「メガトロン、私にいい考えが…」
「駄目だ却下だ諦めろ、その提案は認めない」
「なっ!まだ何も言っていないだろう!」
「はぁ…」
我知らず深いため息が漏れる。オプティマスとメガトロンが行動を共にする。別にそれ事態に不満も不都合も無いのだが、二人は我が強く、思想の違いから諍いに発展する事がしょっちゅうあり(人間達から言わせれば「犬も食わない夫婦喧嘩」らしい)、更に時たまオプティマス・プライムの口から飛び出す"いい考え"はもはや言わずもがな
詰まるところ何が問題かと言えば、そんな馬鹿騒ぎに巻き込まれるのはいいかげんごめんなんだよ、に尽きる。
故に、副官としての責務を全てを捨てて逃げ出したいだとか、これから高確率でラチェットの世話になるであろうとか、司令室が壊滅の一途を辿っている等の諸々の事実から、揃って目を背けているのだ。
「…なあ、スター「いや待て止まれ、今は動くなストップしろ」
まだ何も言ってないだろ、と少し前の二人と似たような会話を繰り広げつつ、言われた通り身体を丸めた前伏姿勢のまま次の衝撃に備える。
「いい加減にしろプライム!俺は甘い玉子エネルゴン焼きなぞ断じて認めん!」
………。
上司達に対して死ね、と本当に本気で思ったのはきっと今日が初めてだ。
「メガトロン…自由はすべての生き物が持つ権利だが、否定をするより、まず甘い玉子エネルゴン焼きを食べてみるべきだ」
えぇ…あの台詞を此処で使うのか。と、既に使い物にならなくなったデスクを、二つ重ねた簡易バリケードに隠れながら、スタースクリームが呟く
「プライムよ!俺の作った朝食が気に入らんと言うのか!」
俺はそんなスタースクリームの背に隠れながら、エプロン姿で台所に立つメガトロンをうっかり想像してしまい、思わずうぇっとえずいてしまう、つーか
てめえが作る側なのかよ!!
「「…仕方ないな」」
期せずして俺達の台詞がかぶり、首だけ回して後ろを振り向いたスタースクリームに、無言でコクリと頷き返す。
* * *
今日も今日とて朝もそこそこ早いこの時間から、いつものごとくキャッキャウフフ、楽しそうにじゃれあう上司達を見ていると一時の平和を感じ、柄にも無くほのぼのとした心持ちになる。
「チェックメイトだ」
「む……」
スタースクリームを相手にしたチェスに、決着がつこうとした瞬間
「ほわぁあぁぁっ!!」
派手な激突音と共にチェス盤と駒が吹っ飛び、変わりにオプティマスが、顔面からテーブルに転がり込んで来た。
「勝負はお預けだな」
「…俺様勝てそうだったのに」
つーかあんたら、さっきまで大人しくメシ食ってただろうが、なんでこうなぁ…
でも、まあ
楽しい かも、こういうの
休戦中とは言え、本当に今は穏やかだ。少なくとも母星で戦っていた時や、アーク号であてどなくオールスパークの探索をしていた時に比べれば
でも こんなんじゃ、いざって時に
「…止めとけ、今考えたって無駄だ」
テーブルを傾け、呻くオプティマスをメガトロンの元へと転がしながら、俺の思考を読んだかのようにスタースクリームは言う
「貴様は案外幸せ貧乏だな」
「アンタにだけは言われたか無いね」
悔しながら否定は出来ないのだが、その原因の大半はディセップのせいだろう
「苦手なんだよ、今だけは…ってやつ」
それなら最初から
「フン…貴様の部下の真似でもしてみたらどうだ」
ついとスタースクリームが顎で示した先には、小さな…自分達からすれば本当に小さな植木鉢に納められたひと株の花、ビーのボディカラーと同じ黄色、確かマリーゴールドと言ったか
「ガーデニングは性に合わない、多分」
ふうとため息をつき、僅かに身を伏せた瞬間、頭上をメガトロンのチェーンメイスが掠め、僅かに遅れてドォン!と鈍い音が響いた。
「チッ…。メガトロン様!朝食がお済みであれば此方はお下げしますが、よろしいですか?よろしいですね、それでは私は後片付けを致しますので!!!」
「なんだと!まだ半分しか食べてな…」
メガトロンの動きが止まった事を確認し、俺からも声を掛ける。
「司令かーん!昨日ラチェットが"これ以上無駄な仕事増やしたら、まとめて解体(バラす)"って言ってましたよー」
ぐっ、と低い声を出しオプティマスの動きが止まる。昨日ラチェットは最高潮に機嫌が悪く、運悪くオプティマスは、黒ラチェットによるとってもマッドでドSなリペアを受けるハメになったばかりだから、今の警告は、なかなかの効力をもってオプティマスを大人しくさせてくれた。
「なあメガトロン…今日は私が悪かった。だから仲直りしよう」
オプティマス はしょんぼりした
「プライム…そう情けない顔をするな」
こうかは ばつぐんだ!
途端にデレ出した上司達に、頼むからいつもそうしててくれ、と念じつつ二人で司令室を後にする。
「俺も後片付けするぜ、半分かせよ」
「構わん、今日は貴様が作っただろう」
あの日から俺達の職務には"朝食の用意"が加わった。それは二人で作る事もあれば、今日のようにどちらか一方が作る事もあり、日常として馴染みつつある。
面倒と言えば面倒なのだが、更なる面倒を避ける為なのだから仕方ない。それに俺個人としては…
「お、なかなか美味いな」
「だろー、俺様料理トクイなんだぜ」
作った料理をこうして誉められれば、悪い気はしない
「独り身が長いだけあるな」
「うるせーほっとけ」
揶揄うスタースクリームに軽く蹴りをくれてやるが、あっさりとかわされる。
おままごとのような関係
「そう怒るな」
「くっそ、俺だってセイバートロンにいた頃は、可愛い子ちゃんの手料理を食ってたんだよ」