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オカントリオの奇妙な旅路37

「………、ダイジョブ?」
「…なんとかの」
二人はその後うまいこと逃げおおせ、城から少し離れた林の中にいた。吉継は木にもたれかかるようにして座り、額に手を当てたまましばらく落ち込んでいた。
現場を見てしまったに等しい佐助は揶揄ることも出来ずに困ったように肩をすくめる。
「…まぁ……流石にねぇ、ああいうのは、ねぇ」
「黙りや」
「…うぃっす」
「…それより、右目のあやつはどうしたのよ」
立ち直ってきたか、吉継は額の手をどかすと佐助にそう尋ねた。佐助は、あぁ、と体を起こし、ぴぃ、と指笛を鳴らした。
ざぁ、と小さく音がし、二人の近くの木の枝に例の忍が姿を見せた。
「彼、右目の旦那のとこの忍さん。忍さんって呼ぶのも悪いし、仮に半蔵さんとしとこう」
「……そ、そうか」
「…黒脛巾組という奴か。あれを追ってきた…というより、徳川の手下と共に探しておったというべきか」
「…………そんなところだ」
「左様な者とおるということは……松永あたりに攫われたということか」
「!」
伊達の忍改めて半蔵は僅かに驚いたように目を見開いた。佐助はにやっ、と笑ってみせる。吉継は佐助のそんな表情に、はぁ、とため息をついた。
「…場所は」
「おっ?助ける気マンマン?」
「どうせここまで来たのよ、それを言うなら何故主もわざわざ我を連れ出した?」
吉継はからかった佐助にいたずらっぽく笑ってそう問う。佐助はむ、としたような表情を浮かべるが、諦めたように肩をすくめた。
「…先に言っとくわ。元に戻す方法は、ない」
「………、時間か」
「!!」
「…何故分かる?」
先程から次々言い当てる吉継に思わず半蔵はそう尋ねる。元に戻る方法が時間しかないと判断したのには佐助も驚いたようで、きょとんとしている。
吉継はぱんぱん、と裾についた土を払いながら立ち上がった。
「そうさな。主は今戻す方法がないと言った。ならば戻る方法がないわけではない。そう回りくどい言い方をするというとなると、それくらいしか思いつかなんだだけよ。松永の事は絡んできたのが奴くらいだからよ」
「さぁっすがー、頭いいねぇ」
「………」
半蔵は目を細め、ふむ、と小さく呟いた。どうやら存外危険な対象らしい、と判断したようだ。吉継はそんな半蔵には興味を示さず、佐助の方に向き直った。
「ならば早に探しに行くとしよ、………本音を言えば、正直身体がだるい」
「!……、そだね、俺様もなんだわ。行こ、半蔵さん!連れの人戻ってこないし、探さないと」
「……、あぁ」
結局久秀を追った忍は戻ってこなかったため、3人は小十郎を探しに動き始めた。



 同じ頃小十郎は、無言で久秀と向き合っていた。久秀は何も話さず、小十郎も何も言わず相変わらず転がされたままだ。
だが、少し前から、少しづつ身体が違和感を持ち始め、縛られたままでいるのは若干辛く、息が上がってきた。
「………っ……っ…」
「…先から様子がおかしそうだが大丈夫かね?」
「…ようやく話したと思えばそんな事か?」
「私は何もしていないからね。少し気になりはするのだよ」

