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インアラ





「インフェルノ、大事な話ってのはいったい何なんだ」
「ああ…うん、もうちょっと待ってな」

 大事な話があるからパトロールに付き合ってくれ、と乞われるままについて来たはいいものの、インフェルノときたら何度呼びかけても、ああ。とか、うん。を繰り返してばかりで一向に話を切り出そうとしない。それ以前に今のインフェルノは上の空というか、酷く注意力散漫で、ビーグルモードだというのにあっちにふらふらこっちにふらふら。あんまり危なっかしいものだから、無理やりトランスフォームさせ、今は自分が手を握っている。
 全く!万一にも消防車がよそ見運転で事故なんて、笑えなさ過ぎる。
 こちらの心配を余所に、インフェルノは何か考え事でもするように唸ってみたり、心ここに在らずといった有り様だ。

「全くもう…」
「うん」

 駄目だこりゃ、今日は自分がしっかりしなければ。しかしインフェルノは呑気と言うか大らかと言うか…一昨日デストロンとの戦いがあったばかりだというのに、少しばかり緊張感が足りないのではなかろうか。そう胸中で嘆息した瞬間、不意にインフェルノが歩みを止めた。

「インフェルノ?」
「……」

 ここは街の中心に位置する公園、その一角。昼時となれば親子連れや会社員で賑わったここも、夕暮れ時とあって人気はまばらだ。広場の中心に立つ木を見上げた時(自分が見上げる位なのだから、人間達にとっては本当に大きな木だ)ヒュウと冷たい風が吹き、道行く人間達は背を丸めて足早に家路を急ぎだした。

「アラート」

 不意に名を呼ばれインフェルノの方を向くと、さっきまでの様子が嘘のように、しっかりとした視線で自分を見据えていて…その瞳があんまり真摯だったから、思わずぴいんと背筋を伸ばしてしまった。

「お前に、これを渡したくて」

 "これ"は小さなスノードームだった。

 ドーム形の透明な容器の中は透明な水溶液で満たされ、赤い服を着た子供と小さな家に、白くたゆたう薄片が静かに降り積もってゆく。手のひらの上で揺らせばふわりと薄片が舞い、再び音もなく降り積もる。

「…とてもキレイだな。でも、どうしてコレを俺に?」

 スノードームからインフェルノへと視線を戻すと、困ったように口の端を歪め、少しの間もごもごと何か呟いていたが、やがて踏ん切りを付けたのか、小さく肩を竦めてその口を開いた。

「本当は、一昨日渡す筈だった」
「え…」
「この木が美しい光で煌めいているのを、お前にも見せてやりたかった。けど」

 それは叶わなかった。あの雪深い山麓での戦いは、予想を超える広範囲に被害をもたらし、交通網や人間達の施設の復旧作業、そして怪我人の救助、その後始末は今も完全には終わっていない

「お前のサンタになりたかった」

 その言葉に、悲しくもないのに胸が詰まって、涙がこぼれそうになる。

「インフェルノ」

 来年は、自分がインフェルノのサンタになりたいな。

「ありがとう、ずっと大切にする」









10のお題で連作そのI
結局年越しちゃったよ。

メガレザ

セピア色


「なんだこれは?」

『今からクリスマスプレゼント送るから、スペースブリッジの前で待機してろ!!』

 という謎の通信がスタースクリームより入った僅か30秒後、ガタン!という、荷が送られて来たと言うにはいささか乱暴な音が扉の内で鳴り、何事かと扉を開ければ、プレゼントという心踊る響きとは大分かけ離れた…無骨な鋲でとめられたコンテナが斜めになって引っかかっている。

 ドゴン!!

 首を傾げながら一歩踏み出したその瞬間、凄まじい音と共に、コンテナの内側から拳が生えた。

「っ!!??」

 予想だにしなかった展開に、元々丸い目を更に丸くし、思わず小さな悲鳴が漏れる。しかし、本当に驚くのはこれからだった。

「スタースクリーム!!この愚か者めが!!貴様今度という今度は許さんぞ!!」
「メ、メガトロン様っ!?」

 聞き間違えるなど有り得ない、400万年待ち続けた主の声だ。

「い、今お助けします!しばしのご辛抱を!」
「何?その声はレーザーウェーブ…ならばここはセイバートロン星か!」


* * *



 すったもんだの末、なんとか主をコンテナから助けだし、とりあえずラウンジで休んでいただく。

「スタースクリームにも困ったものですね」
「全くあの愚か者は…」

 ガードロボにスペースブリッジの調整を言いつけ、自分は主の愚痴を聴くというお決まりの流れに、何だかなぁ…とため息をかみ殺しつつ、エネルゴン酒を冷蔵庫から取り出して主へ酌をする。

「ああ、スタースクリームと言えば…」
「ん?奴がどうした」
「貴方が来られる直前に「クリスマスプレゼント」なるものを送る。と通信があったのですが「クリスマス」とは何の事かご存知ですか?」

 すると主は酷く面食らった表情になり、次いで苦々しく眉をひそめ、そしてやれやれといった様子で大仰に肩を竦めた。

「あ、あの。おかしな事を聞いてしまいましたか?」
「…愚か者めが、余計な真似をしおって、これで上手くごまかしたつもりか」

 話が見えずぱちくりと瞳を明滅させると、主は苦笑しながら息を吐き、エネルゴン酒を口に含む。そして地球におけるクリスマスという行事の話の後、ぼやくように呟いた。

「公には出来ぬ、会いに行きたい者がいるのだろう」
「ああ…なる程」

 さてはて、どうやら自分は知らぬうちにダシに使われてしまったようだ。

「では…どうなさいますか?すぐお戻りになられるのなら、急いでスペースブリッジを起動させますが」
「いや、しばらくここにいよう。お前と愚痴以外の話もしたいしな」










10のお題で連作そのH
もう大晦日だけどね

スパイク+バンブル




「おーいバンブル!こっちこっち!!」
「了解!すぐ行くよ」

 輝く新雪の上に並ぶ大小二つの足跡、真っ直ぐ続いたかと思えばそれはジグザグに交差し、めちゃくちゃに走り回った跡に続いて転んだらしき大きな跡、そして足跡からタイヤの跡に変わる。

