2014-4-21 23:40
幸村は政宗の反応に困ったように笑う。政宗はそんな幸村の表情に、チッ、と小さく舌打ちし、幸村についてくるよう促した。
幸村と政宗はグラウンドから少し離れた、隣接しておいてある水呑場に来た。グラウンドではサッカー部の練習が始まっていて、野球部は筋トレのために畑に行っていた。政宗は水呑場の段差に、どすっ、と腰掛けた。幸村は数段下の所に立ち、政宗に向かい合うように立つ。
幸村は政宗の表情にくすりと笑った。
「…そう怖い顔をしないでくだされ。なんら不思議なことではないでござろう?」
「……うるせぇんだよ、口出しされる覚えはねぇ」
政宗はいらついた口ぶりでそういうと、頬杖をついた。幸村はまた、困ったように笑う。
「口出しなど……それがしはただ、寂しそうな政宗殿が珍しいゆえに」
「めず…勝手にrare扱いすんじゃねぇよ」
「そう不貞腐れんでくだされ、悪気はのうござる。……それがしはあやつが同じ部ではないゆえ、貴殿ほど気落ちはせんですんでおりまするが」
「……お前、オマケに幼馴染みだしな」
幸村は小さく笑うと、政宗の隣に移動して座った。隣に座った幸村に、政宗は目を細める。
「…練習、やらねぇのか」
「その内行きまする。今は少しばかり、貴殿と話したいと思いまして」
「………はっ…争奪戦勝ったんだからさっさと行けよ」
「つれないことを申されるな。折角の腐れ縁でござろう?」
「何も知らねぇ奴が聞いたら誤解するようなこというんじゃねぇよ」
「むむっ……」
「まぁいい。俺も筋トレは面倒だったところだ。お前がそうも突っかかってくるのもめずらしいしな」
政宗はむっとした幸村にようやく笑顔を浮かべ、肩をすくめてそういうとごろりとコンクリートの足場に寝っ転がった。幸村はきょとんとした後楽しげに笑い、同じく寝そべった。
「…ここの空は狭いでござるな」
「広いほうじゃねぇか、ここは」
「ふふ、確かに広い方ではあるかもしれませぬ、が、やはり狭いでござる」
「…………正直、どこに進めばいいのか全く分からねぇ」
政宗は、ぽつり、とそう呟いた。隣で幸村が、ふ、と小さく笑う。そしてぐ、と拳を上に持ち上げた。
「……それがしもでござる。将来のために選べと言われど、今まで言われるがままに従うしかなかったのが突然変わると、どうにも対応しようができぬ」
「急にfreeに放り出される気分だ、前はそれの方が心地よかった筈なんだがな……」
「……目的が持てぬからではないでござろうか。少なくともそれがしはそうでござる、大学に進めと言われておりもうすが、正直、学びたいことは特にないのでござる。政宗殿は?」
幸村は寝そべったまま拳をおろし、政宗の方へ首を回した。政宗は横目でちらりと幸村を見たあと、視線を空に戻して脱力したように笑う。
「…学んでみてぇことはやまほどある、が、それでいいのかと思ってる自分がいる。…昔思ってたよりもはるかに自分はちっぽけなのにな」
「………そうですなぁ……テレビ番組のような悪の組織などおらぬというに…何故かこうした日常を享受することに違和感を覚えまする」
「……これが日常で、早々非日常的な事は起きねぇし、起きたところで巻き込まれるのが相場だ…。あー、もういっそのこと野球選手にでもなってやろうか」
「…野球選手に六本もバットを構えるものはおりませぬ、貴殿には無理でござろう…」
「バァーカ、そんなの分かってんだよ」
今度は政宗が手を上にあげた。掌をひらいて、雲がかってもやがかっている太陽に向ける。
「…分かってんだよ、ただの凡人でしかねぇ、ってことはよ……」
「………」
幸村は政宗の言葉に首を戻し、目を閉じた。