あなたの描く幸せって何ですか?
真っ白な画用紙に色とりどりのクレヨン。
あなたは何色を手にとる?
どんな絵を画用紙に描く?
最初はわくわくする。
きっと自分は幸せになれるから。
幸せになれない自分がいるという概念がないから。
だけど、綺麗な色ほど誰かに奪われるし、素敵な絵ほど誰かに汚される。
色は有限で失っていく。
あなたは今、幸せですか?
マリーは、とてもおませな娘。
小さい頃から男の扱いが上手かった。
だから、マリーは殺された。
「火遊びをしすぎたのよ」
「自業自得ってこの事ね」
「もつにもつれて死んじゃった!」
みんなそう耳元でコソコソと囁いた。
好き勝手、みんなマリーを貶めた。
「誰もちっとも泣いてくれやしない」
マリーのために哀憐の涙を見せる参列者がいない。
黒装飾に隠れたベールの下で微笑を晒す者さえいた。
マリーが眠るお墓には黄色の薔薇が贈られた。
【マリーの日記】
まるでお人形のような女の子。
絹糸のように滑らかな金色の髪が陽の光でキラキラとして。
陶器の肌は白く美しく。嵌め込まれた二つの宝石に見つめられれば、誰もが引き込まれてしまうだろう。
生前、マリーを一目見た者は恋に落ちた。
そして、最後に辿り着くのは憎悪であった。
「嗚呼、可哀想なマリー!」
だから、殺されてしまったのね!
彼女の胸に似つかわしくないサバイバルナイフで飾られて。
裂けた皮膚から溢れた鮮血が真っ赤な薔薇の花弁を辺り一面に散らせる。
色を奪われてもマリーの美しさは失わない。
「本物のお人形のよう――」
薔薇の褥で眠る麗しき乙女。
王子のくちづけを永遠に持つ。哀れなお姫様。
【マリーの日記】
マリーの初恋は、お父様だった。
マリーのお願いを何でもきいてくれるお父様が誰よりも一番、大好きだった。
「マリーは、私の可愛い娘だからね。特別さ」
お父様がくれたクリーム色のテディ・ベアはマリーのお気に入り。
ブルーのお目々がマリーとおそろいで、すぐお友達になれた。
「マリーね、大きくなったらパパとけっこんするの!」
お父様の胸に抱きついたマリーを微笑ましく見つめながら。
「そうかそうか。でも、パパはママと結婚しているからなぁ。困ったなー」
困ったと言いつつ、頬がゆるんだお父様が可愛らしく口を尖らせたマリーの額にキスを落とした。
マリーの全部、お父様に捧げたのに。
純潔の白い薔薇だけがマリーの手許に遺された。
【マリーの...】
愛おしいマリーは、天国にいってしまった。
階段を駆けてゆく少女をずっと寄りそっていたテディ・ベアが見送る。
優しい瞳が朝露の雫で濡れていた。
ポツリ、と窓辺に残されたテディ・ベア。
視線の先には薔薇の庭園が可憐に咲き誇る。
彼女の甘い匂いが懐かしい部屋で。
瞳に映る薔薇の色は――。
おわり
ここまで、閲覧して頂き、ありがとうございました。
無性に書き始めたら晒したくなったので、晒してしまいました。
マリーをいじめないでやってください。
【あの日、見た空は何色でしたか?】
記録が30から1に戻った日、君は不思議そうに空を眺めていたね。
僕が漕いだ自転車での帰り道。
荷台に腰掛けた君は訳も分からず、夕暮れの空を指差した。
「私はこの色しか知らない」
鮮やかな朱を目に宿して言う。ちらりと垣間見た横顔はとても切なそうで……。
僕は残酷なことを聞いてしまったと思った。
「僕もこの色しか知らないよ」
君に同情した訳ではない。だから、これは決してウソではない。
「知りたくもない」
「でも、アナタは見えているのでしょう?」
「ムリしなくていいよ」と優しい声音で囁いた。僕はこれぽっちもムリなんてしてはいないのに。
「君の色しか見えなくても僕は生きてけるよ」
「なら、私の分まで精一杯生きてね」
それはムリな話だ。
僕は応えず、急な坂道をのろのろと登った。
「今日の私はまた死んでいく」
背中がフッと軽くなった。
「僕だって死んでるよ」
自転車を漕ぐの止め、振り返る。
「そう?」
「うん」
君の冷たい瞳を真っ直ぐに見つめて頷いた。
「帰ろう、明日がないけど。帰ろう」
そうやって日々、何事もなく、僕らは色を失っていく――。
*鬱っぽい話なので注意です。
【オオカミ少女】
物心がつき始めた頃、少女は、母親に嘘をついてはいけないと教えられました。
でも、母親は制限まで教えなかったので。
少女は正直に、神に懺悔をするかのように母親に真実を打ち明けました。
少女は、いつも外ではひとりでいました。
誰も少女に話かける人はいませんでした。
だって、正直者の少女は本当のことばかり伝えるのでみんな少女のことを好ましく思わなかったのです。
だけど、少女は友達が欲しくて母親に相談しました。
母親は最初は親身になって聞き、少女に助言を言いました。
それでも少女には友達ができませんでした。
また少女は母親に聞きます。何度も聞きました。何度も同じことを聞く少女に母親は耳障りに感じたのでしょう。
「知らないわ、そんなの」
怒った母親が少女に言い放ちました。
その日から少女は母親に外のことを話せなくなりました。
母親に怒られることが少女にとって怖かったのです。
それでも、母親は少女に外の事を聞いてきました。
本当のことを話したくない少女は嘘をつきました。
母親の教えを少女は自ら破ったのです。
最初は罪悪感で胸が痛くなりましたが、慣れてくると嘘をつくことが平気でいられるようになりました。
そして、嘘をつくことを覚えてからは少女はひとりでいることが少なくなりました。
しかし、少女は本当のことを母親に打ち明けませんでした。
なぜなら、
母親が嫌いだったからです。
おわり
吐露をした・・・・。
相手はいない。受け止めたのは無機質な壁。
何回も謝った・・・・・。
誰もいない。気付いたら毛布に包まって喚いていた。
無気力な人生に終止符を打ちたくて、
無理に地下から出てきても
影はいつも背後にべったりとくっついて、侮蔑の言葉を贈った。
耳を塞げば、目を背けられる。
気づかなけば、息が出来る。
意味がないのに、忌みがある。
歩ける足があるのに、どこは私は浮いている。
この世界に居場所はどこにもなくて。
地面を這う萎んで少し浮く程度の風船になって
私は死んでいくんだ。
空気になった瞬間
存在が無になれば、永遠という意味で
煩わしい糸が消える。
私なんてここには、存在していなかった。