見えないはずの右目が18

夜も更け、小十郎が戻った後、梵天丸は布団の中でぼんやりと天井を見つめ昼間のことを思い返していた。あの、仏頂面の、だが優しい男を。

優しい…優しい男だ。
こんな俺を気味悪い、と思わずに、あまつさえ俺が嫌がろうとも離れないと言い出した。

どうしてころりと、俺のほしい言葉をくれるんだ?

母親に憎まれた、気味悪い目を持つ力ない子供を、どうしてそこまで思ってくれる?

「………そうか」
俺の右目を、

俺のこの見えない右目を、見ていないからだ。

だから、平気なのか。

「………絶対に、見せられない」
梵天丸は小さく呟くと寝返りを打った。


翌朝は驚愕と共に目覚めた。
「失礼いたします!!」
「うわぁっ!?」
微睡みの中で、突然すぱーん!と勢い音が響き渡ったために梵天丸は飛び起きた。
「かかかか片倉!?」
「おはようございます」
けろっと挨拶をしたのは昨日守役になった小十郎だった。
「おはよう…?」
「お目覚めの時間でありますから」
「…早い。まだ寝る……」
いままでに起きたことのない刻限であるため、とにかく眠い。
再び寝返りを打ち、布団に潜り込んだが…。
「…失礼いたします!」
「狽、わぁぁぁぁぁっ!」
ぐんっ、と勢い良く上に持ち上げられてしまった。びっくりして目を開ければ目の前に揺れる黒い髪。そして、足に感じる襟。
「おおおっ降ろせっ離せぇっ!」
「お目覚めになられましたかな?」
「…起きた」
驚きにすっかり目が覚めてしまった梵天丸は、ぶすっ、としたようにいった。

でも、なんだか朝から

朝からこんなに楽しい気分になったのは、初めてだった。