2011-4-7 07:40
「…案外警備は手薄なんだな」
長曾我部は今しがた自分が気絶させた化け狸を見下ろし、そう呟いた。どさりと倒れたそれが持っていた槍を手に、長曾我部は慎重に足を進めた。
探し始めてから5分ほど経過した。廊下にずらりと扉が並んでいるのを見た長曾我部は一旦外に出、窓から部屋の中を見て毛利を探すことにしたのだった。庭の警備は薄く、先に倒した化け狸で終わりだった。
「…一階にはいねぇな」
一階にはいないと判断した長曾我部は外階段を上り二階に移動した。
と、そこでふと上を見上げた時、一番上の階にぽつんと窓が1つあるのを見つけた。
「…、まさか」
長曾我部は踊り場の床を勢い良く蹴った。
「…それで、毛利元就って、誰?」
「日本、中国の安芸を統べる人間だ」
「…知らないなー」
天照大神は机の上に置かれた籠の中の菓子を口に放り込んだ。
やたら西洋風な部屋だった。天照大神が口にしているのもクッキーと紅茶だ。白い椅子に腰掛け優雅にお茶を楽しむ少女、そんな雰囲気だったが銀稲荷の表情はとにかく無だった。稲荷も酷くつまらなそうな表情を浮かべている。
そしてそょ二人は指し示された席にもつかず天照大神を見ていた。さすがに居心地が悪くなったのか、天照大神はその視線に銀稲荷を見た。
「なんであたしがそんな事すると思うの?」
「思う思わないではありません。それが事実だからです」
「あたし拉致なんかしてないもん」
銀稲荷はしばらく天照大神を睨んでいたが、はぁとため息をつくとばんっと音をさせて机に両手をついた。
「…致し方ない。率直に申し上げよう、厳島が吐いた」
「!」
天照大神の大きな瞳が更に見開かれた。銀稲荷は机から体を離すと、僅かに腰を落とし、足だけ構えた。
「そっか…ばれちゃってるなら仕方ない、か!」
「厳島!!」
銀稲荷は突如目の前に現われた鬼を切り捨てながら振り向きざまに怒鳴った。
「ッ、大事ない」
厳島は後ろに飛び退き、ぎりぎり同じく突如現われた鬼の攻撃を躱した。袖が僅かに切れている。
「天照大神…予想通りと言えば予想通りだ」
銀稲荷は忌々しげにつぶやき、稲荷を攻撃した鬼も切り捨てた。
「消しはしないよ?ちょっと怪我させてあたしに逆らえなくしてあげる」
「…ッ」
静かに椅子から立ち上がり、空中からどこからともなく出現させた槍を片手に悪怯れなく笑う天照大神に、銀稲荷はあからさまに舌打ちした。
「アンタが認めてくれれば、流石の私でも大事にはしないんだが?」
「だって認めたらあの子返さないとじゃない。やだもん」
「天照大神。わがままなのもいい加減にしていただきたい!」
銀稲荷は勢い良く地面を蹴った。銀稲荷の刀と天照大神の槍が交差する。
「あたしとやりあう気なの?」
「私はその為にここに来た!」
「わぁ銀ちゃんかっこいー。…でも、銀ちゃんでもあたしには勝てないよ!」
天照大神の槍を持たない手が光る。はっとして銀稲荷は飛び退き、上から落ちてきた稲妻を避けた。
右上に刃を上に刀を構え、銀稲荷は再び地面を蹴った。
その頃長曾我部も乱闘に陥っていた。
「う、ぉっとぁ?!」
上の階だからなのか、警備をしているのは天狗だった。その天狗と戦っているわけなのだが、飛び回る天狗を相手にするのは骨が折れた。とはいえすでに四体倒している。
長曾我部は小さく息をつくと、普段使うのより遥かに軽い槍を構えた。