深々と降り積もる雪を窓の外に眺め、しばしの間を置いてカーテンを閉めた。この地域の冬は雪深い、明日も早めに起きて1人で雪掻きをせねばならない事を考えると、思わずため息が出る。

「やれ、大晦日と元日くらい雪の心配をせず過ごしたいものだがね」

 常ならばその呟きに対して同意なり意見なりを返してくれるドリフトは、今所用で母星に滞在している。明後日には帰って来る予定だが、どうにもこうにも冬とは厄介な季節で、寒さのせいか人恋しくていけない。

「どうせなら私も一緒に里帰りすれば良かったかな」

 とは言え、たかだか一週間程度では何をする事もない。と断ったのは自分であり、今更後悔しても詮無い事だった。
 気を取り直して、レポートの続きを片付けてしまおうとコタツに深く腰掛けた瞬間。ピンポーン、と呼び鈴が来客を告げる。
 パーセプターはそれに思わず眉根を寄せ、こたつ布団を握る。こんな夜更けに、まして雪の中を訪ねて来る者などいる筈が無いのに。訝しみながらもそろりと立ち上がり、音を立てぬよう玄関に向かう。

 ピンポーン

「誰だい、こんな夜更けに」

 少し身構えて扉の向こうに声を掛けると、ドサッとなにかを雪の上に置く音がして、カチャンとカギの外れる音がした。それに目を見開いたのもつかの間、カラカラと軽い音を立てて引き戸が開き、冷たい風と共にひらりと雪が舞い込む。

「ただいま、パーセプター」
「え?」

 佇んでいたのは雪より白い機体、くすんだ外套の上で積もった雪が滑り、どさりと足下に落ちる。

「ドリフト…何故こんな時間に?帰って来るのは明後日では…」
「話は後だ、雪が吹き込んでしまうから中に入ろう」

 ドリフトは雪まみれの外套を軽くはたいて脇に抱え、ほうきで身体から落ちた雪を外に掃き出し、急いで戸を閉める。少し持ってくれ。と手渡された荷物を、ぱちくりと目を瞬かせながら眺めていると

「蕎麦を買ってきた」
「夜食なら家にもあるのに」
「何を言ってるんだ。年越し蕎麦だよ」

 何を言ってるんだはこちらの台詞だ。彼がニホンかぶれなのは知っていたが…まさかそのために予定を早めて帰ってきたのだろうか?居間に戻って外套を掛け、そのままさっさと台所へ歩いていく背中が心なしか楽しそうに見える。

「向こうでブラスターに会った」
「ああ…彼は元気だったかい?」

 ドリフトはたまに前後の脈絡を無視して話をする時がある。蕎麦の話がいったいいつの間に母星のブラスターに話が飛んだのか、やや戸惑いながらも、それはパーセプターにとっても親しい名だから、話にのぼればやはり近況が気になる。

「とっとと帰れと怒られてしまった」
「はあ?」

 それにしてもこの飛びっぷりは無いだろう。先から私は、疑問符ばかり口にしている気がする。

「パーセプターがいないと寂しくてな、管を巻いていたら部屋から蹴り出されてしまった」

 その様子を脳裏に浮かべると、恥ずかしいやら情けないやら

「またお前さんは…後でブラスターに謝っておこう」
「今度はちゃんとパーシーを連れてこいと言われたよ」

 どうやら、人恋しいのは私だけではなかったらしい。

「確かに、私も同行した方が良さそうだな」
「是非そうしてくれ」
「じゃあ私は居間で待っているよ」
「おう」

 荷物をドリフトに返して居間に戻り、私は再びコタツに腰掛ける。かき揚げも買ってきたんだ。なんて声が台所から聞こえてきた。

「夜のうちに初詣に行くかい?」
「いや、眠りたいし朝になってからにする」

 ああ、今夜はドリフトと眠れるんだな。コタツの天板に顎をのせながら、もそもそとみかんに手を伸ばした。