凶姫と龍人31

翌日。
「どうだ。辞令の言葉はいらんぞ」
「…抹茶の良し悪しなんざ俺には分からねぇけど、これは飲める」
「何だそれは」
三成は政宗の言葉に杓を置いて政宗に向き直った。政宗は三成に言われた作法で飲み干し、肩を竦めた。
「今まで抹茶なんざ苦くて飲めなかったんだよ」
「…だから開封してあるのにあんなに大量に余っていたのか!粗末にするな!!」
「飲めねぇモンは仕方ねぇだろ!……、そのすぐ後、俺以外飲めなくなったしよ」
「…!そういうことは先に言え。ならば仕方がない」
三成はふん、と鼻を鳴らすと政宗から渡された椀を受け取り、茶釜の隣においた。政宗は姿勢を崩し、胡座をかく。白いシャツの上に被っていた青い上着がばさり、と落ちた。
「!」
「落ちたぞ」
政宗と三成が同時に手を伸ばし、ぱふ、と手が重なった。
「ッ!!」
政宗は瞬時に手を引っ込めた。三成はきょとんと政宗を見る。
「?どうした」
「…あ、いや、悪ぃ…」
「?手がどうかしたのか」
不思議そうにそう言いながら、三成は政宗に手を伸ばした。政宗は何も言わずに手を引っ込める。
「……昨日はアンタ、手袋着けたじゃねぇか」
「?そういえば、本を読むまで着けていたな」
「…素肌で俺にさわんな」
政宗はぼそり、とそう言った。三成は驚いたように政宗を見た後、自分の手を見、そして政宗を見て、にやりと笑った。
突然笑った三成を政宗はぎょっとしたように見る。
「アンタ何笑っ…「覚悟ぉぉぉぉお!」どわぁぁぁあぁぁあ?!」
きらんと目を輝かせた三成が、突如政宗に飛びかかった。予想だにしなかった行動に政宗は押し倒される形になる。ごちん、と固い音がした。
「いって頭ぶっけた…!テメェなにしや…ッ」
三成は政宗の頬を、ぼふ、と両手で挟んだ。政宗の顔がちょっと間抜けた顔になる。
ぴくり、と政宗の肩が跳ねた。
「触られるのが嫌なのか」
「…アンタは嫌じゃねぇのかよ、んなウロコの肌」
「当たり前だ!」
自嘲気味に笑いながら言った政宗に、三成はそう怒鳴り返した。政宗は目を驚きに見開く。
三成は頬から手を離し、ぽかんとして無防備な政宗の手をつかんだ。
「私は外観で人を判断するのは嫌いだ!!貴様がどんな肌だろうが、それは私が貴様を卑下する根拠にはならん!生まれ持ったもの、変えられぬもの、それを己と違う異質なものだからと、私が貴様を嫌うと思ったのか!!」
「あ、いや、俺は……」
「私は昨日言ったはずだ!違うものは違うものでいい、と!それで苦しんだこともあったと!!私が苦しかったことを貴様にすると思ったか!!私を馬鹿にするな!!」
「…すまん」
政宗は激昂する三成に素直に謝った。三成は荒くなった息を調え、政宗の手をぎゅうと強く握った。
政宗は視線を落とす。
「…すまねぇ。ただ俺は、今まで、そうだったから……怖かったんだ」
「!!」
三成は、はっ、と息をのんだ。
「アンタは変わってる。普通の奴らと違う。それは嬉しいとは思う。だけど、まだ、抵抗はあんだよ」
「………伊達」
「俺は…まだ、他人が怖ぇんだ…すまねぇ……」
「……いや、私が考えなしだった。許してくれ…」
三成はぐ、と唇を噛み、握った手を胸元に抱いた。