もうお前を離さない148

「…芽夷と最初に会った時、服が血塗れだったそうですね」
「!」
「…父親が母親を殺したらしいな」
「その事件に、…私が絡んでいたそうです」
「な…っ?!」
「…だから奴は貴様に贖罪の意を抱えているのか?」
石田の問いに、宮野はすまなそうな笑みを浮かべる。
「詳しい事は言えませんが、全体的に見たら芽夷は悪くないんですよ。だから芽夷が私にすまないと思う必要なんてない。でも、そう思わずにはいられないみたいで。…落ち着くまで、私はいない方がいいかなと思って」
「…」
「かといって、芽夷にはこの世界に帰る場所がないので…。…貴方にしか、頼めないんです」
「……………」
「…如何にする三成」
「……。好きにしろ」
「…!ありがとうございます!」

石田は断る気でいたが、口を出たのは了承の言葉。その理由も石田には分からない。ただ、確かに分かったのは、自分があの面妖な出で立ちでいた村越に興味を持ったということだけだった。



 「それでは、よく休んでくだされ」
「石田さんもちゃんと布団で寝てくださいね!」
夜も遅くなり、真田と宮野の2人はそう言い残して石田達にあてがった部屋から退散した。
雨は僅かに勢いを収め、静かに降り注いでいる。
「…っはぁーよかった…断られたらどうしようかと」
部屋を出て少しした所で、宮野はそういい、安堵のため息をついた。
真田はそんな宮野の様子に笑みを浮かべる。
「…村越殿に何があったかは聞かぬが…お前は大丈夫か?」
「…正直、ね。びっくりした、抱いた感情はそれだけ。それを伝えても、芽夷の気は軽くならなかったみたいで、…自分にも芽夷にも、少し腹がたった」
「…そうか」
「…芽夷は被害者なのにさ。………それはさておき、幸村。腕は大丈夫?」
「あぁ、打撲という奴か?大丈夫だ!何も問題はない!」
「そっか。よかった。いつ伊達が来てもおかしく無いからね」
真田の自室に向かいながら、2人は和気あいあいと話している。宮野の部屋は真田の隣の部屋をあてがわれていた。
部屋の前に到着する。
「…村越殿の事はもう尋ねぬ。だから、黎凪。…お前も気に病むな」
「…。…、うん。おやすみ、幸村」
「うむ」
真田は宮野の頭を撫でて小さく笑むと、部屋の中に入った。宮野も真田が部屋に入ったのを確認した後、自室となった部屋に入った。


 翌日。石田が上田城を出る直前に、敵襲の合図が響き渡った。紋所は竹に雀――伊達軍だった。
「三成殿っ、三成殿は本陣の後ろより外へ!某は他の陣を見てくる故、これにて失礼いたしまする」
「…真田」
「は…なんでござろう?」
駆け出そうとした真田を石田は呼び止める。石田は鋭い目付きで真田を見た。
しばらくじっ、と真田を見た後、だが不意に視線を逸らした。
「…。いや、なんでもない」
「…そうでござるか。では三成殿、…お気をつけて」
「言われるまでもない」
石田はそう言うと、さっさと歩きだした。それを確認した真田も、地面を強く蹴り駆け出した。

「…そうなの?」
「事後承諾でごめんね」
「…ううん。…気を遣わせちゃってごめん」
「そんな事ないよ。それで、落ち着いて、ゆっくり考えてね。芽夷は悪くないし、私も怒ってないから。…じゃあ大谷さん、後はお願いします」
大谷は無言で頷き、ふよふよと進みだした。村越は少しばかり迷いを見せたが、宮野に、ばいばい、と言うと大谷の後を追っていった。