もしこの道を進めたなら26

「知りたいさ。お前が秀吉公や半兵衛殿を慕っていたように、お前を慕う人間がいるってことだろ?それはとても興味がある!」
「…勝手にしろ」
三成はどことなく嬉しそうな家康の言葉に、う、と詰まった後、素っ気なくそう返した。そうした三成の態度にも慣れている家康はそれが三成の照れ隠しに近いことを知っているから、ついにこにこと笑った。
「そうかー楽しみだ。お前と似てるのか?」
「全く似ていない」
「まぁ、三成同属嫌悪しそうな感じだしな…」
「秀吉様に忠誠を誓う者ならば嫌いはしない」
「それはそうだろうな」
「………やつが私とどれくらい似ているかどうかなどは分からん。だが基本的な性格は全く似ていない…と思う」
家康は三成の言葉にふぅん、と呟き腕を頭の後ろで組んだ。どんな人物なのか、どことなくワクワクする。
それが態度に出ていたのか、三成はむすっとしたように家康を振り返った。家康はその三成の視線に気がつくと慌てて腕を下げた。
「楽しんでいるな、貴様…」
「そりゃ…まぁ…本当想像できなくて…」
「左近の忠義を侮辱するならば貴様といえど容赦はしない!」
「いつ侮辱した?!してない!してないから!あと左近って名前なのか!」
「左腕に近しい、と」
「なんかお前そっくりだな」
「なっ…?!」
二人はわいわいぎゃいぎゃいと騒ぎながら、城に向かっていった。街の人々は微笑ましそうにそんな二人を見ていた。

 少しして落ち着いたところで、三成はふと思い出したように家康を見た。辺りはすっかり暗くなっている。
「…そういえば貴様」
「ん?」
「長宗我部は誤解から貴様を殺そうとしていた、と言っていたな」
「………、あぁ。本人と話してみて、あいつにとうするべきか、なんとなく分かった気がする」
「?そうなのか?」
「あぁ。本来の場所に戻れたら、試してみるつもりだ」
そうか、と三成は納得したように小さく頷き、視線を元に戻した。家康はそこで、ふと三成同様に思い出した。
「…三成」
「なんだ」
「…ワシはあの戦の時…かなり、お前から逃げていたんだって、自覚したよ」
「藪から棒になんだ」
「元親に聞いてみたんだ、ワシが友を裏切ったことがあると言ったらどう思う、と」
家康の声のトーンが少し下がったことに気がついた三成は、歩みは止めないまま、視線を家康に向けた。
家康はわずかに困ったように笑う。
「…元親に言われたよ。考えられない、あるとしたら相手がよほどの人間なんだろう、って」
「…それがなぜ、私から逃げていたことになる」
「元親以外の人間で、そう思った者が多かったはずだ。事実、秀吉公を殺したことを責められたことはあるが、裏切りを責められたことはほとんどと言っていいほどない。…つまりは……」
家康が吃ったところで、三成は眉間を寄せた。家康が言わんとすることに気付いたのだろう。
「……秀吉様がよほどの人間だ、と?」
「…西軍の人間でも、そう思っていた人間はいたはずだ。そんな事まで、考えたことはなかった…」
「……だから、それがなぜ、」
「お前から逃げていなかったらそんなふざけた状況に気がつけたはずだ…!」
自分の言葉を遮り、なかば叫ぶようにそう言った家康を三成はわずかに驚いたように見た。
家康は、ぎゅ、と拳を握り締める。
「…貴様の口からふざけた、という言葉が出るとはな」
「だってそうだろう?!裏切りの行為は事実だ、なのにそれがあたかも正しいかのように見られていたことにワシは気付きもしなかった…!」
家康の悲痛な叫びに三成は目を細め、歩みを止めて家康を振り返った。