もうお前を離さない180

「…そろそろいい時間ですね。お昼の用意してきます」
宮野はそう言って炊事場へと走っていった。猿飛は目を細め空を見つめると、どこか嬉しそうに笑みを浮かべた。



 その頃石田はというと。
「………………………」
「…あの、大谷さん。何かあったんですか」
「ヒヒ…いや何、毛利を倒したのよ」
「酷く機嫌が悪いみたいですが」
「毛利の言動が気に障ったのであろうなァ、ヒヒッ」
「…そんな確信犯みたいな笑い方しないでください…」
村越は他人には分からないくらいの小さなため息をついた。2人に背を向ける石田の背からは苛立ちが痛いくらいに伝わってくる。
石田軍は毛利軍に勝利し、毛利軍は石田軍の傘下となった。暫しの軍議の後、毛利は東北へ、石田は九州へと向かうことになった。
「………………」
石田は黙ったまま振り返りすらしない。村越は困ったように視線を彷徨わせた。
「…」
「…大谷さん。気まずいです…」
「我に言われてもなぁ…。三成ぃ、気まずいそうだが?」
「大谷さんってすぐ言っちゃいますよね!」
「…だったらなんだ、馴れ合いはしない」
石田は振り返らないが律儀に返事を返した。村越はしょぼんと手綱を持つ手を見下ろした。
「…しりとりでもしませんか?」
「…しりとり?なんだそれは」
「相手が言った言葉の最後の一文字を、次自分が言う言葉の頭に持ってくるんです。互いに言い合って、んが最後についたり、10秒以内に言えなかったら負けなんです」
「なかなか愉快な遊戯よな」
「…大谷さんとやるとなると負ける気しかしません…」
「我とやるとなると?では三成ならば勝てると?」
「…なんだと…?」
ぴくりと石田の体が跳ね、じろりと石田が村越を見た。村越は慌てて手を横に振る。
「そういう意味じゃないです!!大谷さんはなんでそう、ちょっと意地悪なんです!」
「ヒッヒヒヒッ!!」
「くだらん。…それに付き合えば貴様は黙るか」
「!やってくれるんですか!?わーい」
石田の言葉に村越は顔を綻ばせた。石田にやるつもりはなかったのか、面食らった表情を浮かべた後面倒そうにため息をついた。
「…。チッ」
「ヒヒヒッ、後に引けなくなったなぁ…三成」
「じゃあ、お願いしますっ」
「貴様からやれ」
「えっと…みから始めますね。道!」
何故「み」から?と思いつつも石田は頭を動かした。
「…血溜り」
「り…利子」
「…屍」
「捻挫」
「斬滅」
「…つばめ」
「滅亡」
「う…うど」
「慟哭」
「待って三成さん言葉が怖いです!!」
「ヒハァッ、ヒーヒッヒッヒ!!」
冷や汗を流しながら待ったをかけた村越に大谷は盛大に吹き出した。
「なんだ。悪いか」
石田は不愉快そうに振り返る。
「屍の時から思ってましたけど言葉怖いですって!もうちょっと柔らかい言葉も混ぜてください!はい、熊です」
「まだやるのか。…待ちぼうけ」
「わ、可愛い」
「…貴様…」
「ごめんなさい嘘ですすいません!け…怪我」
「崖」
「気配」
「…。池」
「け…契約者」
「自棄」
「…ごめんなさい怒らないでください…」
「何の事だ」
「だってさっきからけ、ばっかじゃないですかっ!」
三成さんの意地悪ー!と叫ぶ村越に、石田はくっくと肩を揺らし小さく笑った。
「!」
「ならば貴様も返してみろ」
「むっ…喧嘩!」
「賭け」
「毛虫っ」
「湿気」
「…馬鹿か主らは…」
しりとりに没頭する2人に大谷は人知れずため息をついた。