Not revolved transmigration 111

風魔はナイフを久に向けたまま、僅かに腰をおとして距離を取った。久は楽しそうに笑う。
「大した警戒のしようだね。まぁいい。卿の兄は元気かね?」
「……………」
「豊臣秀吉、かつてに比べて随分甘くなったようだ。それとも単に身内には甘いのか…覇王の面影は卿を凌駕する力だけ、か」

松永がそう 言い終わったと同時に風魔は地面を蹴った。ナイフを腰の高さに構え、一気に距離を詰める。
松永は笑った。
「苛烈、苛烈!」
す、と左手を前に出し、ぱちん、と指を鳴らした。
途端、巻き起こる爆発に風魔は横に跳躍した。黒い羽根を散らして姿を消す。そして松永の後ろにまわり、躊躇いなく、首めがけてナイフを振り抜いた。
だが。
「!」
ナイフは首を庇った左腕に阻まれた。がきん、と鈍い音がして表皮にナイフが刺さらない。
「生憎今死ぬわけにはいかないのでね」
破れたシャツから、金属板のようなものが見える。恐らく火薬収納と、暴発時の防具だろう。
右足を軸に振られた左足を後ろに跳躍することで避ける。再びぱちん、と指が鳴り、黒い煙を上げて、だが遠方から視認できない程度の爆発が起こった。


 「!」
「い、今の振動と音は!」
地面が爆発により揺れ、猿飛ははっ、と顔をあげた。竹中や真田も表情を険しくする。
「俺様が様子見てくる!」
「待て佐助!俺も行く!」
「何言ってんの!大将が入口から出たら入口がばれるでしょ!今んなって分かったけど、小太郎が残ってた意味ないでしょ!」
「彼が来なかったのはそういう訳か」
「俺様が影潜で行ってくるから!待っててよ!」
猿飛はそう言うなり地面に潜って消えた。真田は入口に続く階段を見上げて、ぎり、と歯を食い縛った。石田は竹中を見る。
「まさか…あの女が?」
「多分ね。何が目的かは知らないけど、今は息を潜めているに限る…」
「…風魔殿に会いに来たのでは?」
「小太郎に?」
真田はかすがの震える声にそちらを振り返った。竹中は真田の言葉を受けて、ふむ、と呟いた。
「…考えられないことじゃないな。猿飛君次第だね」
「佐助…失敗は許さぬぞ……!」
真田は天井を見上げてそう呟いた。


 「影追の術!」
猿飛は普段隠し持っている手裏剣を開き、地面に潜らせると同時に跳躍した。猿飛の存在に気がついた久は、猿飛と己の間の地面を爆破させた。
爆発に舞い上がった手裏剣を繋げてあるワイヤーで回収し、猿飛は風魔の隣に着地した。
「よっ、小太!」
「…………!」
「つれないなー教えてくれればよかったのに。また一人で行くつもりだった?」
「……。……、……………、……」
「…そ。でも助かったよ」
「!」
風魔は猿飛の言葉にはっとしたように猿飛を見、僅かに顔を赤くして俯いた。
猿飛はヨーヨーのように手裏剣を回した後、じとり、と久を見据えた。
「さぁーてと。今晩は、松永弾正」
「おや。卿には記憶があるのかね?」
「帰ってくんなーい?アンタには関係ないし、そもそも小太郎に手ぇ出すのも止めてくんない?」
「豊臣秀吉には会ったかね?」
「会いましたよー?あの人、かすがを暴漢から助けてくれたしねー。小太郎の事も許してくれてさァ」
「ほぅ、それはそれは」
久はくすりと笑った。猿飛は再びくるりと手裏剣を回して構えた。
「小太郎、行くよ」
「……!」
「俺様は左、小太郎は右ね」
猿飛はそう言うなり地面に潜った。風魔も地面を蹴って久に迫る。