もうお前を離さない149

「!黎凪!」
「あ、幸村!」
本陣から少し離れた陣で、宮野と真田がたまたま出くわした。真田は乱れる息を整えながら宮野に駆け寄る。
「っは…っ政宗殿が参られた。村越殿は?!」
「敵襲の合図は聞こえたから、もう芽夷は行かせた。それより幸村、後の陣は私が見てくるから、幸村は本陣に戻って!」
「な、何故だ?!」
強く言われ、流石に戸惑う真田。宮野はキョロキョロと辺りを忙しなく見ている。
「こっちくる時、派手な破壊音がした。聞こえなかった?」
「た、確かに聞こえたが…」
「多分伊達が門ぶっ壊した音だと思う。ここ、話通りだと伊達が三成さん見つけて、でも三成さんに忘れられてて怒って三成さんに斬り掛かる所だから、」
「な、なんと?!…では任せたぞ!」
「気を付けてね!」
居城にて盟友を傷つけるなど、許せる事ではない。真田は間に合うよう僅かに願いながら、本陣に向かって走りだした。


「誰だ貴様は」
「な…っんだ、って…?!」
ちょうどその時、石田が伊達に向かいそう言い放っていた。ふらふら、と伊達の体がゆれる。石田は忌々しげに自分に斬り掛かってきた伊達を睨んだ。
自分に向けられる生温い憎悪。感じはしたが彼には興味はない。
石田はふいと背をむけ、真田に言われた通りに外へ向かおうと足を動かした。
「テメェ…俺のことを…ッ」
石田からしてみれば往生際の悪い言葉が、石田の鼓膜を震わす。
「何度も言わせるな。貴様など記憶にない」
「小田原の…ことを……ッ」
「小田原…」
発せられた単語にぴくりと石田の体が揺れる。
「…苦しくも懐かしい…秀吉様の為にこの力を振るった…。その時私に負けた男がいたが、顔など覚えているものか。目障りだ、失せろ」
そう言い、足を進めれば膨れ上がる殺気。だが石田は振り返らなかった。

真田の気配も、感じたからだ。

―――ガキィン!!
「く…う…っ!」
「ッ!真田…ッ」
石田はそのまま歩いていった。真田は間に合った事に僅かに安堵し、胸にたまった息を吐きだし伊達の刀を弾いた。
「どけ真田!」
「退かぬ!!上田城にて我が盟友を傷つける事…この幸村っ決して許さぬ!」
「……そうかい。なら…アンタから先に落とし前つけさせてもらうぜ…ッ」
伊達は忌々しげにそう言い刀を構えた。
真田は今まで見たことのない伊達の姿に少し戸惑った。飛び込む前に聞こえた会話から、今の伊達に変えたのは小田原の惨状である事は伺えた。伊達はその復讐に囚われている。
「…真田源二郎幸村、いざ、参るっ!」
真田はそう吠え、槍を構えた。


「大丈夫ですか!」
「…?!宮野様!何故こちらに?!」
「様はやめてくださいってば!鉄砲と脇差の余りありますか!」
宮野は本陣の北側に位置する陣に来ていた。伊達勢と真田勢が激しく戦っている。僅かに真田勢が有利な様だ。
「…?!種子島と脇差…?」
「兜割りをこのどさくさでどっかに落としてしまったんです。脇差なら長さが似たような形だから代用できるかと思って」
宮野は戸惑いながらも差し出された脇差を腰紐に挟んだ。この陣が既に騒がしいにも関わらず、本陣からの音は酷く響いていた。
「して、種子島は?」
「本当に余っているなら、でいいんですが…幸村が気になるのでこの後本陣に行くつもりなんです。伊達相手になると勝てる気しないんで」
「…そうでござりまするか…。幸村様を、お願いしまするっ」
「分かりました。あなた方も、無理はなさらないでください!」
「承知いたし申した!」
宮野は渡された火縄銃を脇に抱え、本陣に向かって走りだした。