Not revolved transmigration 22

「分からない者はいるか」
「分かったでござるぅぅぅ」
「いないか…よし、では今日の授業はここまでだ。130ページの問題をやってこい。次はそこから小テストを出す。それと真田」
「はっ!」
「…貴様は後で私の所に来い、渡すものがある」
散々叱ったというのにへこたれる事なく大きな返事を返した真田に、石田は苦笑しながらそう言うと教室を後にした。
「う、お、ぉなんでござろう?」
真田はそう呟いて笑われた後、ふと徳川の様子に気が付いた。普段ならば休み時間になると囲まれている徳川だが、今日は机に突っ伏して眠っていた。
真田はしばらく徳川を見た後、立ち上がった。
「……余程応えたのでござるな」
「…真田か」
眠っていた訳ではないらしい、徳川はすぐに返事を返した。
「皆に心配されまするぞ」
「…お前は切り替えが早くていいな」
「切り替えなど…」
徳川はのそりと体を起こし、机の隣の窓から校庭を見下ろした。
「…ワシは分からないんだ。ワシはあの徳川家康だ。それを否定するつもりはない。…だがやはりワシは、後悔してしまうんだ」
「…。某とて先生見ているとかつてのあの方を思い起こしまする。されど、某は決めたのでござる。前世で出来なかった分、今生は幸せにしようと」
「!」
「…あの方を殺したのがそれほどまでに心苦しいのならば、今度はひたすら助ければいい。某は、そう思いまするぞ」
真田の言葉に徳川は頭を上げ、しばらく真田を見つめた小さく笑った。
「…はははっ。お前、見かけに似合わず男前だなぁ」
「な、なにぃっ?!某が女顔だと申されるかぁぁあ!」
「最近流行の甘いマスクだと言っているんだ」
「マスクなど甘くても食べられぬわ!」
「マスクって顔の事な。風邪の時に付けるんじゃなくて」
ぬおぉぉ!と騒ぐ徳川は漸く声を上げて笑った。
―今度は幸せにすればいい。そうだな、真田――
そう心の中で呟いて、徳川は笑った。かつて愛された、太陽に似た笑みで。

 「真田幸村参ったでござるぅぅぅ」
「来たか」
放課後真田は職員室を訪れた。机に向かっていた石田は真田の声に振り返り、前の棚にあるファイルを取り出した。
「なんでござろうか!」
「貴様は数学が苦手なのか?」
「…は、恥ずかしながら」
直球で聞いてきた石田に、真田が僅かに顔を逸らしながらそう答えると、石田は取り出したファイルからプリントを取り出し、真田に差し出した。
「?課題にござるな?」
「要点をまとめたプリントと練習問題だ。次の授業は明後日、明日までにこれをやってきてどこが分かっていないのか明確にしてこい。どうしても分からない場合は聞きに来い」
「!承知いたした!ありがとうございまする!」
「それと真田」
嬉々としてプリントを見る真田に、石田はまた別の物を差し出した。
それはやや薄汚れた赤い小さな袋だった。真田は首をかしげる。
「これは?」
「昨日までほぼ忘れていたのだが…部屋を整理したら出てきたものだ」
「?……!」
真田が袋を開いてひっくり返すと、中から小銭が六枚、ちゃりんと小さな音を立てて落ちた。
「これは…」
「昔の銭だ。ちょうど六枚で六文銭と言って、三途の川の渡し賃だったとか。確か真田家の家紋は六文銭だったと思ってな」
石田の言葉に真田はそっとそれを持ち上げ、目を見開いた。
―この銭は!
―某が三成殿に手向けたモノ――!