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TFA プロ+ビーVSロックダウン

 激しい衝突音と前方の人間達のどよめきと共に、車がぶつかったぞ!事故だ!後続車はスピードを落とせ!という大声が響く。2人が声の方向に注意を向けたその瞬間、20mほど先を走っていた車が、何かに勢い良く車体を乗り上げ…いや、すくい上げられたように吹き飛ばされ、まばたきする間も無く横転した。

「わわっ!?何?もう何なのさー!、バンブルビー!トランスフォーム!!」
「プロール!トランスフォーム!!バンブルビー、早く人間を助けるである!」

 即座にブレーキをかけてトランスフォームし、プロールは先の事故現場に、バンブルビーは目の前で横転した車の主を助ける為に近寄ろうとした。その時である!

「うわあっ!」
「バンブルビー!?」

 突如、見えない何かがバンブルビーを殴りつけ、横転した車に向かって、黄色い機体が吹き飛ばされる。だが間一髪、バンブルビーが地を蹴って車をかわし、何とか二次災害は免れた。

「大丈夫であるか!」
「いてて…」

 尻餅をつくバンブルビーの横で、がり、と小石が踏み砕かれる音がした。それにプロール違和感を感じると同時、ブゥン!と空を裂く音が近付くのを察知し、反射的に跳び退る!その直後、ドゴン!と鈍い音が響き、先まで彼が立っていたアスファルトに、無残な亀裂がはしった。

「でやぁっ!」

 間髪入れずに空中から手裏剣を投擲、着地と同時に初撃以上の速度でもう一撃、見えぬ何かに投擲する。2つの手裏剣は、別々の角度とタイミングで放たれたにも関わらず、全くの同時に標的に突き刺さった。 プロールが飛び退いてから僅か数秒、まばたきする間も無いほどの目まぐるしい攻防に、バンブルビーが、おおー。と感嘆の声をあげ、呑気に尻餅をついたまま、ぱちぱちとプロールに拍手を送る。

「何者である!姿を見せろ!」

 鋭い一喝が空気を震わせ、辺りに緊張感が漂い始める。そこに来てようやく当初の目的を思い出したバンブルビーが、勢い良く立ち上がり…かけて先に殴られた事を思い出し、こそこそと膝歩きで(因みに全く気配は消せてない)車に近付いて、何とか中の人間を助け出した。

「へっ、そうこなくっちゃなあ…」
「ふえ?ドコから話してるの」
「その声…!貴様は」

 プロールが全て言い終える前に、突き刺さったままの手裏剣を中心に、ぐにゃりと空間が歪む。そして次の瞬間、2人にとってよく見覚えのある、そして出来れば顔を合わせたくない男が姿を表した。黒と緑を基調としたカラーリング、棘を配置した鋭角的な装甲、そして鍵爪…見間違える筈も無い。

「げっ!」
「よお、久しぶりだな」
「ロックダウン…」

 よくよく見れば、以前身に着けていた外套の上に、地球の液晶板に似た細工が見て取れる。ただし、液晶板と言うよりはフィルム、もしくは布と言ったところか。心中で舌打ちをひとつして身構え、オプティマス達へ緊急回線を繋ぐ。状況を手短に伝えて通信を切ると、ロックダウンもまたプロールを注視していた。

「光学迷彩であるか」
「面白えだろ」

 ロックダウンは不敵な笑みを浮かべると、手鋼板に刺さった手裏剣を引き抜き、ほらよ!これは返すぜ受け取りな!とプロールに投げ返した。空を裂く音と共に飛来する2つの刃を、プロールは恐れ気も無く易々と受け取り、流麗な所作で再び構えをとる。

「今日はお前さんに用があってな」
「貴様にあっても我が輩には無い、お引き取り願おう」
「つれないねえ」

 動作は自然体ながらもロックダウンに隙は無い、やはり容易い相手ではないとプロールが攻めあぐねていると、会話から取り残されていたバンブルビーが、大きく声を張り上げた。

