もうお前を離さない239

翌日、上田では攻め込んできた北条との戦闘が始まっていた。真田と猿飛は本丸で防戦一方の現状を打破すべく話し合っていた。
「まず劣勢に見せかけ隊を撤退させる。その上で少数の部隊で敵方を上田城ぎりぎりまで引き付け、堀まで来たところで一斉に種子島と矢にて射撃する。…というのはどうだ?」
「…、いいんじゃない?」
「…しかし騙されてくれるであろうか……」
「ん〜……相手を挑発するとか?」
「…挑発?」
「頭に血が上ってくれた方が騙しやすいっしょ?」
「…確かに…試してみるか」
「よし、じゃあ様子を見てやってみる。…、それと、真田の大将は最後まで戦うなよ?」
「…、あぁ」
「さて、と。いっちょ行ってきますか!」
猿飛は両手に手裏剣を持つと地面を蹴り、戦場へと向かった。真田はぎゅう、と持っていた槍を握り締めた後、槍を地面に突き刺した。
「……上手く行けばよいのだが」
真田の声は空に消えた。
 「一から三、新七から九は撤退!!四から六は中央に集まれ!!!!」
「!佐助殿!!」
猿飛は戦場に飛び出すと大声でそう叫んだ。隊長は素早く猿飛の元に集まった。
「何故撤退を?!」
「敵の前で目的言えるわけないっしょ?城に戻ったら大将が指示を出す!」
「は、はっ!」
猿飛の指示通りな一から三、新しく編成された七から九番隊は撤退を始めた。残した四から六の隊の前で、猿飛はにやと笑った。
「撤退した六隊が城に入ったのを確認したら俺様達も撤退する。その時、北条方を挑発する」
「挑発…?!」
「そ。引き付けるのが目的だから、って言えば分かる?」
「……。…!はっ、承知しました!」
猿飛の言いたい事を理解した三隊長は力強く頷き、六隊が撤退するまでの防戦に走りだしていった。
 四半時が過ぎた時、法螺貝の音が朗々と戦場に響き渡った。
「!武田全軍、撤退!!」
猿飛の言葉に残っていた三隊は素早く北条方に背を向け、城に向かって走りだした。北条方はぽかんとそんな三隊を見ている。
その時。
1人の兵士が立ち止まり、臀部を北条方に向け、ぺしぺしと二回叩いた。
その兵士に呆然としていた北条方だったが、三隊からどっと上がった笑い声に皆その顔を真っ赤にした。
「おのれぇぇ愚弄するかァァァ!!」
「あはははははっ!!アンタ最高!」
「あ、ありがとうございまする!」
「やーいやーいお前のかーちゃんでーべーそー」
「「「貴様等ぁぁぁぁっ!!」」」
激昂した北条方が三隊を追いかけ走ってきた。猿飛ら三隊は半分笑いながら走る。

たいした時間が経たない内に三隊は上田城に到着した。屋根の上に立つ真田はじ、と北条方を見つめる。
そして。
「……撃てぇぇぇ!!!!」
真田の言葉を合図に待ち構えていた一から三、七から九の隊は一斉に火縄銃と矢による攻撃を開始した。血気盛んになり兵列すらろくに組んでいなかったたちまちパニックに陥り、バタバタと兵が倒れていた。
「ひ、退けーッ!!」
北条方は大慌てで引き返し始めたが、混乱していて上手く進めない。その様子を見て真田は屋根から飛び降りた。
「今は好機!門を開き、武田騎馬隊で追い討ちをかける!!」
「おっ。真田の大将、容赦ないねぇ」
真田の指示を聞き、馬に跨り飛び出していった騎馬隊を横目に猿飛は真田にそう言った。
「某とて分かっておる。…されど、某は北条殿が忍殿を使い黎凪にした事…許しておらぬ。宣戦布告をしてきたのはあちらが先、容赦などせぬ!」
真田はそう言うと戦場に目を向けた。