「雪は余り好きではござらん」
「おや?そうなのかい」
意外だ。と続けると、見て景色を愛でる分には構わぬが、活動するにあたっては不利の方が多い。と小さくため息をつき、雪かき用のスコップを雪原に突き立てた。
「しかし君は、こういった季節のうつろいを存分に楽しむ質だろう、現に――」
雪だるまに雪兎、かまくら、そり、果てはいつの間に調達したのか、蜜柑に甘酒、七輪(餅と金網付き)までもがかまくらの中に準備されている。
「…十分過ぎる位エンジョイしてるじゃないか」
「いや、これは…」
つと私の指先を視線で追い、苦笑しながら腕組みをしたドリフトが言葉を続けようとした。その時
「わーー!!どいてどいてどいてお二人さーん!!」
「またこのタイミングかね」
ビーグルモードのブラーが、とんでもない速さでスリップしながらこちらに突っ込んでくる。大方チャーの忠告を忘れてスピードを出し過ぎ、雪にタイヤを捕られたのだろう
あ、これはかわせないな。などとどこか他人事のように思っていると、ぶつかる寸前、ブラーがトランスフォームし、思い切り地を蹴った。
雪煙を散らしながら、私達の頭上を水色の機体が飛び越えるのを、ドリフトの腕の中で(いつの間にか庇われていたらしい)見上げ、更にそれはまばたきをする間も無く宙で一回転、見事に雪原に着地してみせる。 おおと感嘆の声をあげ、何故かぱちぱちと拍手をしているドリフトを軽く肘で制し、軽く眉間を揉みながらこら、とブラーを窘める。
「ごめん、あんなに滑るなんて思わなかったんだ」
「ブラー…心臓に悪い事は控えてくれ」
* * *
「わぁ、本当に用意してくれたんだ」
ブラーはチカリとオプティックを光らせ、幾分はしゃいだ様子でかまくらの周囲をくるくる回りながら、手のひらで側面をぱしぱし叩いてみたり、入り口を覗き込んでみたりと忙しない
聞けば一昨日の夜、ドリフトの部屋の端末であちこちのチャンネルを回していた時、人間達が雪祭りを催す姿がニュースで流れたらしい。それは5分に満たないささやかな扱いだったのだが、その楽しげな光景がいたく気に入ったブラーは、祭りとまでは言わずとも、何かそれっぽい事をしたいとドリフトにねだったのだとか。
「君は彼を甘やかすのが得意だな」
「そう申すな、ついでにござる」
どの道雪かきをせねば、基地の入り口が埋まってしまう。そう言ってドリフトは再び横につき立ててあった雪かき用スコップを手に取り、ブラーの方へ歩き出した。
「お気に召したか」
「うん、ありがとう」
僕も何か作るから貸して。とスコップを受け取り、適当な場所を掘り返し始めたブラーに、どうせなら基地の周りをやってくれと、ドリフトが彼の腕を取る。
(やはり、甘やかしているじゃないか)
少なくとも私は、その様子が仲睦まじく見えてしまう程度には嫉妬していたようで、自身に呆れると共に、心中で苦虫を噛み潰した。
側にいて。と言えずに私は。
何でもないふうを装った。拗ねた私に気付いて欲しかった
ろくに資料が無いので、3人の細部が全くわからん
この絵の80%は雰囲気と捏造と作画ミスで出来ております。
きみにシグナル
「インフェルノ、大事な話ってのはいったい何なんだ」
「ああ…うん、もうちょっと待ってな」
大事な話があるからパトロールに付き合ってくれ、と乞われるままについて来たはいいものの、インフェルノときたら何度呼びかけても、ああ。とか、うん。を繰り返してばかりで一向に話を切り出そうとしない。それ以前に今のインフェルノは上の空というか、酷く注意力散漫で、ビーグルモードだというのにあっちにふらふらこっちにふらふら。あんまり危なっかしいものだから、無理やりトランスフォームさせ、今は自分が手を握っている。
全く!万一にも消防車がよそ見運転で事故なんて、笑えなさ過ぎる。
こちらの心配を余所に、インフェルノは何か考え事でもするように唸ってみたり、心ここに在らずといった有り様だ。
「全くもう…」
「うん」
駄目だこりゃ、今日は自分がしっかりしなければ。しかしインフェルノは呑気と言うか大らかと言うか…一昨日デストロンとの戦いがあったばかりだというのに、少しばかり緊張感が足りないのではなかろうか。そう胸中で嘆息した瞬間、不意にインフェルノが歩みを止めた。
「インフェルノ?」
「……」
ここは街の中心に位置する公園、その一角。昼時となれば親子連れや会社員で賑わったここも、夕暮れ時とあって人気はまばらだ。広場の中心に立つ木を見上げた時(自分が見上げる位なのだから、人間達にとっては本当に大きな木だ)ヒュウと冷たい風が吹き、道行く人間達は背を丸めて足早に家路を急ぎだした。
「アラート」
不意に名を呼ばれインフェルノの方を向くと、さっきまでの様子が嘘のように、しっかりとした視線で自分を見据えていて…その瞳があんまり真摯だったから、思わずぴいんと背筋を伸ばしてしまった。
「お前に、これを渡したくて」
"これ"は小さなスノードームだった。
ドーム形の透明な容器の中は透明な水溶液で満たされ、赤い服を着た子供と小さな家に、白くたゆたう薄片が静かに降り積もってゆく。手のひらの上で揺らせばふわりと薄片が舞い、再び音もなく降り積もる。
「…とてもキレイだな。でも、どうしてコレを俺に?」
スノードームからインフェルノへと視線を戻すと、困ったように口の端を歪め、少しの間もごもごと何か呟いていたが、やがて踏ん切りを付けたのか、小さく肩を竦めてその口を開いた。
「本当は、一昨日渡す筈だった」
「え…」
「この木が美しい光で煌めいているのを、お前にも見せてやりたかった。けど」
それは叶わなかった。あの雪深い山麓での戦いは、予想を超える広範囲に被害をもたらし、交通網や人間達の施設の復旧作業、そして怪我人の救助、その後始末は今も完全には終わっていない
「お前のサンタになりたかった」
その言葉に、悲しくもないのに胸が詰まって、涙がこぼれそうになる。
「インフェルノ」
来年は、自分がインフェルノのサンタになりたいな。
「ありがとう、ずっと大切にする」
10のお題で連作そのI
結局年越しちゃったよ。