オカントリオの奇妙な旅路36

「…いくら罵倒されようともついていない嘘を認める事など出来ませぬ」
「……ほう。では、」
「?!!?!」
元就はぐい、と吉継をその場に組みふした。吉継はぎょっとしたように元就を見上げる。
元就は無表情のまま、だがどこか楽しげに吉継を見下ろしている。
「男を抱く興味はないが貴様の口を割らせるのにはこれくらいしなければなさそうだからな」
「な……っ!お戯れを、ぅあっ?!」
「こういう時は声は潜めるものぞ」
「いっ……!」
ぐ、と袂を割って手を忍ばせ、足の間に体を入れてくる元就に吉継は本気で焦る。最後までやるつもりは流石にないだろうが、慣れぬ事に確実に我が出る。
吉継は慌てて着物の中に入ってくる元就の手を掴む。元就は目を細め、にやと笑う。
「ほう、逆らうのか?弟共がどうなっても知らぬぞ」
「………っ」
つつ、と指を這わされびくりと肩を跳ねさせる。自分がついた嘘で墓穴を掘る羽目になった。
黙って視線をそらす吉継に元就はふふん、と鼻で笑う。
「そうまでして隠すか…大したことではないだろう」
「……抱くおつもりならば、さっさと済ませてはくれませぬか…」
「我とて左用な趣味はないわ。貴様が口を割らぬからこんな羽目になる。それなりの代償は払ってもらうぞ」
「…割る口がありませぬゆえ」
元就はつまらなさそうにちっ、と舌打ちすると、本格的に吉継の上についた。吉継は平静を装いながらもどうするべきか必死に考えを巡らせた。
衆道など冗談ではない。やったこともやられたこともないが、どちらにせよろくなことにはならない。どうにかしてこの状況を打破しなければならない。
だがどうやって?
「………(これは困った……!)」
だがその時。
「毛利様!!忍が侵入した模様!」
「何?我に報告しておる場合か、使えぬ駒め」
バタバタと部屋の外が騒がしくなり、兵の一人が元就にそう報告する。元就は呆れたようにそう返し、だが一旦吉継の上から体を起こした。
吉継は幸いと思いながらも、何事だと周囲の気配を探った。

かたり、と天井からおとがする。
「!」
元就は軽やかに上からの攻撃をよけた。元就目掛け投げられたであろう苦無が吉継すれすれに床に突き刺さる。
元就は部屋の隅に置いてあった輪刀を構え、天井からは小さな影が飛び降りる。黒い布で顔を隠したそれは、ちらりと元就を見た後吉継の方を見た。その動きに元就はふん、と鼻を鳴らす。
「…貴様の連れか」
「!」
元就が動く前に小さな影は吉継の腕を掴む。吉継はそれが誰かを察し、すばやく立ち上がった。
元就は輪刀を二つに分け、踏み込むと同時に斬りかかったが二人はそれをギリギリかわし、部屋の外へと飛び出した。
「こっち」
「!」
他の兵にも見つかったが、小さな影、佐助は予め脱出ルートを決めてあったらしい、二人は兵達を避けて城の中へと姿を消した。
輪刀を持ったまま元就は二人の姿を探したが、見つからないと分かると興味をなくしたように部屋に戻った。