もうお前を離さない365(終)

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関ヶ原の地にて戦乱の世に終止符が打たれてから、早くも9年が経った。

―エピローグ―

「独眼竜!」
「!家康か。久しぶりだな」
「あぁ!そうだな!」
上田の側に、徳川と伊達の姿があった。供に連れているのはそれぞれ片倉と本多だけだった。
徳川はにっ、と笑う。
「三回目は大阪だからな。真田の所に寄ってから向かうつもりなのだろう?」
「Ha!!当然だろ?」
2人はそう言い合いながら上田の地に足を踏み入れた。

終戦後、日の本の統治は、誰かが頂点に立つのではなく、地域に別れて行われる事になった。

奥州は伊達・最上・佐竹
関東は北条・宇都宮
中部は武田・上杉・徳川・前田
近畿は石田・大谷・小早川
中国は毛利・尼子
四国は長曾我部・鶴姫
九州は島津・大友・黒田

といった具合に別れた。
雑賀衆はどこにも属さない、スタンドアローンな組織として雑賀荘にいる。
武器は各々の地域の倉に保管され、その倉には固く錠がかかっている。その鍵を持っているのはその地域を治めるトップ達だ。
そして、誰か1人挙兵したならば、他の地域の者は全力を持ってその相手をする。挙兵しようものならば、日の本全てが即座に敵となる。

そのように、定められていた。

そして3年に一度、各地域のトップが一ヶ所に集まり、現状の報告をしあう事になっていた。
一回目は三方ヶ原、二回目は仙台。そして、三回目の今回は2人の向かう大阪だ。
「てん!は!ぜっそう!」
「?なんだ?」
上田の地に踏み入れた2人の所へ、小さな影が走りよってきた。
その小さな影は2人の前まで来ると勢い良く頭を下げた。
「お初にお目にかかりまする!伊達政宗殿、徳川家康殿!」
茶色掛かった髪色のそれは、小さな男の子だった。きらきらとした瞳で2人を見上げていた。
2人はその少年の正体が分からず首をかしげる。伊達は膝を折り、その少年に視線を合わせた。
「…Sorry,アンタは誰だ?」
「ぞうり?」
「幸昌!何をしておるのだ!?」
そんな3人の所へ、勢い良く真田が走ってきた。
少年は嬉しそうに真田を振り返る。
「ちちうえ!」
「…父上ッ?!」
「Oh…アンタ子供が出来たのか」
「お久しゅうござりまする、政宗殿、徳川殿。某の倅の、幸昌と申しまする」
「そうか、真田の子か!よろしく頼む、幸昌!」
徳川はにこりと笑うと幸昌の頭を撫でた。
「道理で前回宮野殿が来なかった訳か…いや、今は宮野ではなかったか。この子の齢は?」
「は!五つになりまする!」
「Ah〜、暑苦しいとこはアンタに似たな」
「そうでござるか?そんな事より、お二方はこれより大阪へ?」
「そんな所だ。アンタもそうだろ?」
「いかにも!黎凪は石田殿の奥方に呼ばれ、先に行っておりもうす故、某と幸昌で出立するところでござった!」
「ならば一緒に行くか!」



 数日後、真田達は大阪にたどり着いた。
「三成!あの3人を何とかしやれと申したであろう!」
「3人には言っている!」
「?…何してんだアンタ等」
大阪城に入るなりそう言い争っている石田と大谷に遭遇した。
珍しい言い争いに伊達は思わず声をかけた。
「!来たのか…」
「お前が刑部と言い争うなんて珍しいな」
「………」
「………」
徳川の言葉に2人は気まずげに顔を逸らした。
と、そこへ。
「…見つけた!」
「!」
「あ、待って!」
「刑部が逃げた…?」
弁丸より少し大きい2人の少年が現れた。最初に声を上げた方は灰色掛かった髪色で、もう1人は銀髪だった。
そして、特徴的な髪型をしていた。
「…あの前髪、アンタの子供か?石田三成」
伊達は小さく噴き出してそう尋ねる。2人ともふわふわとした髪なのに、前髪の一部分が石田のように尖っていた。
「…ふん」
「!父上、」
「父上!何故刑部は逃げるのです?!」
石田に気が付いた子供達は石田に駆け寄った。腰を屈めた石田ははぁ、と小さくため息をついた。
「貴様等に病が移るのを恐れているからだと言っているだろう」
「ならば何故は父上や母上はよいのです?」
「幼子の方が体が弱い。私より貴様等の方が病が移りやすいと言っただろう。…分かってやれ。刑部は貴様達が大切なんだ」
「〜〜〜〜〜…」
ぶぅ、と2人は僅かに不貞腐れたが、石田の言葉を聞き入れたようだった。
「…?父上こちらの殿方は?」
ふ、と2人の内で落ち着いた、灰色掛かった髪色の方の少年が徳川達に気が付いた。
「ワシは徳川家康だ。青い方は伊達政宗、赤い方は真田幸村とその嫡子、幸昌だ」
徳川がそう紹介すると、その少年は居住まいを直した。
「我は石田重家、こやつは重成と申す。以後お見知りおきを」
そう言って軽く頭を下げた。重成はぷい、と外方を向いた。
「重…家?」
「…アンタが息子に家の字を使うとはな…」
「名付けは刑部と芽夷に任せたからな」
石田はそう言うと立ち上がった。
「そんな所につったっていないでさっさと入れ。…そういえば、毛利と長曾我部にも子が出来たそうだ」
「何?!」
「ははは!ワシ等も呑気にはしていられんなぁ」
「そういえば、未だ独り身なのは徳川殿だけでござるな」
「言うなよ真田!」