「ちょっと〜!プロールはお前なんかと話したくないって言ってるだろ!さっさと帰れば!しつこい男は嫌われる。ってサリも言ってたよ!」

 ロックダウンがプロールを付け狙っているのは、今やチームの皆が知るところだ。当然ながらそれを快く思う者はおらず、近頃は露骨に不快感を表すようになっていた。恐らくこの場にいるのがバンブルビーでなかったとしても、似たり寄ったりの反応だったろう。

「坊主にゃ話し掛けてねえよ、ガキは家に帰って飯食って寝てな」
「勿論帰るさ、お前を追い払ってからプロールと一緒にね!」
「口の減らねえガキだ。可愛げの無え」

 バンブルビーは腰に手をあて、足りない身長ぶんめいいっぱい背伸びをして胸を反らすが…正直威圧感は無い。

「邪魔するってんなら潰させて貰うぜ」
「我輩がそれを黙って見ているとでも?」
「お前なんか怖くないよーだ!あっかんべ〜〜っ!」

 数秒の沈黙の後、三者三様に武器を構え再び緊張感が高まりだす。ピリピリと表皮を刺すそれに比例して、体内のモーターが徐々に回転数を上げていく。

「来いよ!遊んでやる!」

 ロックダウンの左腕がチェーンソーへと変形し、甲高い叫びを上げてバンブルビーへと振り下ろされる。しかしバンブルビーは持ち前の素早さを生かして回避、お返しとばかりに電撃を打ち出すが、例の外套は絶縁体で作られているらしく、ロックダウンは回避行動すら起こさずに受け止め、見事にしのいでみせた。

「喰らいな!」
「うわっ!と、ふ〜危ない危な…わっ!わわっ!、いっっつ!?」

 再びバンブルビーは初撃をかわし、軽口の一つも叩こうとしたが、ロックダウンは動きを留めず、振り下ろされたチェーンソーを瞬時に跳ね上げ、その顎を唸る刃先が掠める。更に右足を一歩踏み出して間合いを詰め、怯んだ隙にがら空きになった首目掛けて鍵爪を突き出す。バンブルビーは咄嗟に頭を傾け鈍く光る爪から逃れるが、ロックダウンが手首を軽く捻ると同時、細い首に鋭い爪先が食い込み、あっさりと何本か配線が引きちぎられた。そして完全に足が止まったとみるや、袈裟懸けにチェーンソーを振り抜こうとする。が

「止めろ!貴様の相手は我輩だろう!」

 ロックダウンが視界の片隅に飛来する刃を捉えた。と思った時には既に、左肩へ手裏剣が深々と突き刺さっていた。反射的にチェーンソーを盾にし、二撃目を受け止める。

「ちっ!」

 ガキャンと甲高い金属の悲鳴が響き、チェーンソーの動きが止まった。可動部に食い込んだ手裏剣が刃を歪ませたのだ。舌打ちと共にそれを惜しげも無く切り離し、瞬時に拳へ、更にプロールがこの機を逃さじと飛び込ん来るのを先読みし、足が止まったままのバンブルビーの腕を掴んで、まさにプロール地を蹴った瞬間、足止め代わりに投げ飛ばす。とっさにプロールが腕を広げ、バンブルビーも受け身を取ろうとするが勢いは殺せない。二人がアスファルトの上を転がっている隙に、ロックダウンは格納スペースから片刃の曲刀…地球で言う所の青竜刀を取り出し「それじゃあ第2ラウンドといくか」とうそぶいてみせた。

「いたた…ごめんプロール大丈夫?」
「平気である。バンブルビーの方こそ怪我は大丈夫であるか」
「だいじょぶ!そんな酷くないよ」

 バンブルビーはへらりと笑ってみせるが、先の一撃は循環パイプを傷つけていたらしく、首からはぽたぽたとオイルが滴っている。確かに重傷ではないが、無理もさせられない。

「どうした?来ねえんならこっちから行くぜ」
「我輩が行く、バンブルビーは援護を頼むである」
「オッケー!」

 左右に分かれて、ロックダウンを挟み込む形で陣取り、互いに目配せをして同時に攻撃を仕掛ける。

(まったく、やりづれえな)

