【あの日、見た空は何色でしたか?】
記録が30から1に戻った日、君は不思議そうに空を眺めていたね。
僕が漕いだ自転車での帰り道。
荷台に腰掛けた君は訳も分からず、夕暮れの空を指差した。
「私はこの色しか知らない」
鮮やかな朱を目に宿して言う。ちらりと垣間見た横顔はとても切なそうで……。
僕は残酷なことを聞いてしまったと思った。
「僕もこの色しか知らないよ」
君に同情した訳ではない。だから、これは決してウソではない。
「知りたくもない」
「でも、アナタは見えているのでしょう?」
「ムリしなくていいよ」と優しい声音で囁いた。僕はこれぽっちもムリなんてしてはいないのに。
「君の色しか見えなくても僕は生きてけるよ」
「なら、私の分まで精一杯生きてね」
それはムリな話だ。
僕は応えず、急な坂道をのろのろと登った。
「今日の私はまた死んでいく」
背中がフッと軽くなった。
「僕だって死んでるよ」
自転車を漕ぐの止め、振り返る。
「そう?」
「うん」
君の冷たい瞳を真っ直ぐに見つめて頷いた。
「帰ろう、明日がないけど。帰ろう」
そうやって日々、何事もなく、僕らは色を失っていく――。
昔からそうだった。
世界が合わない人だった。
アナタの言ってる意味もわからないし、アナタも私の言ってる意味をわからない。
ついさっきまで母と言い争いをしてた。
とてもとても小さな原因だったけれど。
色々と溜まってたんだと思う。
いつもならすぐ切り上げるところをしつこく迫ったんだ。意味が分かなかったからね。
そうしたら、母が泣いて自分の考えた結論を押しつけて寝室に引っ込んだ。
自分も酷い失言したよ。
脳内でどういうことが思考を巡らせたらね、ついぽろりと言っちゃったんだ。
今、書いてて自分がしつこくなってしまったのは、『母に仕切られた』と感じたからなんだろうなぁ。
ずっと私、大事なところで折れてきたからだろうなぁ。
両親にはいつも好きなことを貶されてきたなぁ。
だから本当に好きなものは言えない。
最近の私の勤務態度が頗る悪い。
色々と嫌になってる。
お客に怒られちゃったし、ね。
でも、何も感じなかった。「あ、そっ」って感じ。
最初っから感じが災厄な客だったからかな?
まーどうでもいい。
全員、死ねばいいとは思ってるからどうでもよくなってる。
それは何も感情が湧かない私だから。
全て恨んでる私だから。
きっと君は痛いじゃないかな?
私と違って君は人間だから。