貴方も私も人じゃない51

三人は驚いたように鎮流を見る。半兵衛はすぐに楽しそうな表情に変わったが、将は不愉快そうに顔を歪めた。
「そもそもなぜ女が」
「優秀な子でね、僕の弟子なんだ。ところで鎮流君、今断定したのは何でだい?」
「…このお方は嘘を仰っておいでのようなので」
「なに…ッ」
ぴくり、と将の体が跳ねる。家康は慌てたように鎮流と将とを見やる。
鎮流は目を細め、将を見据えた。
「…お気づきではないようですが、貴方様、嘘を仰る時に瞼が痙攣なさっています」
「なっ?」
将は鎮流の言葉に思わず目もとに手を触れた。鎮流は、ふっ、と小さく笑う。
「…というのは冗談ですが、そう触れたということは嘘をついたという自覚があるととってよろしいでしょうか?」
「ふふっ、」
「あっ…」
「ッ!!この野郎ッ!」
嵌められた事に気が付いた将はかっ、となったように勢い良く立ち上がった。半兵衛もそれに合わせるように立ち上がる。
「残念だよ、本当に」
半兵衛はそう言うと将に背を向け、部屋から出ていこうとした。控えていた敵兵達が即座に刀や槍を構えるものだから、家康は半兵衛の背を守るように立って拳を構え、鎮流も装填済みの拳銃をホルスターから取り出し両手で構えた。
家康はお、と小さく声をあげた。
「それがあなたの武器か?」
「はい。まだ慣れていませんので、急所を外すだとかの器用な真似は出来ませんが」
「この部屋はワシ一人で十分だ、あなたは半兵衛殿を!」
「…、はい!」
わっ、と襲いかかってきた敵兵から鎮流をも庇うように立ち、そう言って先に行くように促した。鎮流は驚いたように家康を見たが、すぐに踵を返し半兵衛の方へと向かった。
「よし来い!」
家康は鎮流が行ったのを確認すると、にっ、と笑って対峙した。

「半兵衛様!」
「家康君はいいのかい?」
早足に歩いていた半兵衛は、鎮流の言葉に歩きながら鎮流の方を振り返った。鎮流は顔元で拳銃を構えながら、半兵衛の斜め後ろについた。
「はい、家康様は半兵衛様の方をと」
「そう。それにしても、一旦は彼らとは交渉決裂だ。君ならどうする?」
「…、まずは石田様が纏められたこの城の雑兵たちのもとへ。あの者達が交渉を破るというのは、交渉をしていると思っている下の者への裏切り…」
「…それを彼らに伝えるかい?」
「はい」
「ふ、はははっ!君は、戦略よりこうしたどちらかというと政治的な攻略の方が得意なようだ。僕もそう考えていたよ」
「…」
「さ、家康君が食い止めておいてくれている間にさっさとこの城から出よう」
「はい、お供致します!」
二人は後ろの方から飛び出してきた敵兵を確認すると、床をけって走り出した。