もうお前を離さない273

「わ!急に入ってこないでよ危ないなぁ!」
「で、でもあのまま続いたら……」
「!…ま、そうだけどね……」
猿飛は不愉快げに舌打ちした後迫ってきた風魔の攻撃を受け流し手裏剣を投げつけた。村越は少し2人から離れ、刀を腰に構える。真田も槍を構えた。
その時。
「待つんじゃ風魔ぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!?」
「…お爺さん?」
「北条殿?!」
叫び声を上げながら、北条氏政が飛び込んできた。北条の言葉に風魔は大人しく刀を下げた。真田、村越、猿飛の3人はぽかんと北条を見た。
「ぜぇ…ぜぇ…あいや待たれい若虎……」
「な…何用でござろうか…」
「こ…これを届けに参ったんじゃ……」
そう言って北条が差し出したのは小さな袋だった。真田は不思議に思いながらもそれを受け取り、はっと目を見開いた。
「この感触…もしや丸薬…?!」
「どうか甲斐の虎に渡してくれんかの?」
「…北条殿…!!あ…ありがとうございまするぅぅぅぅ!」
「…ならなんで攻撃してきたし。誰だか知りませんけどあのお爺さん統率力なさすぎ。幸村さんも少しは怒りなさいよ犠牲が出てるんだし!」
「……案外アンタ辛辣だね…」
泣き崩れた真田と北条とを見ながら村越はそう呟き、猿飛はやれやれとため息をついた。
風魔はそれを見るとぷいと背を向け姿を消した。



 一方、大阪では。
「待ってくれよ孫市!」
「黙れ鴉め」
「…さやかと慶次って何だかんだ仲いいよな。そう思わねぇか?石田」
「そんな事には興味がない。貴様も用がないのならば失せろ。私は今すこぶる機嫌が悪い」
長曾我部が石田の部屋に陣取り、庭で騒いでいる前田とそれをあしらう雑賀を眺めていた。
債務をしていた石田はじろりと長曾我部を睨んだ。長曾我部は肩をすくめただけで気にした素振りもない。
「そうすぐかっかとなさんな。…それに、機嫌が悪いっていうが、それを言うならアンタは大谷とあの姫さんが出兵してからずっと機嫌悪いぜ」
「!何だと…?」
「あの姫さんなら大丈夫だろ」
「そんな事を気にしてなどいない!それにどうして言い切れる!!」

「あの姫さんは、アンタの事が好きだろうからよ」

「…貴様も黒田と同じようにそんなふざけた事を言うのか…!」
「黒田だぁ?黒田が何言ったかは知らねぇが、あの姫さんは少なくともアンタより先には死なねぇ。そんな目をしてた」
「?!…、……」
長曾我部は自分を睨む石田を振り返り、ふっ、と笑った。
「多分、アンタを残しては死ねないとでも思ってんじゃねぇか?」
「…………」
――私でよいならば、ずっと傍にいます。貴方が死ぬ時まで
不意に村越の言葉が思い出された。なぜ言われたのかは思い出せなかったが、そう言われた事は確かに思い出せた。
黙り込んだ石田に長曾我部はにやりと笑った。
「なんだなんだ?思い当たる事でもあったか?」
「貴様には関係ない!!」
「即答だなおい」
長曾我部は苦笑しながら立ち上がり、邪魔したな、と部屋を出ていった。
石田はふんと鼻を鳴らし机に向き直ったが、どうにも村越の言葉が頭から離れなかった。
「……………私は……それを………望んでいるのか…?」
そう呟いて―――石田はばき、と持っていた筆を折った。
「私は…!家康の首を、家康を殺すために生きている!それなのになぜそんな事を望む?!あんな奴などッ」
――お前はあの女が殺されたらどうする?
「?!」
どうでもいい、そう口にしようとした瞬間に今度は雑賀の言葉が思い出され、石田は困惑した。