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タイトルなし

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タカラトミーモール 1986haruka

ロストエイジ観てきた

ネタバレ注意





ラチェットが死んだ、もう嫌だ。泣きたい。嘘だろ。

ドリパ

桜見丘

 きゃあきゃあとはしゃぐ子供の声が聞こえる。二人、いや三人か。女の子が川縁の土手の上に立つ桜の木の下で、顔を合わせて笑いあっていた。
 一番小さな子は、小学校に上がったか上がらないか位で、後の二人は制服から察するに地元の中学生のようだ。姉妹なのだろうか、どことなく顔立ちが似ている。

「ふふ」

 その微笑ましい光景に我知らず体を揺すって、声を出して笑ってしまい、あわてて普通の車を装う。今ではトランスフォーマーの存在は広く認知されているし、この地域の人間は我々に対して寛容だが、突然トランスフォームして驚かせたりはしたくなかった。幸いにも彼女達は橋の上の車…俺に気を止める事なく、
楽しげに花見を続けている。

 この惑星に居を構えたのは随分昔の事だ。
大きく変わった所があれば、変わらない所もある。例えば目の前の穏やかな光景は、人や時代が代わろうとも、この土地に不変的に有る。
 笑い合える誰かがいるってのはいいもんだな。そうひとりごちていると、ぶわっと強い風が吹き抜けた。それは少なくない量の砂ぼこりを巻き上げ、少女たちは口をつぐんで目を瞑り、身を竦ませる。それは時間にして二・三秒程だったか、再び目を開いた少女達が空を仰いで感嘆の声を上げた。

 爽やかに晴れた青空で、無数の薄紅が踊っている。先の突風が造り出した桜吹雪は花弁を高く舞い上がらせ、少女達を、川辺を、橋を鮮やかに彩る。
 そんな中、少女の内のひとりが瞳を輝かせながらこう言った。

 五回連続で、桜の花びらが地面に落ちる前に捕まえる事が出来れば、恋が叶う
。と

 帰り道。空の青が柔らかな金を帯びはじめる頃。さりとて黄昏時には少し早い、そんな時分。再び土手の橋の上を通ると、少女達は既に家路についた様で、付近には人っ子一人見当たらない。
 トランスフォームして件の桜の隣に立つ。そうして手のひらを広げ、風に揺らめく花びらを受け止めようとするが、それが思いのほか難しい。
 しばらくチャレンジしていたが、人間の小指の先程しかない花びらは、トランスフォーマーにとって砂粒と大差なく、小さく肩を竦め、結局その場に腰を下ろして花見に専念することにした。



  *  *  * 




「ただいま〜」

 なにとなくぼんやりしている間に空は茜色にかわり、家に着く頃には濃紫になって宵の明星が西の空に輝き初めていた。少しのんびりしすぎたかなと思いながらカラカラと引き戸を転がし、玄関を開けて奥にいるパーセプターに声をかける。そしてはたと思いだし、床に上がる前にと玄関の脇に備え付けられているエアーダスターで砂ぼこりを吹き飛ばした。春先は黄砂やら花粉やらでどうしても汚れやすい、特に今は、何やら繊細な機器を研究室から持ち帰っているらしいから、何かと気を付けなければ。

「お帰りドリフト……おや」
「ん?」

 奥からパーセプターが顔を出し、いつものように俺を迎えに来てくれた(お帰りの一言を言うためだけに彼はいつもやって来るのだ)(俺はそれが嬉しくて玄関で彼を待つ癖がついてしまった)のだが、パーセプターは何かを見つけたのか、オプティックをチカチカと明滅させ、きゅるりと肩のスコープを俺に向ける。

「どこで寄り道をしていたのかと思えば…また花見かい」
「?え、ああよく分かったでござるな」

 俺が首を傾げると、パーセプターが近づいてきて指先でちょいちょいと頭を下げるよう示す。素直に方膝をついて姿勢を低くすれば、自分では見えない頭の上から、パーセプターがそうっと何かをつまみ上げた。

「ほら」

 パーセプターが見せてくれた何か、は薄紅の桜の花びらだった。

「まだ頭の上についているよ」

 一枚、二枚……計五枚の花びらがパーセプターの手のひらにのせられる。

「ふふ」
「なんだい、何か面白い事があったのかい」
「いや、何でも無うござる」

 さてこれは成功した内にはいるのだろうか?かがんだ態勢のままパーセプターの手のひらに頭を擦り付けると、彼は少しばかりオプティックを丸くして、そして柔らかく笑い俺の頭を一度撫でた。

「よくわからないが…花見がそんなに楽しかったのかい?」
「まあそんな所だ」

AHM ドリパ

「いつだって君を見ていたいんだ」


パーセプターがぼそりと呟き、ゴツンと音をたてて肩に寄り掛かってきた。
甘えでもない、睦言とも違う。真摯な響きに押し黙り、自分は、その告白じみた言葉に何と返すべきなのだろう?そもそもパーセプターは、なんの意図をもって自分にそんな事を言ったのだろう。と考えてみるが、ドリフトには一向にわからなかった。
ただ恋人の重みと、あたたかな温度を肩に感じながら、自分は、想われているのだ。という事を沁々と思った。

