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過去のあなたに恋してる?37

翌日、2年の教室では。
「…は?」
「だから、半兵衛が」
「誰だよ半兵衛って」
政宗が慶次に話し掛けられていた。話の内容は、昨日の小十郎と半兵衛の事のようだ、どうやら慶次は目撃していたらしい。
わずかに興奮したように語る慶次に、政宗はぽかんとした顔をそちらに向け、呆れたように返事をした。
慶次はむっとしたように政宗を見る。
「竹中半兵衛!3年の生徒会の!」
「はぁ…それと小十郎が何なんだよ、3年なら別に話してても不思議ではねぇだろ」
「腕引っ張って全力疾走だぜ?!普通じゃないだろ!」
「でも、なにを話してたかは知らねぇんだろ?」
「……まぁ、そうだけど……」
政宗は慶次の反応にはぁ、と小さくため息をついた。呼び止められていたために持ったままになっていた鞄を机に置いた。
「ったく、朝っぱらから付き合ってらんねーぜ」
「で、でもよー…」
「春も変な事言い出すし、お前と関わるとろくな事ねぇな」
「ひっでぇ!」
「ていうか俺に報告してねぇで本人に聞けっての」
「……分かったよ、ごめんな!」
慶次は政宗のつれない言葉に眉間を寄せ、ぷいとそっぽを向いて教室を出ていった。
「…何逆ギレしてんだあいつ」
政宗は怒りを見せた慶次にきょとんとしながら、さして気にせず席についた。隣の席になった元親が、二人のやりとりにケラケラと笑う。
「女子の話ならともかく、右目の兄さんのことで揉めるなんてなぁ」
「ha-ha、揉めちゃいねぇよ。だけど、あいつはやけに小十郎に興味あるみたいだな」
「何それホモ?」
「やめろよそれはねぇって、ははは」
政宗は元親の言葉にからからと笑いながらも、視線は廊下へと向けていた。

気に食わない。
政宗の顔にはそう書いてあった。




「だーんなっ」
「佐助か」
同じ頃、小十郎は佐助に会っていた。同時に、半兵衛にも会っていた。
「やぁ、おはよう」
「…よぅ」
「!生徒会の竹中さんじゃん。休学終わったの?」
「君は確か新聞部の…あぁ、お陰様でね」
「へぇ、よかったじゃん、今度書かせてよー」
「構わないけど…君まだ部活続けてるのかい?」
「まっ、大した活動じゃないしねー」
佐助と半兵衛は一応互いに知ってはいるらしく、そんな会話を交わしていた。小十郎は会話にははいらず、じ、と半兵衛を見た。
顔色の悪くない半兵衛が小十郎には少し新鮮だった。
「へぇ!あこ受けんの?さすがだねぇ」
「そうでもないさ」
「たしかそこ、豊臣秀吉も受けるよね?」
「ふふ、流石に情報が早いね」
気がつけば、二人は受験する大学の話をしていた。

過去のあなたに恋してる?36

「…用がねぇならもう戻るぜ。文化祭の用意がある」
「うん、そうだね。僕も生徒会に顔を出すよ。……また話せるかな?」
「…話してどうする」
「昔の話をたまにはしたいのさ。平気といえば平気だけど、通じない話があるのもつまらなくてね」
「……それもそうだな。おい、ケータイ寄越せ。連絡先やる」
「あぁ!今はそういえばそんな便利なものがあったね。はい」
小十郎は半兵衛から受け取った携帯電話に自分の電話番号とメールアドレスを打ち込み、それを返すと踵を返した。
「…メールくらいならいつでも相手になるぜ」
「…、ふふ、ありがとう」
半兵衛は小十郎の言葉に僅かに意外そうに小十郎を見たあと、ふ、と小さく笑った。


