もうお前を離さない242

「どう足掻いても、理解の限界はありますけどね。そもそも私、男じゃないですし。…それでも、私は…」
「…君は理解して、どうしたいんだ?」
「………皆を…出来るだけ、沢山の人を救いたい、と」
「救いたい…」
「おこがましいのは承知の上です。でも

私はここの人達に幸せになってほしいから

だから、たくさんの想いを聞いて繋げたい。そんな風に考えてますよ」
宮野はそう言って徳川を見た。徳川は宮野をしばらく見た後、ふっと薄く笑った。
「……いい夢だ」



 「天君ただいまー!よーしゃよしゃしゃしゃしゃ」
その夜、石田達一行は大阪城に帰還していた。出迎えに来たのか戦車を引く天君が門に来ており、村越は天君に駆け寄るとわしゃわしゃと天君を撫でた。
石田は天君を見て呆然と呟いた。
「何故ここにいる…」
「馬に聞いても分からねぇだろ」
「馬ではない、天君だ!」
「…取り敢えずあれだ、いい名前だな」
馬と呼んだらぎらりと睨んできた石田に長曾我部は苦笑しながら、石田と共に天君に近づいた。天君は石田に気が付くと、嬉しそうにその手に頭をすり寄せた。
「へェ、アンタに懐いてんだなぁ」
「……」
「天君三成さん大好きだもんねー」
天君は石田に撫でられながら、返事をするかのようにいなないた。石田はぽかんと村越を見た。
「…。?!なっ…貴様何を言っている!」
「よーしゃしゃしゃしゃしゃ」
「…貴っ様!人の話を聞け!!」
「そうカリカリすんなって!もう夜なんだし、今日は休むしかねぇだろ?」
「三成様ーッ!」
ぎゃいのぎゃいの騒いでいるところに、斥候が走ってやってきた。
「三成様、真田幸村より知らせが!」
「!なんだと?」
石田は斥候から文を奪い取るように取った。後ろから長曾我部、村越、天君が覗き込む。
「………読めない…」
「…?!おい、上田城が落ちたって…」
「…!!」
さぁ、と長曾我部と村越の顔は青ざめたが、石田は眉間を寄せて字を睨んでいた。石田は文を読みもせずにくしゃくしゃに丸めると、天君の頭を掴むと突然歩き始めた。
「お、おい石田っ」
「み、三成さんっ待ってください!」
「うるさい」
ずかずかと進む石田を2人は慌てて追いかけ、長曾我部は石田の肩を掴み振り向かせた。
「ちょ、手紙俺途中までしか読んでねぇんだけど」
「読む必要などない」
「はぁ?真田は西軍なんだろ?!」

「あれは真田の文ではない」

「「えっ?」」
長曾我部と村越の声が重なった。石田は深々とため息をつくと、丸めた文を長曾我部に投げ渡した。
「真田は私の事を『石田殿』とは書かない。そもそも手が違う」
「…そういえば、三成殿って呼んでましたね」
「そんな事俺が知るかー!」
「短絡的に物を考えるからだ。…だが…」
石田はそう小さく呟いて文を見下ろした。
「真田が出したのではないなら、この文は北条が私を誘きだす為に書いた物だろう。…その動きに気が付かない状態であるという事か」
「…!それって…結構まずいんじゃ…」
「…、村越。ちょっと来い」
「?は、はいっ」
石田は少し考える素振りを見せると、村越にそう告げ歩みを再開した。
 中庭まで来た所で、石田はすれ違った兵から借りた刀を村越に投げて渡した。
「村越」
「はいっ」

「全て防げ」

その石田の言葉が村越の耳に届いた頃、石田は村越の間合いに入っていた。