賽と狂犬、希望と亡霊20

「…さて、と」
左近はようやく当初の目的に向きなおった。
勝家も左近をまっすぐに見返す。
「アンタ、一応確認しとくんだけど、柴田勝家だよな?」
「…いかにも…。お前が誰かは知らないが、私に用があるなど稀有な噺だ……」
「へへっ。まっ、アンタにゃ心当たりがなくて当然だろうな。だけど、まずはいっちょ手合わせと行こうぜ?ここは戦場なんだしさ」
「………お前の目的に興味はないが…相手をしてはならないとは言われていないが故に」
勝家は、はぁ、と小さくため息をついた後、そう言って逆刃薙を構え直した。左近はにっ、と嬉しそうに笑い、タンタンと軽くステップを踏みながら両手に刀を構えた。
「っしゃ!」
二人はしばらくお互いの出方を伺っていたが、左近の声と共にその拮抗は崩れた。
左近は掛け声と共に勢いよく地面を蹴った。政宗と対峙した時と同じく、一瞬で勝家の間合いに侵入する。勝家はそれを逆刃薙を回転させて引き離す。左近がどのタイミングで乱入してきたのかは分からないが、政宗との戦闘を多少なりとも見られていたことは間違いないだろう。
ならば勝家の戦闘スタイルは知られていると見ていいだろう。勝家は左近のスタイルを知らない。先程の政宗との一瞬のやりあいで、短刀と蹴りを使うことは分かった。だが、更なる奥の手を使われると、勝家の方が不利だ。
「…」
それが顔に出ていたのか、左近はぱちくりと瞬きした後、またにやりと笑った。
「そう難しい顔すんなよ。俺は刀技と蹴り技しか脳がねーよ」
「!…何故自らの手を晒す……」
「ん?俺は遠目からアンタの戦いを見ててアンタの手を知ってるからな。そちらさんが知らないのは不公平ってやつだろ?」
左近はそう軽く言うが、その剣撃に一切の容赦はない。少しでも隙あれば、勝家の首はすぐに飛ぶことだろう。
勝家は左近の言い振りに落胆したようにため息をついた。
「…暢気なものだ……」
「そうかい?ま、これが俺のやり方さ!」
「っ!」
左近は言いきると同時に勢いよく勝家を蹴り飛ばした。直前に見切って逆刃薙の側面で受けたが、衝動を殺しきれず後ろに跳躍する。
「…………」
勝家は僅かに眉間を寄せ、体勢を整えた。左近が仕掛けてくる前に仕掛ける。
後ろに跳躍させられた分を巻き返すように、三角跳びとでも言うのか、右へ左へと前走を付けて勢いよく跳躍する。助走があった分、左近に負けず劣らずの勢いで勝家は左近に迫った。
「!」
左近は楽しそうに、だがぎらりと目を輝かせて勝家の攻撃を受けた。

何かを求めるように。

何かを見出だすように。

左近は勝家と対峙していた。
「はーーーッ!」
勝家は息を吐き出しながら、勢いよく逆刃薙を振り上げる。左近はバック転してそれを避け、足をつく前に手を軸に回し蹴りをかます。
勝家は一歩足を下げてそれを交わし、片手でくるると逆刃薙を振り回して再び左近に斬りかかった。