凶姫と龍人47

「どうした、かかってこい!優しくなりすぎて戦う勇気もないか!」
家康の激昂にも、政宗は反応を返さない。とにかく、無気力だった。
家康は再び政宗の襟首を掴むと、さらにバルコニーの端へと投げ飛ばした。ごろごろと政宗はバルコニーを転がる。
「…もういい、お前がそんなつもりならこのままここで終われ!」
家康はそう叫ぶと、最上が引き抜いて持っていた槍をとり、逆手に持って振り上げた。

「止めろ家康!!!」

その声は、静かになっていた城に響き渡った。政宗の瞳に光が戻る。
「石田……!」
政宗と家康の視線が城門へ向いた。そこには、半兵衛と三成の姿があった。三成は政宗の無事を確認し、ほっ、と息をついたが、家康と視線があうと顔を歪め、家康を睨んだ。
そんな三成の表情の変化に、家康はぎり、と歯を鳴らす。
「…っ…ああああああ!」
「!伊達!!」
家康は吠え、槍を降り下ろした。三成が叫ぶ。

がきっ。
槍は政宗には刺さらなかった。直前に政宗が体を回し、避けたのだ。
政宗はその勢いで、起き上がると同時に家康の首をつかんだ。
「!」
家康はとっさに政宗の手を払い、後ろに跳んだ。政宗は腰を落とし、両手を交差して前に構える。
「………フッ」
政宗は息を吐くと同時に地面を蹴った。家康もそれに合わせて槍を回し、地面を蹴る。
政宗と家康が交錯する。政宗は腕で槍の木の部分を受け止め、片方の手で刃を掴む。
家康はすぐさま槍を引き抜いて、槍を持っていた右手を右回しに回し、柄の部分で政宗の顎を狙う。政宗は顔をのけぞらせてよけ、その勢いでバク転し、右手を顔のとなりに構えた。
バチバチッ、と右手が雷を帯びる。家康はその雷に、小さく笑った。
「雷を操るのか。全くもって化け物だな!」
「……言ってろ。こんな雷だって、最初は持っちゃいなかった。出るようになったのも、結構最近だな」
「?」
急に流暢になった政宗に、家康は眉間を寄せる。政宗は、ぎろり、と家康を見据えた。

「この雷は、怒りの雷だ。過去の俺への、gentleman、アンタ等へのな」

政宗の言葉に、家康はちら、と最上を見たが、気にせず槍を構えた。



 「片倉!刑部!官兵衛!長曽我部!毛利!」
「!姫さん!!」
「義父上!只今戻りましてござりまする!」
「!幸村!主に言いたいことはやまほどあるが、それはまた後よ!」
一方、城のなかでは三成達が小十郎達に合流していた。何故か階段下に集まっている。
半兵衛は怪訝な様子で彼らに視線を合わせるように屈んだ。
「どうしてここに?彼が戦っているのはもっと上階だ」
「!やはり政宗様が戦って……!」
「だ、大丈夫なのか?!」
「なんとかね、今は対等にやりあってる」
半兵衛の言葉に小十郎達はほっと安堵の息をつく。そして半兵衛は、小十郎達が階段下に集まっている理由がわかった。
階段が、破壊されていたのだ。