さて、今日のトランスフォーマーはデストロンの海底基地から物語を始めよう!
(何ナンダコノ惨状ハ!)
ラウンジ全体に漂う濃密なアルコール臭に、サウンドウェーブは咽せそうになり、思わずマスクの上から口元を押さえる。荒れ放題の室内に可愛いカセットロン達が混じっていない事を確認し、慌ててサンダークラッカーの元へ走った。
「サウンドうぇーぶ…なにガン飛ばしてんだコラァ!!」
「…モウ酒ハ控エロ」
サンダークラッカーの周りには無数のワインの空き瓶、缶チューハイ、ビールの空き缶、酔いつぶれたスタースクリームとスカイワープ、ふと感じた気配に視線を上げれば、酔った挙げ句室内にも関わらず飛び立とうとしたのだろう、そのとんがり頭を天井に突き刺してコーンヘッズ共が気絶していた…コンバットロンの連中なんかは、ビーグルモードに手足の生えた中途半端な格好でギゴガゴゴと床を這っている。キモイ
この状況は言わずもがな、飲み比べという奴が行われたに違いない。
メガトロン様がレーザーウェーブの所に行った途端にこれかこのボケ共、こんな時にサイバトロンが来たら一発じゃないか
下戸のスタースクリームは、渋々参加させられた挙げ句システムダウンし、嬉々として参加したスカイワープは、今やむにゃむにゃと意味不明な寝言を呟いている。サンダークラッカーも…かなりきてるな。
あと途中でギブアップ…もとい傍観を決め込んだらしいアストロトレインとブリッツウィング、それに現在捕虜のスカイファイヤー、って何で普通に宴会に参加させてるんだあのバカスクリームめ
「やれやれ、こうなっちまうとは思ったけどよ…」
「まあそう渋い顔しなさんなって!結構面白かったじゃねえか」
ほろ酔いながらも、ほどほどの所で酒を止めたらしいビルドロン達が、よっこらせと立ち上がり空き瓶空き缶を片付け始め、アストロトレインと素面のスカイファイヤーは酔いつぶれた奴らを介抱する。
「おい、スカイワープ…おい!、ちっ、完全に潰れちまったか…っておい、ブリッツウィング!」
いつの間にかラウンジから出ようとしていた背中に「お前も手伝え!」とスカイワープを肩に担ぎ上ながらアストロトレインが声をかけるが、奴にそんな気はさらさら無いようで「相棒置いて部屋帰る気かよ」という言葉に小さく肩を竦め「運ぶのは輸送参謀サンの仕事だろ」と言い残し、さっさと逃げて行った。「むにゃ…」
「スタースクリーム、水を持って来たけど…大丈夫?飲めるかい?」
「ふわーい…スカイふぁいやー?だー」
一番厄介な馬鹿は捕虜に任せ、自然とサウンドウェーブがサンダークラッカーの相手をする事となる。零れそうになったため息を飲み込んで、取り敢えずサンダークラッカーが手に持ったグラスをもぎ取り、酒類の側から引き離す。
「ぅー!!何すんだよ!!」
「ヨセト言ッテイル」
じたばたと暴れるサンダークラッカーに辟易しながらも、何とかなだめようと奮闘するが、サンダークラッカーは完全に機嫌を損ねてしまったらしく、サウンドウェーブは思わず眉間にシワを寄せる。
「ハァ…」
「おわっ!」
デストロン軍でも随一と呼ばれるブレインが考えた末はじき出した結論は、至って単純だった。
(酔ッ払イトマトモニ会話ハ出来ナイ)
ひょいとサンダークラッカーの膝裏に手をさして、いわゆる姫抱きの要領で抱え上げる。当然サンダークラッカーは嫌がって更に暴れるが、所詮は酔っ払いである。適当にいなして部屋まで運び、無造作にベッドに放り投げた。
「さうんどウェーブぅー」
「コラ、離セ」
ほろ酔い程度ならまだしも、泥酔し、完全なる酔っ払いと化したサンダークラッカーは、(悲しい事に)他の兄弟同様非常にタチが悪い。既に何度か訪れ、勝手知ったるこの部屋の冷蔵庫から、水を取り出そうと背を向いた瞬間、不意に脚部にしがみつかれ動作が不安定になる。
「アンタも飲めよ〜」
「コラ…イイ加減ニシ…ロッ!?」
ぐらりと視界が揺れ、身体が平衡感覚を崩した。その瞬間、自分にしては奇跡的な反応で身をよじり、サンダークラッカーの上に尻餅をつくのを何とか回避する。
しかし、ホッと息をついたのも束の間、床に倒れた自分に、ベッドの上のサンダークラッカーがずるずると滑り落ちて来た。
「酔っ払いの〜…面倒なんざ見れねぇってか?あぁ?」
「…水ヲ持ッテ来ルダケダ」
肘をついてグイと上半身を起こし、ふゎんと漂うアルコールの匂いを軽く頭を振って払う。苛立ち混じりに叱りつけようと顔を向けると、偶然かそれとも意識してか、サンダークラッカーが寸分違わぬタイミングで顔を近付けて来た。
その余りの近さに、柄にも無くギョッとしたサウンドウェーブは、人間がまばたきでもするように、バイザーの奥のアイセンサーをチカチカと明滅させる。
「俺だったらだいじょぶなのに」
「何ガダ」
素っ気ない返事に、以前フレンジーやランブルがしていたのと同じく、唇を尖らせる仕草で不満を示す。
「サウンドウェーブが酔っ払ったら、一晩中でも一日中でも面倒みてやるのに」
「ハ?」
その思いもよらぬ言葉に、我ながら間の抜けた声を出してしまった。
そうして自分が気を弛めた隙に、サンダークラッカーは腕を伸ばして、ぎゅうと、装甲にキズが付くんじゃないか?と、心配してしまう程強く抱き締めて来て
「だからたまには、お前も休めってーの」
そう、拗ねた声色で呟いた。
「…サンダークラッカー」
ああ、そうか
自分は、お前を心配させていたのか
「さうんどウェ、ブ…っ…ん」
フェイスマスクを開き、抑えがたい衝動に駆られるままサンダークラッカーに深く口付けた。不思議な事に、先まで不快だった筈のアルコールの匂いは、毛程も気にならない。驚いて、奥に引っ込もうとする舌を吸い上げ、絡め、歯列を割って互いの口内を確かめあう。
「ぷはっ…」
離れた舌先に一瞬銀糸が架かり、音もなくふつと途切れた。どこか口惜しく思い、じっと唇を見つめていると、それはぴっと真一文字になったかと思えば、むず痒そうに弧を描き、やがては笑みの形となった。
サンダークラッカーのアイセンサーが半分閉じられ、頬は朱に染まる。
「ズイブン甘イナ」
「ああ…なんつったけ、えー…。そうだ!グラスホッパー!カクテル!チョコミントのアルコール入りみたいなアレ!」
「ソウカ…好ミカモシレン」
ようやく飲む気になったか?という問に、横に小さく首を振り、今日はこれが良いと再び深く口付けた。
【Love philter/惚れ薬】
「休み取ってー、二人で飲むぞ」
「…ソノ時ハ頼ンダ」
「おう!」
-END-