オカントリオの奇妙な旅路36

「…いくら罵倒されようともついていない嘘を認める事など出来ませぬ」
「……ほう。では、」
「?!!?!」
元就はぐい、と吉継をその場に組みふした。吉継はぎょっとしたように元就を見上げる。
元就は無表情のまま、だがどこか楽しげに吉継を見下ろしている。
「男を抱く興味はないが貴様の口を割らせるのにはこれくらいしなければなさそうだからな」
「な……っ!お戯れを、ぅあっ?!」
「こういう時は声は潜めるものぞ」
「いっ……!」
ぐ、と袂を割って手を忍ばせ、足の間に体を入れてくる元就に吉継は本気で焦る。最後までやるつもりは流石にないだろうが、慣れぬ事に確実に我が出る。
吉継は慌てて着物の中に入ってくる元就の手を掴む。元就は目を細め、にやと笑う。
「ほう、逆らうのか?弟共がどうなっても知らぬぞ」
「………っ」
つつ、と指を這わされびくりと肩を跳ねさせる。自分がついた嘘で墓穴を掘る羽目になった。
黙って視線をそらす吉継に元就はふふん、と鼻で笑う。
「そうまでして隠すか…大したことではないだろう」
「……抱くおつもりならば、さっさと済ませてはくれませぬか…」
「我とて左用な趣味はないわ。貴様が口を割らぬからこんな羽目になる。それなりの代償は払ってもらうぞ」
「…割る口がありませぬゆえ」
元就はつまらなさそうにちっ、と舌打ちすると、本格的に吉継の上についた。吉継は平静を装いながらもどうするべきか必死に考えを巡らせた。
衆道など冗談ではない。やったこともやられたこともないが、どちらにせよろくなことにはならない。どうにかしてこの状況を打破しなければならない。
だがどうやって?
「………(これは困った……!)」
だがその時。
「毛利様!!忍が侵入した模様!」
「何?我に報告しておる場合か、使えぬ駒め」
バタバタと部屋の外が騒がしくなり、兵の一人が元就にそう報告する。元就は呆れたようにそう返し、だが一旦吉継の上から体を起こした。
吉継は幸いと思いながらも、何事だと周囲の気配を探った。

かたり、と天井からおとがする。
「!」
元就は軽やかに上からの攻撃をよけた。元就目掛け投げられたであろう苦無が吉継すれすれに床に突き刺さる。
元就は部屋の隅に置いてあった輪刀を構え、天井からは小さな影が飛び降りる。黒い布で顔を隠したそれは、ちらりと元就を見た後吉継の方を見た。その動きに元就はふん、と鼻を鳴らす。
「…貴様の連れか」
「!」
元就が動く前に小さな影は吉継の腕を掴む。吉継はそれが誰かを察し、すばやく立ち上がった。
元就は輪刀を二つに分け、踏み込むと同時に斬りかかったが二人はそれをギリギリかわし、部屋の外へと飛び出した。
「こっち」
「!」
他の兵にも見つかったが、小さな影、佐助は予め脱出ルートを決めてあったらしい、二人は兵達を避けて城の中へと姿を消した。
輪刀を持ったまま元就は二人の姿を探したが、見つからないと分かると興味をなくしたように部屋に戻った。

オカントリオの奇妙な旅路35

「…何が目的だ。俺をダシに政宗様を脅迫でもするつもりか?」
「脅迫とは嫌な言い方をしてくれるな」
「はっ、間違っちゃいねぇだろうが」
「安芸に来たということは香を作った人間を特定したのだね」
「!」
小十郎はぴくり、と反応を示す。久秀は懐から、例の香を取り出し掲げるように持った。いつの間にか登った月の光を反射する。
わざわざ手に入れたのか?と小十郎は驚いたように久秀を見た。久秀本人が買ったとしたらそれはとてもシュールな風景だろう。
月の光で久秀は観察するようにそれを見る。
「全く卿等は面白いな。わざわざ自分達を変えた犯人を探しに加賀まで行ったとか。実際に他の物でも容器は同じなのだから探せばよかったものを」
「…戻し方が分かると思ってたからな」
「成程焦りからの無駄な行動という訳か」
「…ッ」
さらりと言われた言葉に思わず苛立つが、間違ってはいない。確かに合理的ではない方法だった。
何も言えずに小十郎は押し黙る。
久秀はくくく、と喉の奥で笑った。ことり、と香を傍らに置く。
「その愚かさはその見た目と相まって可愛らしく思えてくるな」
「…黙れ」
「縄はまだ解けないのかね」
「…っ」
小十郎はぎっ、と久秀を睨みつけたが久秀はにやにやと笑うだけだ。縄は全然解けない。
久秀は立ち上がると、転がしていた小十郎の傍らにしゃがみこんだ。ぐい、と顎を掴んで持ち上げる。
「しかし、その強面は昔からかね」
「…触るんじゃねぇ」
「態度の悪さもその頃からか」
「っ、」
少し力が込められただけで、痛みを感じる。小十郎は自分の非力さに情けなくなった。