「君を箱にしまっておけたら良いのに。と」
「標本みたいにか?」

茶化したつもりだったが、パーセプターが大真面目に頷き返して来たので、また押し黙ってしまう。
恐れからではない、それがとても良い考えに思えてしまって、自分でも驚いてしまったからだ。

「真綿にくるんで、硝子の蓋をかけて他の誰にも見えないように、鍵をかけてしまっておきたいよ」
「あんたがそうしたいのなら、俺はかまわない。だが…」

 俺の好きな時にあんたに会えないのは困りものだな。
 そう答えると、パーセプターは少し残念そうに横目で見やり、肩を竦めて寄りかかっていた体を起こす。

「パーセプター」
「なんだい?」
「俺はけっこう本気だぞ」
「私は冗談だったがね」

ただの戯れだよ。

その割に淋しそうな横顔をするものだから、俺はもう一度、好きなようにして
構わないからな。と言って、パーセプターを強く抱き締めた。

ドリパ

 深々と降り積もる雪を窓の外に眺め、しばしの間を置いてカーテンを閉めた。この地域の冬は雪深い、明日も早めに起きて1人で雪掻きをせねばならない事を考えると、思わずため息が出る。

「やれ、大晦日と元日くらい雪の心配をせず過ごしたいものだがね」

 常ならばその呟きに対して同意なり意見なりを返してくれるドリフトは、今所用で母星に滞在している。明後日には帰って来る予定だが、どうにもこうにも冬とは厄介な季節で、寒さのせいか人恋しくていけない。

「どうせなら私も一緒に里帰りすれば良かったかな」

 とは言え、たかだか一週間程度では何をする事もない。と断ったのは自分であり、今更後悔しても詮無い事だった。
 気を取り直して、レポートの続きを片付けてしまおうとコタツに深く腰掛けた瞬間。ピンポーン、と呼び鈴が来客を告げる。
 パーセプターはそれに思わず眉根を寄せ、こたつ布団を握る。こんな夜更けに、まして雪の中を訪ねて来る者などいる筈が無いのに。訝しみながらもそろりと立ち上がり、音を立てぬよう玄関に向かう。

 ピンポーン

「誰だい、こんな夜更けに」

 少し身構えて扉の向こうに声を掛けると、ドサッとなにかを雪の上に置く音がして、カチャンとカギの外れる音がした。それに目を見開いたのもつかの間、カラカラと軽い音を立てて引き戸が開き、冷たい風と共にひらりと雪が舞い込む。

「ただいま、パーセプター」
「え?」

 佇んでいたのは雪より白い機体、くすんだ外套の上で積もった雪が滑り、どさりと足下に落ちる。

「ドリフト…何故こんな時間に?帰って来るのは明後日では…」
「話は後だ、雪が吹き込んでしまうから中に入ろう」

 ドリフトは雪まみれの外套を軽くはたいて脇に抱え、ほうきで身体から落ちた雪を外に掃き出し、急いで戸を閉める。少し持ってくれ。と手渡された荷物を、ぱちくりと目を瞬かせながら眺めていると

「蕎麦を買ってきた」
「夜食なら家にもあるのに」
「何を言ってるんだ。年越し蕎麦だよ」

 何を言ってるんだはこちらの台詞だ。彼がニホンかぶれなのは知っていたが…まさかそのために予定を早めて帰ってきたのだろうか?居間に戻って外套を掛け、そのままさっさと台所へ歩いていく背中が心なしか楽しそうに見える。

「向こうでブラスターに会った」
「ああ…彼は元気だったかい?」

 ドリフトはたまに前後の脈絡を無視して話をする時がある。蕎麦の話がいったいいつの間に母星のブラスターに話が飛んだのか、やや戸惑いながらも、それはパーセプターにとっても親しい名だから、話にのぼればやはり近況が気になる。

「とっとと帰れと怒られてしまった」
「はあ?」

 それにしてもこの飛びっぷりは無いだろう。先から私は、疑問符ばかり口にしている気がする。

「パーセプターがいないと寂しくてな、管を巻いていたら部屋から蹴り出されてしまった」

 その様子を脳裏に浮かべると、恥ずかしいやら情けないやら

「またお前さんは…後でブラスターに謝っておこう」
「今度はちゃんとパーシーを連れてこいと言われたよ」

 どうやら、人恋しいのは私だけではなかったらしい。

「確かに、私も同行した方が良さそうだな」
「是非そうしてくれ」
「じゃあ私は居間で待っているよ」
「おう」

 荷物をドリフトに返して居間に戻り、私は再びコタツに腰掛ける。かき揚げも買ってきたんだ。なんて声が台所から聞こえてきた。

「夜のうちに初詣に行くかい?」
「いや、眠りたいし朝になってからにする」

 ああ、今夜はドリフトと眠れるんだな。コタツの天板に顎をのせながら、もそもそとみかんに手を伸ばした。
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