もうお前を離さない177

「…そういえば」
「?」
「貴様もあの女も、刑部が平気なのか?」
石田は僅かばかり不思議そうに村越を見ていた。
「?…??」
「今まで人は、刑部の容姿を忌み嫌ってきた。特に女はあからさまにな」
「…あぁ…確かに凄い包帯ですよね」
「……。…知らないだけか」
石田はどこか落胆したようにため息をついた。村越はことんと首をかしげる。
「ハンセン病なんですよね?」
「…は?なんだその病は」

「他人に感染する可能性は限りなく低いって黎凪が言ってました。大谷さんっていい人ですし、容姿にはちょっとびっくりしましたけど嫌う理由はないです、よ…?」

「……」
村越の言葉に石田はきょとんとした表情を浮かべたのち、ふっ、と一瞬、柔らかい笑みを浮かべた。
本当に一瞬だったため、村越は本当に笑んだのか判断しかね、目をパチパチと瞬いた。
「え、ええっ?」
「…成る程な。貴様等らしい」
「えええっ?」
「…ハンセン病などという病は知らん、だが刑部の病はそれなのか」
「え…あ…はい、確か」
「どうやったら治る?」
「……ッ!」
真剣な石田の目に村越は息を呑んだ。
そして、すぐに俯く。
「…すいません、知らないんです」
「………そうか」
「…そもそもハンセン病って、昔の病なので…私の世界だと、かかる人がほとんどいないんです、だから…すいませんっ」
「貴様が謝る必要はない。…謝るという事は己の罪を認めたということだ。軽々しく謝ると墓穴を掘るぞ」
頭を下げた村越に石田は素っ気なくそう言った。村越は顔を上げ、驚いたように石田を見た。
「三成さん……心配してくれるんですか…?」
「…。なっ?!い、いや、そういう事ではない!勘違いするな!!」
しばし固まった後、石田の青白い顔が真っ赤に染めあがった。
「ッヒヒヒッ、ヒィーッヒッヒッヒッ!!!!」
「なっ刑部ぅぅ?!」
2人が座っている後ろから突如大谷の笑い声が聞こえ、石田は赤い顔のまま飛び上がって大谷をぎろりと睨んだ。
「刑部貴様ぁ!いつからそこにいた?!」
「ヒヒヒッそ、そう怒るな…ヒッヒヒヒッ!」
「す、すいません三成さん…」
大谷はぱしぱしと輿を叩きながら笑っている。石田は苛立った表情を浮かべ、ぷるぷると腕を震わせた。村越は困ったようにうろうろしている。
「やれ三成…言うか言うまいか迷っておったのだが」
「何?…私に隠し事などするな刑部」
「あい分かった…。今朝入った知らせなのだがな。徳川が伊達と手を組んだ」
「伊達政宗が?」
「伊達…?…誰だそれは」
「ヒヒッ、小田原で主に負けた男よ」
「…上田城にいた時、襲撃してきた…」
「…あぁ。……奴が家康と手を組んだのか…?」
石田はふらり、と刀を持った手を下ろした。村越は雰囲気の変わった石田を恐る恐る仰ぎ見た。
「…して、今。北条も徳川と手を組んだと知らせが入った」
「なん…だと…?!秀吉様の情けを受け生き延びた老いぼれが、何故家康と手を組む?!」
「落ち着け、北条もその程度の人間であったということよ」
「…家康…家康……!」
ぎり、と石田の奥歯が鳴った。
「…三成さん」
「…そういう事よ、三成。気持ちは分かるが今日はきちんと休むがよかろ」
大谷はそう言って目を伏せると輿を返しふよふよと漂っていった。
村越は石田を見上げ―――そっと手を握った。
「…ッ」
石田の体が僅かに跳ねた。