 「……ほぅ、そう来たか」
「…そろそろ戻らぬと弟共が………」
「ならば早に我に勝てばよいのよ。農民風情で将棋が得意とはまた、変わっているな?」
「……唯一の慰みに学んだだけにございますれば」
その頃吉継はまだ元就から解放されていなかった。今度は将棋の相手をさせられている。指しようによってはつけいられる事になりかねない。
はぁ、と吉継は小さくため息をつく。元就は、ふん、と鼻を鳴らした。
「つくづく貴様は農民には見えぬな」
「では狸にでも見えますかな?」
「狸に化かされるほど間抜けでないわ」
「…、……」
ぱちり、と打たれた手に次の手を考える。
疲労が増し、そして何故か身体が酷くだるくなってきた。そう、病にかかり始めた頃のようなだるさを、感じ始めていた。
「貴様の番ぞ」
「…分かっております、る」
駒を掴んだ手が不意に痙攣し、思わず吉継は駒を取り落とした。からんと鳴った音に元就は意外そうに吉継を見、吉継はわずかに驚いたように震える手を見る。
「…寒いのか?」
「いえ、さようなことは」
「その割には震えが止まらぬが。何ぞ、病でも患っておるのか」
「ご領主様がお気になさるような事ではありませ、」
不意に顔をがしりと掴まれ、言葉が途中で止まった。毛利は無表情の顔で吉継を真っ直ぐみすえる。
「…いつまでこの茶番を続ければ気が済むのだ?大谷」
「………」
「まだ認めぬというのか?全く往生際の悪い男よ」

オカントリオの奇妙な旅路34

「…若返っているのが本当だとはな」
「原因は大体掴めて、後は時間で治る可能性しかないんだけどね」
「!」
忍は僅かに驚いたように佐助を見た。あっさり情報を漏らすとは思わなかったのだろう。佐助は疲れたように肩をすくめる。
「右目の旦那にも色々世話になったからねぇ。なんだかんだ一緒に動いていたし、そんな隠すなんてことしないよ」
「…。あの忍に心当たりは」
「今まで俺様達の現状に勘づいて近寄ってきたのは、松永しかいない」
「松永久秀か…」
忍は僅かに考え込む様子を見せる。佐助はふ、とその時先程から感じていた違和感に気がついた。
吉継がいない。
「後もう一個。もう一人いたと思うんだけど、右目の旦那と一緒に」
「比較的若い男か?それなら毛利元就に連れていかれていた」
「えっ?!」
佐助はぎょっとしたように聞き返すが、肯定の返事しか返ってこない。佐助は面倒なことになったと言わんばかりに眉間を寄せた。
「(どうなってんだ、どうして…!)」
「毛利とて確証があるわけでは無さそうだったがな」
「…作った薬師の言葉を信じるなら、俺様達はそろそろ元の体に戻る。大谷の旦那にも結構借り作っちまってんのに、毛利の前で戻るような事にさせるのはいただけねぇ、助けねぇと」
「今日話に付き合えと言っていたから、ぼろを出さなければ夜には解放されるだろうよ」
「そうなの?でも、今の旦那結構滅入ってるっぽいからなぁ…ボロ出してもおかしくない…」
佐助は、はぁ、と深いため息をついた。最後の最後で、厄介なことになってしまった。