「………はぁっ、」
階段を下り、教室の近くの廊下まで来たところで小十郎は息を吐き出した。心臓はバクバクと高鳴っている。
内心、半兵衛の存在にかなり驚いていた。自分と同じ境遇の人間がいるというのは考えもしなかった。全く考えなかったといえば嘘にはなるが、それにしても本当に存在するとは思っていなかった。それも、あの半兵衛がだ。
「…竹中半兵衛、か……」
半兵衛とは過去では敵対関係にあった。だが病のために時間に追い立てられるように生きていた半兵衛に、彼が仕えた豊臣秀吉の軍師になってくれと勧誘されたこともあった。
当時は互いの信念が異なったために味方になることなどなかったが、彼の才には小十郎も一目置いていた。
その彼と、まさか再会を果たそうとは。
「…なんで野郎には……。……考えたところで意味はねぇ、か」
「あ!片倉くーん、どこ行ってたのー!」
「!悪い、なんだ」
教室まで戻ってくれば女生徒が僅かに怒りを含んだ声で小十郎を呼び、小十郎は半兵衛の事は一旦忘れ、そちらに向かった。

「…よりにもよって、片倉くんか」
半兵衛も階段を下りて生徒会室に向かいながら、小さく楽しそうに呟いた。小十郎と反して、半兵衛は今の状況を楽しんでいるようだ。
小十郎のアドレスが打ち込まれたページを見ながら、ふふ、と声をあげて笑う。
「…彼もなかなか参っているみたいだね。あんなに簡単に連絡先をくれるなんて。……まぁ、気持ちはわからないでもないよ、片倉くん」
「……?…!は、半兵衛様!!」
「!やぁ、三成くん、久しぶりだね!」
廊下を歩いていると後ろから生徒会の後輩であり、彼のかつての部下である石田三成が半兵衛に呼びかけたので、半兵衛は振り返り、どこか嬉しそうに笑いながらそう返した。

過去のあなたに恋してる?35

小十郎は慌てて辺りを見やった後、半兵衛の腕を引っ掴んでその場を離れるため走った。
「うわっ」
半兵衛はそのような反応を小十郎がすると思わなかったのか、驚き慌てて小十郎についていった。
「?あれ?片倉君?」
教室から小十郎を呼びに他の生徒が出てきた頃には、小十郎の姿は廊下にはなかった。

「は、はぁっ、はぁっ……ッい、いくら治った、と言っても……っ僕は病み上がりなんだ、走らせないでくれたまえッ!」
「…す、すまねぇ…じゃない、お前があんな場所であんなこと言うからだ!!」
「僕のせいにしないでくれたまえ!」
小十郎は半兵衛を屋上に続いている階段に連れ出した。屋上に出れないため、人気がまるでないのだ。
半兵衛は走らされたせいで乱れた息を苦しげに整えながら小十郎を睨むように見た。小十郎は一応は謝りつつも、原因が半兵衛にあると言えなくもないので、思わずそう言い返す。
半兵衛は呆れたようにそう言ったが、それ以上言い募ることはしなかった。
「…というより、てめぇ……」
「…ふふ、僕を誰だと思っているんだい?その程度の情報は手に入れているよ。僕はそういうことに抵抗もないし、気にしてなかった…というよりむしろ、切り札として使えるかな程度に思ってたよ」
「…………」
半兵衛の言葉に小十郎は不愉快げに眉間を寄せたが、それくらいの情報戦はあって当然のことだ、小十郎が似たような状況だったら使ったに決まっている、そう思ったために特別何か言うことはしなかった。
半兵衛は腕を組んで壁にもたれかかった。
「僕が戻ってきたのは一週前くらいかな。その時の様子に昔のような雰囲気はなかったからね。まぁ、記憶がないんだろうと思ってたから、何も不思議ではなかったけど」
「……?…確信を持ったのは今日、さっき、ってことか?」
「まぁね」
「…あの一瞬でよく言えたな」
僅かに感心したようにそう言った小十郎に、半兵衛はくすりと笑う。
「別に、君に記憶がなかったら、仲がいいわけでもないしなんだ?って話になって終わるだけだろう?大した賭けでもないさ」
「………それもそうか」
半兵衛の言葉に納得したように小さく頷き、呟いた小十郎に半兵衛は目を細め、笑った。
「寂しいかい?」
「…てめぇにあれこれ言われる筋合いはねぇよ」
「気持ちは分からないでもないよ。僕も時々そう思う。ただ…僕の場合、秀吉も三成くんも皆、基本的に変わっていないからね」
「…………」
半兵衛は小十郎をさして気にせず、屋上に続く扉の隣にある窓から空を見上げるように首をあげた。あまり外に出ていないのだろう、小十郎と反対に白い肌が僅かに光って見える。
「また築いていけばいいだけだ。………君も、進んでみたらどうだい?それとも、失うのは怖いかな?」
「……うるせぇぞ」
「愛は人を弱くする…そういう秀吉の気持ち、」
「今なら確かに分からなくはねぇ、が……その逆もあるとは思うぜ」
「過去の君は、ある意味そうだったのかもしれないね。それはそれで滑稽だけれども」
「分かってるさ、おかしなことくらいな」
ふふ、と笑いながらそう言った半兵衛を、小十郎は否定しなかった。

