風にそよぐ秋桜の花。白、ピンク、濃紅(こいくれない)に赤紫、種々様々な彩りを見せるそれらを視界に収めながら、ドリフトは河川敷に寝転び、秋のぽかぽかとした日差しを浴びる。
 冬の低く垂れ込めた雪雲や春の紗を広げたような霞空、真夏の焦がすような日差しと、白く迫る入道雲。それらと異なる秋の空は涼やかに蒼く、天高く馬肥ゆる…とは地球人の言葉だが、確かにひときわ広く感じる。

「ドリフト、ここに居たのか」

 少し遠くから声を掛けられ、首をもたげて土手の上を見やれば、朝から論文をまとめる為に、黙々と机にかじりついていた筈のパーセプターが立っていた。

「パーセプター?今日は忙しいと聞いていたが」
「煮詰まってしまってね。息抜きさ」

 パーセプターも集中力が切れる時があるんだな。と思わず口にすると、そりゃあ私だってそんな時もあるさ。と僅かに微笑みながら土手を下り、俺の横に腰掛けた。

「ご一緒してもよろしいかい?」
「あんたなら大歓迎だ」

 それから幾ばくか他愛のない話をした。(パーセプターの研究の話となれば兎も角)お互い口数の多い方ではないからすぐに沈黙が訪れるが、その沈黙でさえドリフトは快いと思う。今二人の間に流れているのは、思いを確かめ合う前の、どこかソワソワとした、心許なく落ち着かない空気ではなく、穏やかで長閑な空気だから。

 ふと寝転んでいたドリフトが背を起こし、傍らに咲く秋桜を一輪摘み取った。

「部屋の一輪挿しにでも活けるのかい」
「それもいいがやってみたい事がある」

 やってみたい事?と首を傾げるパーセプターに、この間地球人がやっているのを見たんだ。と告げ、白い花びらを一つ、プチンと千切る。

「パーセプターは俺の事が…」

 嫌い
 好き

 やってみたい事。の内容に合点がいったパーセプターは(珍しく)目を丸くして驚き、ついでくすくすと肩を揺らして笑い出した。

「…それは幼い子供か、年頃の少女がする事じゃないかい」
「そうなのか?…と、好き。で終わりだな」

 あらかじめ枚数を数えてから始めたのだから、当然の結果だ。勿論パーセプターもその事に気付いている。だから占いなんて否論理的だ。なんて野暮な事も言わず、ただ笑ってくれている。

「お前さんは何時も私を驚かせるな」
「そうか?」
「だがどうせなら、こういうやり方の方が正確だと私は思うよ」

 そう言って、パーセプターの指先が、赤紫色の秋桜を一輪手折る。

「ドリフトは私の事が…」

 さてどうするのかと見ていると、パーセプターは思いもよらぬ事を始めた

 好き
 好き
 好き…

 好き。と紡がれる度に花びらがひとひらづつ散ってゆく。

 そうしてパーセプターは最後のひとひらを摘み

「好き…。で終わりだね」

 と言って俺に微笑んだ。

「…それはもう占いじゃないだろ」
「おや、もしかして外してしまったかな」
「いや、大当たりだ」

 ああもう、きっと俺は永遠にパーセプターに勝てないんだろう。そんな気がする。

「パーセプター。あんたが好きだ。他の何よりも」
「私もお前さんが好きだよ。勿論一番にだ」