 「…う………」
それと同じ頃、連れ去られた小十郎はうっすらと意識を取り戻した。朦朧としながらも辺りを窺うと、どうやら山小屋らしいところにいることが分かった。
手は後ろ手に縛られていて、動かすことはできない。小十郎は誰かいないか、軽く頭を動かした。
「起きたかね?」
「!」
直後聞こえた声に、びくん、と肩が跳ねた。寝返りを打つ要領でそちらへ体を向ける。
はたして、そこにいたのは久秀だった。入口近くに座っている久秀を小十郎は精一杯睨む。
「てめぇ、松永ァ!」
「おや、卿は隠しだてしないのだな」
「はっ、白白とよく言うぜ」
縄をどうにかしようともがくが、縄抜けすることはできない。久秀はもがく小十郎にくすり、と小さく笑う。
「まぁそう暴れてくれるな。どうせ騒いだところでここに人は来るまい。まぁ…卿の部下の忍はどうだか分からないがね」
「!」
小十郎は久秀の言葉にはっとしたように久秀を見る。小十郎はまだ、部下が近くにいたことに気がついていなかった。
久秀はわざとらしく驚いたような顔を作る。
「おや、気がついていなかったのかね?卿と共にいた武田の忍も攫うつもりだったのだが、見事に邪魔されてしまってね」
「…………」
「安心したまえ。逃げられたそうでね、殺してはいないよ。まぁ、こちらの後を追ってきた忍はどうなったか知らないが」
「…………ッ!」
小十郎は小さく唇を噛んだ。

オカントリオの奇妙な旅路33

「…して、そのふざけた格好はどういうことぞ?」
「ふざけた…?それほど珍妙な格好でございましょうか?」
「気持ち悪いからやめよと言うておる」
「…ならご領主様も俺を大谷と呼び他のお方として扱うのをやめてはくださいませぬか」
自分をしっかりと見据えてそう言う吉継に、元就はふんと笑う。
「ただの農民にしては随分はっきりと物を申すな」
「早くに両親が死にました故、臆していては弟どもを食わせられませぬ」
「ほぅ?口先は大したものよな。……ふふ、よいわ。どこまで貴様が嘘を通せるか、みものよ」
「俺は嘘は申しておりませぬよ」
ばちり、と二人の間に好戦的に火花が散った。吉継は再び、だが心の中で面倒なことになった、と呟いた。
元就はふん、と小さく鼻を鳴らし、茶碗を下に置く。
元就は吉継が三成と別に動いているという言葉を最初から信じていなかった。だが裏切りを最も憎む三成が嘘をつくのもおかしいし、さして嘘をついているようにも見えなかった。そのため、何故吉継がいないのか、珍しく元就には疑問を抱いていたことだった。
なんとなく事態を察し始めたのも、京、堺から戻ってきた三成の様子を見てからだった。元就はす、と目を細めて目の前の子供を見据える。似ているかと問われれば、素顔を見ていない元就には全く分からない。だが、纏う雰囲気、それは吉継のものだった。
「(京のくだらん噂を最大限拡大したくだらん仮説ではあったが…まさか当たっているとはな。まぁこやつは認めぬが…)」
元就は、ふ、と口元に笑みを浮かべる。
「(こやつがいつ、ボロを出すか…多少は楽しませてもらうぞ)」

「(全くいやらしい笑みよな。楽しんでいやる)」
吉継は感情が表に出ないようにするのに大変だった。今までは多少表情が崩れても元々崩れた顔、おまけに包帯で隠されていたから問題なかった。だが今は違う。表情が少しでも動けば相手に分かってしまう。元からこうした駆け引きは得意とはいえ、面倒なことに違いはなかった。
「(これで我とでも言えば奴らしからぬ笑みを浮かべるに決まっておる。俺とは言いにくいものよ)」
「まぁよい。ならば城下の事を話してみよ。我に対する文句でも構わぬが」
「そのような恐れ多い事は…!俺はここより遠く離れた村に住んでいる者でございますゆえ、あまり情勢には詳しくありませぬが」
だがもうやるしかない。吉継は半ば諦めのような気合を入れて、口を開いた。



 その頃佐助はと言うと。
「…何、あんたら」
小十郎と同じように布を噛まされそうになった時、見知らぬ忍に助けられていた。忍により少し離れた河川敷に連れてこられた佐助はそう尋ねる。武器は取り上げられていない。
忍は少し迷う素振りを見せた後、佐助を見た。
「俺は欧州筆頭伊達政宗様に仕える忍だ」
「!!」
「貴様は猿飛佐助だな?小十郎様と思われる子どもを追っていた時、そう貴様の事を呼んだ」
「…………」
佐助はしばらく考え込んだ後、諦めたように頷いた。
「…独眼竜には勘づかれてるみたいだし、あの忍達の事も右目の旦那の事も気になる。否定しない方が吉だね」
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