過去のあなたに恋してる?34

それから何事もなく日々が過ぎていった。幸村と政宗のグラウンド争奪戦もー時折、何やら真面目な顔つきで話し込むことが増えたがー小十郎と佐助の受験勉強も、毎日のように続いていった。


暑さが引き始めた頃、文化祭が近づいてきた。小十郎も、放課後にはお化け屋敷の役者の練習することが増えた。
「…俺は静かに話しかけりゃいいのか?」
「うん!片倉くんはその方が怖いよ!!」
「…堂々と言われると反応に困るんだが……分かったぜ」
教室のカーテンをすでに暗幕に変えてあり、練習中はまだ日がさしている時間でも教室内は真っ暗だった。
わらわらと裏方用意の為に騒がしい教室を小十郎は抜け、ふぅ、と息をついた。
「やぁ、片倉くん」
「!…竹中半兵衛」
「あれ、僕の名前覚えていたのかい?」
廊下で息をついたところで不意に話しかけられた。驚いたようにそちらを見れば、そこには白い学生服を纏った、髪も白い少年がいた。同学年の竹中半兵衛だ。
彼から話しかけられることはまずなかった為に思わず名前を呼べば、彼も驚いたようにそう言い、くすり、と楽しそうに笑った。小十郎は今生では大した関係では無かった事を思い出し、ふい、と顔をそらした。
「…てめぇは有名だからな。病欠で休学してたって聞いてたが……そもそも、そちらさんが俺の名前を知っているのも意外だったな」
「ふふ、お陰様でね、手術して殆ど治ったんだ。君もそれなりに有名だよ?まぁ、僕が君を知っているのはそのせいではないけど」
「?何言ってやがる、」
半兵衛の意味深な言葉に小十郎が僅かに眉間を寄せ、そちらを見ると半兵衛がぐいと顔を近づけてきた。
思わず顔を離すが、半兵衛は薄く笑いながら小十郎を見つめてきた。かつての彼と同じく読めない半兵衛に、小十郎は更に眉間を寄せた。
「おいー「片倉くん。君は、覚えているだろう」

半兵衛の言葉に小十郎の呼吸は数秒止まった。小十郎の反応に、半兵衛はさらに深い笑みを浮かべた。
「……何の話だ」
「ふふ、僕の他にもいると知って少し安心したよ。誰もそれを外に出そうとはしないけどね」
「!…………」
半兵衛はちらり、と周りを見たあと、小十郎の隣に立った。正確には、窓に背を向けて立つ小十郎の隣で、窓枠に腕をかけ、窓側に向いて立っていた。
「秀吉の名前を知っていても僕の名前を知っているのは中々いない。君の言うとおり、休学していたからね。一緒のクラスになったことのない君が僕の名前を知っているとは思えなくてね」
「……何かようか」
「いいや、気になったから尋ねてみただけさ。僕はこの世界でも秀吉の力になるだけだ。ここの、秀吉にね」
「……その口ぶりから察するに、豊臣には…」
「ないよ。だが彼はまた力の道に進んだ。僕はまた、友として彼の隣に立ちたい。病気も、治ったことだしね」
半兵衛はそう言うと小十郎を見、どこが楽しげに笑った。小十郎は半兵衛とはなかなかの因縁があるが、彼の笑顔を見て小十郎は目を細めた。
「……もう、時間に追い立てられる事もねぇ、ってことか」
「…ふふ、君に同情される日が来るとは思わなかったよ」
「俺もまさか、同じ境遇の人間がいるとは思わなかったぜ」
「ふふ、なるほどね?でも、君は僕とは違う」
「何?」
「流石に政宗君とは過去の関係とは違う関係なんだろう?」
「ぶっ!!」
小十郎は思わず、口内に何も含んでいないのに吹き出した。

