暗く冷たい海の底の牢獄に、酷く場違いな…美しい歌声が響く
Happiness such as the bubble
泡沫の幸せ
Before melting
Before disappearing
To you a lullaby
溶ける前に
消える前に
あなたに子守歌を
歌声の主はここにいない、いるのは2体のトランスフォーマーだけだ。
「ブロードキャスト」
「なんだよサウンドウェーブ」
抑揚の無い呼びかけに、冷めた声が答える。抱き込まれるように捕らえられたブロードキャストは、暴れる事こそしないものの、顔を伏せたまま視線を上げる事もせず。あたかもサウンドウェーブを拒絶するかのように、静かにラジオの歌声に耳を傾けている。
Do not cry
Do not grieve
I am here
I give the sleep that is kind to you
泣かないで
悲しまないで
私はここにいる
あなたに優しい眠りをあげる
歌が聴きたい、と言い出したのはブロードキャストだった。
最初は騒々しいロックなぞ御免だ。と、その要求を切り捨てたのだが、珍しく落胆した様子のブロードキャストに小さじ一杯ほどの憐憫と、それを軽く凌駕する嗜虐心が疼き、わざと手荒く押し倒してやったのだが、まるで抵抗する気が無い様子に興醒めというか拍子抜けし、気まぐれに(と言うか初めて)コイツの願いを叶えてやる事にした。
There is me near all the time
私はずっとそばにいる
「誰ノ事ヲ考えてイタ?」
「…尋ねる必要なんかないだろ」
数秒の沈黙の後、マインドスキャンを使えば良いだろう。と暗に告げ(それを酷く嫌っている癖にだ)、ちらりとも顔を上げない態度に、胸騒ぎに近い苛立ちを覚え、顎を掴んで無理やり視線を合わせる。
In the next to you
Till you sleep
あなたの隣で
あなたが眠るまで
「親友のトラックスの事カ?アルイハあのキザったらしイマイスターかもな」
「アンタには関係無い」
今の今まで冷めた振る舞いをしていたクセに、特に親しい者達の名を出した途端、片方を潰され1つだけになったオプティックが青く明滅し、声に怒りが混じる。
例えばもしも、鎖に繋いだそいつらを、コイツの目の前に引きずり出してやったらどんな顔をするだろうか
Good night
Let's meet in a dream
おやすみなさい
夢で会いましょう
「逢いたいカ?」
「…え?」
顎を掴んでいた手を離し、変わりに頬に添えて、問い掛けた。なるべく優しく、可愛い可愛いカセットロンに話し掛ける時のように
Even if I disa
ppear
Even if I melt
私が消えてしまっても
私が溶けてしまっても
「…そんな気なんて、無いくせに」
腕の中のコイツはぽかんと口を開け、しばらく呆けていたが、言葉の意味を理解した途端、泣き出す寸前の子供のように顔を歪め、震える声でそう呟いた。
If you remember me
あなたが私を覚えていてくれるなら
プツンという軽い音と共に、ラジオから流れる歌も途切れる。
「ツマラン答えダ」
「〜っ…アンタなんか、最低だ」
馬鹿な奴め、もう貴様からは奪えるだけ情報を奪い尽くしたのだから、理論的に考えてこれ以上ここに留めておく意味は無い、泣いて縋って頭を下げれば、帰してやらんでもないモノを
自力で逃げだそうにも、その両脚は既に切断されている。童話の人魚のように、魔女と取引をする以外、海の上には出られないのだから