「司令官達喜んでくれるかなあ」
「大丈夫さ!オイラが保証するよ」

 今年は自分達がサンタになろう!というスパイクの発言にバンブルが同意し、こっそり進めていた秘密の作戦。

 イブからクリスマスにかけ、夜通し働いた皆の為に用意したプレゼント達は、彼らのベッドの脇に用意されている(勿論ちゃあんと特大の靴下の中にいれてだ)。本当なら寝ている間にあげたかったのだけど、この際仕方がない。

「バンブル!司令官達だ」
「本当だ!おーい!!」








10のお題で連作そのG
もう年末だよ…orz

コンボイ←マイスター

「愛していた」と伝えてほしい



「やれやれ、やっとデストロンを追っ払ったと思ったら、次は雪掻きですか」
「そうぼやくなマイスター、仕方がない事だ」

 復旧作業(…と言えば聞こえは良いが、実際は単なる雪掻き)を始めて早2時間、既に時刻は11時45分を回っていた。本当ならば基地で、明日のクリスマスに思いを寄せている筈だったのだが、この分では日を跨ぐのは確実だろう。

「そりゃもちろんですがね、人間達はクリスマス休暇だってノンビリしてるのに、って思えばぼやきたくもなりますよ」

 スノーショベルを雪山に突き刺、全身をほぐすようにぐっと伸びをする。静謐に輝く月を仰いでほっと一つ排気をすれば、それは白い吐息に変わり冷えた夜気に霧散していく。
 トランスフォーマーである自分達が凍える程ではないが、やはり寒いものは寒い。正直もう基地に帰りたいのだが、やらねば終わらない。気温が下がるにつれて、先から下降の一途を辿っていたやる気を奮い立たせ、もう一度ショベルを手にとった。

「…マイスター」
「とは言え、このままクリスマスが終わっちゃつまらないですし、もうひとがんばりしますか」

 あえて司令官の言葉を遮り、努めて明るい声を出す。そうでもしないと悲しいのがばれてしまう気がして。
 今は遠くに見える街の灯り、ポツポツと小さく輝くそれらイルミネーションを、間近でみた時の美しさと言ったら!!以前カーリーに見せて貰った宝石箱みたいで、それこそ数万年ぶりに心が弾んだものだ。
 それは光の煌めきだけではなく、行き交う人々の笑顔や陽気な音楽、何よりも"これから楽しい事がやってくる""幸せな事がおきる"という期待感が街に溢れていて、それに釣られて自分の心も浮き立ち、柄じゃないとも思ったが、バンブルと一緒になって、司令官にクリスマスパーティーをしたいと頼んだり、スパイクやカーリーにクリスマスについて色々教えて貰ったのに。
 なのに、だ

 やってきたのは、いつもと変わらず銃を構え、敵の急所に狙いを定めて引き金を引く。そんな飽きるほど繰り返してきた日常(そうだどんなに目を背けてもそれが我々の日常)で、結局、敵を滅ぼすまで自分達とそういう優しいものは無縁なのだと、奴らに現実を突き付けられてしまった。

「さむ…」

 なにとはなしに呟いた。その時、今の今まで晴れていた夜空に、ひらりと雪が舞い出す。

「ふむ、ホワイトクリスマスという奴だな」

 司令官の言葉に時刻を確認すると、現在0時02分…今日はクリスマスだ。

「マイスター」
「…はい」

 ひゅうと風が鳴り、羽毛のように真白い雪が頬に落ち、じわりと溶けてゆく

「戦いが我々の全てではないさ」










10のお題で連作そのF
クリスマス過ぎてるとか気にしない!

アイラチェ

この痛みに慣れるには、少し時間がかかりそうだ


「やれやれ、よりによってクリスマスイブに事件をおこすとは、デストロンの連中はよほど暇らしいな」
「奴らにとって、そんなものは意味がないんだろう」

 にべもない答えに苦笑し、リペア器具を専用の棚にしまう。リペアルームの空気は静かで、数時間前まで、ここは戦場かと見紛う程の慌ただしさに包まれていたとは思えない。

「ところで、司令官は無事だったのか」
「ピンピンしてるよ。今頃は動ける奴らを連れて、副官と一緒に施設の復旧作業を指揮してるとこさ」

 カセットロンの小悪魔共が、味方が巻き込まれるのにも頓着せず、よりにもよってハンマーアームを使ったばかりに、大規模な雪崩が発生して、人間達が使う道路や近隣の施設が埋もれてしまったのだ。

「そうか、ならば俺も行こう、人手が多いに越した事は無い」

 そう言うとアイアンハイドは、調子を確認するようにぐるんと肩を回し、リペア台から身体を起こす。

「やれやれ、傷を治したばかりだっていうのに、お前さんは元気だな」
「医者の腕が良いからな」

 時たま、本当にごく稀に、リペアを止めてしまいたい衝動に駆られる時がある。途中でリペアを止めてしまえば、アイアンハイドは出撃出来ない、自分の元に留めておけば、今度こそコイツが死んで帰って来るんじゃないかって、不安な時間を過ごさずに済む。

「じゃあラチェット、行ってくるぞ」





 無論、そんな事出来やしないけれど


「行ってらっしゃい、アイアンハイド」









10のお題で連作そのE
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