過去のあなたに恋してる?33

幸村は政宗の反応に困ったように笑う。政宗はそんな幸村の表情に、チッ、と小さく舌打ちし、幸村についてくるよう促した。
幸村と政宗はグラウンドから少し離れた、隣接しておいてある水呑場に来た。グラウンドではサッカー部の練習が始まっていて、野球部は筋トレのために畑に行っていた。政宗は水呑場の段差に、どすっ、と腰掛けた。幸村は数段下の所に立ち、政宗に向かい合うように立つ。
幸村は政宗の表情にくすりと笑った。
「…そう怖い顔をしないでくだされ。なんら不思議なことではないでござろう?」
「……うるせぇんだよ、口出しされる覚えはねぇ」
政宗はいらついた口ぶりでそういうと、頬杖をついた。幸村はまた、困ったように笑う。
「口出しなど……それがしはただ、寂しそうな政宗殿が珍しいゆえに」
「めず…勝手にrare扱いすんじゃねぇよ」
「そう不貞腐れんでくだされ、悪気はのうござる。……それがしはあやつが同じ部ではないゆえ、貴殿ほど気落ちはせんですんでおりまするが」
「……お前、オマケに幼馴染みだしな」
幸村は小さく笑うと、政宗の隣に移動して座った。隣に座った幸村に、政宗は目を細める。
「…練習、やらねぇのか」
「その内行きまする。今は少しばかり、貴殿と話したいと思いまして」
「………はっ…争奪戦勝ったんだからさっさと行けよ」
「つれないことを申されるな。折角の腐れ縁でござろう?」
「何も知らねぇ奴が聞いたら誤解するようなこというんじゃねぇよ」
「むむっ……」
「まぁいい。俺も筋トレは面倒だったところだ。お前がそうも突っかかってくるのもめずらしいしな」
政宗はむっとした幸村にようやく笑顔を浮かべ、肩をすくめてそういうとごろりとコンクリートの足場に寝っ転がった。幸村はきょとんとした後楽しげに笑い、同じく寝そべった。
「…ここの空は狭いでござるな」
「広いほうじゃねぇか、ここは」
「ふふ、確かに広い方ではあるかもしれませぬ、が、やはり狭いでござる」
「…………正直、どこに進めばいいのか全く分からねぇ」
政宗は、ぽつり、とそう呟いた。隣で幸村が、ふ、と小さく笑う。そしてぐ、と拳を上に持ち上げた。
「……それがしもでござる。将来のために選べと言われど、今まで言われるがままに従うしかなかったのが突然変わると、どうにも対応しようができぬ」
「急にfreeに放り出される気分だ、前はそれの方が心地よかった筈なんだがな……」
「……目的が持てぬからではないでござろうか。少なくともそれがしはそうでござる、大学に進めと言われておりもうすが、正直、学びたいことは特にないのでござる。政宗殿は?」
幸村は寝そべったまま拳をおろし、政宗の方へ首を回した。政宗は横目でちらりと幸村を見たあと、視線を空に戻して脱力したように笑う。
「…学んでみてぇことはやまほどある、が、それでいいのかと思ってる自分がいる。…昔思ってたよりもはるかに自分はちっぽけなのにな」
「………そうですなぁ……テレビ番組のような悪の組織などおらぬというに…何故かこうした日常を享受することに違和感を覚えまする」
「……これが日常で、早々非日常的な事は起きねぇし、起きたところで巻き込まれるのが相場だ…。あー、もういっそのこと野球選手にでもなってやろうか」
「…野球選手に六本もバットを構えるものはおりませぬ、貴殿には無理でござろう…」
「バァーカ、そんなの分かってんだよ」
今度は政宗が手を上にあげた。掌をひらいて、雲がかってもやがかっている太陽に向ける。
「…分かってんだよ、ただの凡人でしかねぇ、ってことはよ……」
「………」
幸村は政宗の言葉に首を戻し、目を閉じた。
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