 「えぇーん隆元様ぁー」
「長曾我部元親!貴様姫を泣かせるとは何事ぞ!焼け焦げよ!」
「ぅあっち!おい毛利ィ!アンタどういう教育してやがる!」
「貴様こそ、己が娘を泣かせるとはどこまでずぼらなのだ」
大広間に行くと、長曾我部と毛利が騒いでいた。どうやら長曾我部が娘を泣かせてしまったらしい。
隆元様、と呼ばれた少年はその女子を背に長曾我部を睨んでいた。
「元親!何の騒ぎだ?」
「!家康か、久しぶりだな」
「貴様長曾我部!姫に謝れ!」
「お前なァ俺はその姫の父親だぞ?!」
「この子達はなんだ?」
徳川がそう尋ねると、少年はきっ、と徳川を睨み上げた。
「我が名は毛利隆元!姫は父などと認めたくはないがそこのずぼらが姫の愛姫だ」
「ずぼらじゃねぇ!」
「…取り敢えず、お前達の子供は仲がいいんだな、毛利」
「ふん。長曾我部の嫁に似て聡明な女子故、構わぬ」
「おいお前な!」
「奇遇だな、愛姫は俺の嫁と同じ名前だ」
「なんと!」
「あ、独眼竜に権現。来てたんですか」
と、そこへ宮野が顔を出した。その後ろから村越も顔を出す。
「お久しぶりです皆さん」
「お久しゅうござりまする!」
「さっき重家と重成に会ったぞ。三成というより、秀吉公と半兵衛殿に似たな!」
「そうですねー…私も癖毛戻っちゃいましたし」
「そういえば、芽夷は縮毛矯正してただけで元は天パだったからね。あの二人はまぁ、見事に髪型は遺伝したね。辰姫ちゃんにも」
「辰姫?」
「あの二人の妹です。辰ーおいでー」
村越がそう呼ぶと、襖からひょっこり銀髪の少女が顔を覗かせた。
「我の姫の方が美人よ」
「な、な…!隆元様…!」
「おい!俺はまだ認めてねぇぞ!手ぇ出すんじゃねぇ」
「?」
「…!」
真田の体の影から顔を見せた幸昌の顔がみるみる赤くなっていった。視線があった辰姫はきょとんと首をかしげる。
「お?幸昌顔真っ赤じゃねぇか」
「!!!!は、はれんちぃぃぃぃ…!」
「あっ気絶した!」
あはははは、とその広間に笑い声が広がった。



「さぁさ!今日は終戦記念日だ、皆盛り上がっていこう!」
夜。前田慶次の合図と共に恒例の宴会が始まる。
宮野はその輪から1人離れ、空を見上げた。
「………、出てきなよ、星の声」
『あれ、気が付いてた?』
宮野の声に応えるように、光の球が姿を現した。
宮野はくすり、と笑う。
「最近気配を感じてたからね。…これで、いいのか?」
『うん、大丈夫。僕ももう消えるよ』
「そうか。…最後に1つ聞かせてよ。アンタは誰の心から生まれたんだ?」
宮野の問いに、星の声は楽しそうに回った。

『君だよ』

「!」
その言葉を最後に、星の声は姿を消した。宮野はしばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。
「黎凪ー如何したー?」
「早く来いよ!毛利の倅が芸を披露するみたいだぞ!」
「ははっ、今行きますよ!」
宮野はそう言って笑うと、輪の中へと戻っていった。




―END―