もうお前を離さない243

「!!」
村越は咄嗟に右足を下げ、腹目がけて振られた石田の刀を鞘で受けた。
「わ…ッ」
村越はびりと手に走った痺れと、自分に向けられた石田の視線に石田の本気を悟った。
村越は石田の刀を弾くと後ろに跳躍して距離を取り、刀を構えた。その時には石田は既にモーションを開始していた。
「…!」
村越は迫ってくる石田の動きを目で追いながら、ギリギリの所で刀を受けた。ギリギリでしか受けられなかった、
―――――速い!
村越はきり、と奥歯を鳴らすと上から来た石田の刀を鞘で受け、その瞬間に刀を抜き放ち、左足を軸に体を回して左手の刀を石田の胴目がけて振り抜いた。
石田は後ろに下がってそれを避けた。一瞬の間が空く。
「ッ!」
村越は強く地面を蹴った。一方的な石田の攻撃を受けているだけでは、確実にすぐに限界がくる事は分かっていた。
攻撃は最大の防御。それを村越は実行に移すことにしたのだ。石田はそんな村越を見て口角を上げた。
「お、おいお前ら…!」
長曾我部の言葉を聞き流し、村越は石田の刀の動きに合わせて刀を抜き放った。キィン、と刀がぶつかり音を立てる。2人はすぐに離れて再び交差した。
「ぅわ…っ」
それでも石田の方が速い。村越は再び防戦一方の状態に陥った。
石田は体ごと下から上へ薙ぐように地面を蹴って斬り付けた。村越はその攻撃を受け腕が痺れるのを感じながらも、刀を抜きさり鞘を口でくわえると着地した石田の頭目がけ刀を突き出した。
石田は僅かに驚いたようにそれを見、そして首を傾げて躱すと村越の刀に己の刀を当て、刀に沿って村越の首目がけ刀を振った。
「石田ッ!!!!」
長曾我部が焦りに声を荒げたが、村越は刀を手放し屈む事で石田の攻撃を避け、石田の腕の下を通って石田の後ろへと回り、その途中で落ちてくる己の刀を掴み取り鞘に戻して腰に構えた。
石田はゆっくりと振り返り、楽しそうに笑った。
「ふん。まぁいいだろう、合格だ」
「…合格…ですか…?」
村越は肩で息をしながら石田を見、構えを解いた。長曾我部はぽかんとしている。
「信州に貴様が使者として行けと行っただろう。だが戦の最中ならば、話は別だ」
「!!!!」
「…なんだその待てをされた犬のような顔は」
「石田、案外アンタ詩人だな…」
「黙れ長曾我部。…、だから、貴様が戦場に赴いて足手まといにならない程度の実力があるか試した」
「…?……!合格って事は大丈夫って事ですか?!」
村越はぱぁ、と表情を明るくさせ石田に駆け寄った。石田はふん、と鼻を鳴らす。長曾我部は呆れたような疲れたようなため息をついた。
「なら最初からそう言えよ…」
「言ってから攻撃したのでは意味がないだろう」
「いや、そうだろうがよ…」
「気配を悟る事ができる程、こいつは力をつけていない」
「……………」
「あ、あの、長曾我部さん気になさらないでください。私はまだまだ、弱いですし」
「ッ…。…アンタらいい組み合わせだなァ…」
「「はっ?」」
長曾我部が漏らした言葉に、村越と石田はぽかんとして同時に長曾我部を見た。長曾我部はやれやれと肩を竦め、苦笑めいた笑みを浮かべた。
「え、ちょ、どういう意味ですか長曾我部さん!」
「貴様、何が言いたい?!」
「なんでもねぇよ。あー疲れた…俺ァもう寝させてもらうぜ」
「長曾我部ぇぇぇ!!質問に答えろぉぉぉ!!」
石田の怒鳴り声に長曾我部はひらひらと手を振っただけだった。