城に向かって歩きながら不意に半兵衛が口にした問に、鎮流はわずかに驚いたように半兵衛を見たあと、僅かに考え込んだ。
官兵衛君、というのはちらりと見かけた、腕に枷をつけられた男、黒田官兵衛のことだろう。彼含め、四人の中でといわれたら。
「……今までの見解で申し上げれば、家康様でしょうか」
「…、そう」
「石田様や大谷様はあまり一番手には向かないお方に見えましたので…どちらも、そう。二番手にあると輝く方」
「この短い間でよく分かったねぇ。あぁでも、あのふたりは分かり易いかな?」
「…どちらかといえば」
「官兵衛君は?」
「黒田官兵衛様は…あの、何故手枷をつけているかにもよります…」
「あはは、そう言えばそうだった」
半兵衛が鎮流の言葉に楽しそうにからからと笑った時、城から家康と三成が出てくるのが見えた。
家康は鎮流を見ると驚いたように目を見開いたが、すぐにふわりとした笑みを浮かべ、軽く手を振った。鎮流もそんな家康の所作に2人に少し遅れて気が付きーーーぎょっとしたように目を見開いた。
「…………」
「?どうかした?」
「ッ!い、いえ」
「半兵衛様!敵大将討ち取りましてございますッ!」
「半兵衛殿、あちらから降伏の申し入れがあった」
「そう来ると思ったよ、その交渉には僕と鎮流君で…ああいや、家康君もおいで。三成君は兵たちに指示して相手の兵たちを一箇所に纏めておいて、抵抗した場合は好きにしていいから」
「承知いたしました!小隊長!」
三成は半兵衛の言葉にそう返答するとすぐに踵を返し、きびきびと指示を飛ばし始めた。家康は三成を見送った後、不思議そうに半兵衛を見た。
「なぁ、なんでワシもなんだ?鎮流殿は分かるが…」
「今回の戦、僕は直接参加していないからね。戦況を見ていた君がいた方が話が早い」
「あぁ…そういうことか」
「あぁそれから家康君」
「?なんだ?」
家康に理由を話した後に歩き出した半兵衛だったが、すぐに思い出したように足を止めた。不思議そうに首を傾げる家康に、半兵衛は呆れたようにため息をつき、懐から出した手ぬぐいを家康に投げつけるように渡した。
「君、返り血ひどいよ?鎮流君の目にはまだ毒だから、さっさと拭いて」
「え、あっ!!」
家康ははっ、と気が付いたように自分の体を見下ろし、慌てて鎮流の方を見た。びくり、と僅かに鎮流の体が跳ねた。