セピア色の思い出から、鮮やかな現実へ
「なんだこれは?」
『今からクリスマスプレゼント送るから、スペースブリッジの前で待機してろ!!』
という謎の通信がスタースクリームより入った僅か30秒後、ガタン!という、荷が送られて来たと言うにはいささか乱暴な音が扉の内で鳴り、何事かと扉を開ければ、プレゼントという心踊る響きとは大分かけ離れた…無骨な鋲でとめられたコンテナが斜めになって引っかかっている。
ドゴン!!
首を傾げながら一歩踏み出したその瞬間、凄まじい音と共に、コンテナの内側から拳が生えた。
「っ!!??」
予想だにしなかった展開に、元々丸い目を更に丸くし、思わず小さな悲鳴が漏れる。しかし、本当に驚くのはこれからだった。
「スタースクリーム!!この愚か者めが!!貴様今度という今度は許さんぞ!!」
「メ、メガトロン様っ!?」
聞き間違えるなど有り得ない、400万年待ち続けた主の声だ。
「い、今お助けします!しばしのご辛抱を!」
「何?その声はレーザーウェーブ…ならばここはセイバートロン星か!」
* * *
すったもんだの末、なんとか主をコンテナから助けだし、とりあえずラウンジで休んでいただく。
「スタースクリームにも困ったものですね」
「全くあの愚か者は…」
ガードロボにスペースブリッジの調整を言いつけ、自分は主の愚痴を聴くというお決まりの流れに、何だかなぁ…とため息をかみ殺しつつ、エネルゴン酒を冷蔵庫から取り出して主へ酌をする。
「ああ、スタースクリームと言えば…」
「ん?奴がどうした」
「貴方が来られる直前に「クリスマスプレゼント」なるものを送る。と通信があったのですが「クリスマス」とは何の事かご存知ですか?」
すると主は酷く面食らった表情になり、次いで苦々しく眉をひそめ、そしてやれやれといった様子で大仰に肩を竦めた。
「あ、あの。おかしな事を聞いてしまいましたか?」
「…愚か者めが、余計な真似をしおって、これで上手くごまかしたつもりか」
話が見えずぱちくりと瞳を明滅させると、主は苦笑しながら息を吐き、エネルゴン酒を口に含む。そして地球におけるクリスマスという行事の話の後、ぼやくように呟いた。
「公には出来ぬ、会いに行きたい者がいるのだろう」
「ああ…なる程」
さてはて、どうやら自分は知らぬうちにダシに使われてしまったようだ。
「では…どうなさいますか?すぐお戻りになられるのなら、急いでスペースブリッジを起動させますが」
「いや、しばらくここにいよう。お前と愚痴以外の話もしたいしな」
10のお題で連作そのH
もう大晦日だけどね
帰り道で待ってる
「おーいバンブル!こっちこっち!!」
「了解!すぐ行くよ」
輝く新雪の上に並ぶ大小二つの足跡、真っ直ぐ続いたかと思えばそれはジグザグに交差し、めちゃくちゃに走り回った跡に続いて転んだらしき大きな跡、そして足跡からタイヤの跡に変わる。
「司令官達喜んでくれるかなあ」
「大丈夫さ!オイラが保証するよ」
今年は自分達がサンタになろう!というスパイクの発言にバンブルが同意し、こっそり進めていた秘密の作戦。
イブからクリスマスにかけ、夜通し働いた皆の為に用意したプレゼント達は、彼らのベッドの脇に用意されている(勿論ちゃあんと特大の靴下の中にいれてだ)。本当なら寝ている間にあげたかったのだけど、この際仕方がない。
「バンブル!司令官達だ」
「本当だ!おーい!!」
10のお題で連作そのG
もう年末だよ…orz
「愛していた」と伝えてほしい
「やれやれ、やっとデストロンを追っ払ったと思ったら、次は雪掻きですか」
「そうぼやくなマイスター、仕方がない事だ」
復旧作業(…と言えば聞こえは良いが、実際は単なる雪掻き)を始めて早2時間、既に時刻は11時45分を回っていた。本当ならば基地で、明日のクリスマスに思いを寄せている筈だったのだが、この分では日を跨ぐのは確実だろう。
「そりゃもちろんですがね、人間達はクリスマス休暇だってノンビリしてるのに、って思えばぼやきたくもなりますよ」
スノーショベルを雪山に突き刺、全身をほぐすようにぐっと伸びをする。静謐に輝く月を仰いでほっと一つ排気をすれば、それは白い吐息に変わり冷えた夜気に霧散していく。
トランスフォーマーである自分達が凍える程ではないが、やはり寒いものは寒い。正直もう基地に帰りたいのだが、やらねば終わらない。気温が下がるにつれて、先から下降の一途を辿っていたやる気を奮い立たせ、もう一度ショベルを手にとった。
「…マイスター」
「とは言え、このままクリスマスが終わっちゃつまらないですし、もうひとがんばりしますか」
あえて司令官の言葉を遮り、努めて明るい声を出す。そうでもしないと悲しいのがばれてしまう気がして。
今は遠くに見える街の灯り、ポツポツと小さく輝くそれらイルミネーションを、間近でみた時の美しさと言ったら!!以前カーリーに見せて貰った宝石箱みたいで、それこそ数万年ぶりに心が弾んだものだ。
それは光の煌めきだけではなく、行き交う人々の笑顔や陽気な音楽、何よりも"これから楽しい事がやってくる""幸せな事がおきる"という期待感が街に溢れていて、それに釣られて自分の心も浮き立ち、柄じゃないとも思ったが、バンブルと一緒になって、司令官にクリスマスパーティーをしたいと頼んだり、スパイクやカーリーにクリスマスについて色々教えて貰ったのに。
なのに、だ
やってきたのは、いつもと変わらず銃を構え、敵の急所に狙いを定めて引き金を引く。そんな飽きるほど繰り返してきた日常(そうだどんなに目を背けてもそれが我々の日常)で、結局、敵を滅ぼすまで自分達とそういう優しいものは無縁なのだと、奴らに現実を突き付けられてしまった。
「さむ…」
なにとはなしに呟いた。その時、今の今まで晴れていた夜空に、ひらりと雪が舞い出す。
「ふむ、ホワイトクリスマスという奴だな」
司令官の言葉に時刻を確認すると、現在0時02分…今日はクリスマスだ。
「マイスター」
「…はい」
ひゅうと風が鳴り、羽毛のように真白い雪が頬に落ち、じわりと溶けてゆく
「戦いが我々の全てではないさ」
10のお題で連作そのF
クリスマス過ぎてるとか気にしない!