 プロールの拳は身の軽さに比例して重さこそ無いが、流れる水の如く途切れ無く、且つ的確に急所を狙ってくる。それら全てをかわし、受け流し、受け止めるのは並大抵ではない。更に、援護に回ったバンブルビーが、威力が無いのを頓着せず電撃を打ち出して来るのも煩わしい。
 外套のおかげで感電する事は無いが、弾ける火花と音が少しずつ集中力を削いでいく。

「そらよ!」

 僅かな間断を突いて青竜刀の長柄をくるりと回して脳天を狙うが、手裏剣が刺さったままの左肩が上手く動かず、ブンと唸りを上げて頭上ギリギリを通り過ぎた。

「おおっと!やーいやーい当たらないよーだ。べろべろばー!」

 しかも壊滅的に口が悪い。先の攻撃の際に、発声回路をぶっちぎっておけば良かった。心中でバンブルビーに中指を立てた瞬間、プロールの拳が顎を掠め、思わずヒュウと口笛を鳴らしてしまった。

「考え事とは余裕であるな!」
「おうよ、もっと本気出して良いんだぜ」

 実際はロックダウンにさほど余裕は無いのだが、あのプロールが、感情剥き出しに突っかかって来るのが愉快であるのも確かだ。先端にバンブルビーのオイルがついた鍵爪を鼻先に突き付け、あえて挑発的な態度をとって攻撃を誘う。

「じゃなきゃ張り合いが無いってもんだ。何ならもっと壊してやろうか?」
「貴様ッ!」

 落ち着け、挑発に乗るな、冷静になれ、心乱せば勝ちは離れ、岩木の如く心静め、正しく戦況を見定めれば勝ちは自ずと近くなる。そう何度も唱え、フツフツと沸き上がる怒りを静めようとするが、ひけらかすように突き付けられた鍵爪を…正確にはその先のオイル、既に酸化し始め黒く濁っていたそれが、元はバンブルビーの体内で循環していた一滴なのだと気付いた時、せせら笑うようにロックダウンの口端がつり上がる。

 体中のオイルが沸騰ような怒りに任せ、プロールは拳を振りぬいた。

「捕まえた」
「ッ!」

 大きな手が、プロールの右手首を捕らえる。気付けば確かに鍵爪だった右手が、五指を揃えた手のひらに変わっていた。
 途端、腕が引き抜かれそうな勢いで体ごと振り上げられ、次の瞬間、左半身から激しくアスファルトに叩きつけられる。

「か、はっ」

 回る視界、体がバラバラになりそうな衝撃に息が詰まる。耳障りなエラー音が、プロールの頭のなかで鳴り響く。数秒の間を置いて体中を鋭い痛みが駆け巡り、左腕が折れた事に気が付いた。

(してやられた…!)

 プロールは己を叱咤し、途切れそうになる意識をどうにかつなぎ止めようとするが、無情にも体内のエラー表示は増えていく一方だった。

「このっ!プロールを離せ!」
「そいつぁ出来ない相談だ」

 叫び、プロールの危機に血相を変えて飛び込んで行くが、ロックダウンはそんなバンブルビーを冷たく嘲笑う。最早この場に用はないと、向かって来たバンブルビーを青竜刀の腹でなぎ倒し、意識が朦朧としているプロールを肩に担ぎ上げた。

「あばよ小僧、こいつは預からせてもらうぜ」
「プローールーっ!!」

 捕縛用のゴムロープでプロールを拘束すると、ロックダウンはトランスフォームし、逃走を図る。バンブルビーも気力と負けん気で勢い良く立ち上がったものの、オイルが足りない身体は思うようには動いてくれず、見る見るうちに引き離されていった。

「プロール…」

 仲間を呼ぶ声は半ば震えていて、やがて泣き声に変わっていった。
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