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『ラッキーアイテム、武将の人形』

(黒バス/日向)先輩





「起立、礼」
「「「ありがとうございましたー」」」

「…はぁ」


やっと終わった…。伊澄は安堵の溜め息を零し、席に着いた。
朝、中学時代の後輩と電話を交わした後始まった高校生活。先日入学式を終え、オリエンテーションを含むHRだけが行われた今日は午前授業だが、如何せん慣れない環境とのんびり過ごした春休みから一転した生活のリズムに疲労感が伊澄を襲っていた。仕方ないこととはいえ、疲れた…。そうぐったりしながら机に突っ伏す。周りは帰り支度をしているのか、ざわざわと騒がしい。中には入学早々友達になったのか、楽しげに話す声も聞こえる。残念ながら伊澄にはそんな社交性もなく誰一人話すような相手はいないのだが、今の状況はそれがありがたかった。
新たな友人関係よりも自分の体力諸々優先。帝光中からもそのマイペース精神は健在だ。


「あー…お腹すいた」


グルグルと音の鳴る腹に、ポツリと呟くと胃が動いた気がする。もう12時過ぎだ。そりゃ腹も減るだろう。
動くのは面倒だが欲求にはかなうまいと、うーと小さく唸る伊澄は突っ伏した状態で教室の時計を睨む。無意味な抵抗を続ける伊澄だったが、再度訴えてきた胃の音に天平が見事に傾いた。

悩んでいてもお腹空いたものは空いた。帰ろう。

思い立ったが吉日というほどではないがガバッと机から身を起こす。隣で伊澄の唐突な行動にビクリと反応したクラスメートに構わず、伊澄はノートやプリント類をファイルに挟み、そのまま机にかけていた黒く重い皮鞄にチャカチャカとしまう。初日だから荷物が少ないのは体力のない伊澄にとって救いだっただろう。そんなことを考えもせず、ただ欲求に応えるべく一心不乱に片付けていた伊澄はふと鞄の中に視線を向ける。
黒く輝く鞄に不釣り合いな武将のキーホルダー。何これ、と一瞬伊澄は首を傾げた。


「…?……あ」


眉を顰めていた伊澄だが、それを手にした瞬間朝のことを思い出す。そういえば緑間に電話されて買ったんだった(ガチャポンで)武将のキーホルダー。買ったは良いが鞄に入れてすっかり放置したままだったそれにああーと納得する。ちなみに健忘症ではなくどうでも良いことは頭からすぐ消えてしまう故の放置なのだろう。手持ち無沙汰にキーホルダーを扱う伊澄は困った用にそれを眺めているが忘れたことは既にどうでも良くなっていた。
問題は、このキーホルダーだ。


「…これ、どうしよう」


珍しく後輩の言うことに従って買ってみた武将フィギュアのキーホルダーだが、別に伊澄自体が武将に興味があるかと聞かれたら否と答える。そんなものを家に持って帰っても次に何かするものでもないし、――要するに面倒なのだ。


「学校終わったし自分で買ったものだし…捨てようかしら」


と、ポーンポーンと何回か上に投げてキャッチする。教室の人数も少ないし、ここのゴミ箱に入れても支障はないだろう。家で捨てると分別が面倒だ、なんて考えながらキーホルダーを掴んで立ち上がる。キョロキョロ教室を見回し視界に入ったポリバケツに向かおうとした、そのとき、


「あああ!それは石田三成!?」


と、響いた声に伊澄所か教室に残っていた他のクラスメートもビクリと反応した。伊澄は声が自分に関係あるとも思わずただ反応しただけだったが、ツカツカと音源の眼鏡をかけた背の高い男子生徒が自分に近づいて来るのを見て目を丸くする。次いでガシッと腕を掴まれ、思わず「は!?」と声を上げた。


「お前、それ石田三成だろ!?すげえなこれレアもんなのに!!」
「は?ち、ちょっと、いた、」
「つか捨てんなよ!三成はすげーんだぞだって関ヶ原の立役者でもあって…」


熱心に話す男子生徒だが目所か眼鏡すら輝かせるその表情に思わず伊澄はヒクリと口をひきつらす。
誰だこれ。いや、寧ろ何この状況。
誰かに説明して欲しかったが、残念ながら遠巻きに見ていた他のクラスメートは関わるまいと決めたのかそそくさと帰ってゆく。と、あまりに熱が入っているのか捕まれている腕が痛み出し、伊澄は顔を歪めた。


「い、痛いってば!腕強い!」
「あ?あ、ああ!?わ、悪ぃ!」


訴えかけるとそれに気付いた男子生徒は慌てて腕を放す。はーと伊澄は引いていく痛みに安堵したが、男子生徒は赤く痕がついている白い肌に「げっ」と呻いた。


「うわ、手痕が…!わ、悪い俺力入れすぎてた!?つか大丈夫か!?」
「え?ああ本当。道理で痛い訳だ」
「なんでそんな冷静な訳!?いや俺が悪いんだけど…痛いのか!?」
「ああ大丈夫大丈夫。私いつもこんなものだから」


力関係なく痕つきやすいの、とブラブラ手を揺らす。中学時代に後輩から幾度となくやられて真っ赤な手のひらの痕が暫く消えなかった思い出もあるほどだ。そう苦笑して言えば、男子生徒は戸惑ったように「いや、それ大丈夫なのかよ」とつっこんだ。骨に異常はないから大丈夫だろうと断言する伊澄は伊達に何度も骨を折るなどの怪我を味わっていない。いや決して誇れることじゃないが。
無問題だと言い切る伊澄に男子生徒は気まずそうに頬をかいた。


「その…とりあえず悪かったな。えっと…名前なんだっけ?」
「杉原伊澄」
「じゃあ杉原か。俺は日向順平。戦国武将好きでさ、ついつい熱くなってた。すまん!」
「言わなくてもわかるわよ」
「…だよな」


先程の態度を見てれば一目瞭然だと、呆れたように呟いた伊澄の言葉に日向は顔を逸らす。大体こんな一見して誰かわからないような人形を一発で名指しだ。筋がね入りなのだろう。伊澄の考えはまさしくドンピシャだった。


「…それで?」
「は?」


急に話しを変えてくる伊澄に、日向は疑問符を上げる。まさか声かけた理由も忘れたの?と思ったが、本気で訳がわからない顔をしている日向に再度呆れた表情を向け手に持っていた曰く石田三成人形をカチャリと指に引っ掛けた。


「これ、私捨てたいんだけど」
「あ、あああ!?お前だからそれレアなんだぞレア!!織田信長、伊達正宗、武田に上杉にって数多く有名な武将の中でもマイナーな立場でありながらキーホルダーになった石田三成だぞ!?捨てるなんて、なんつー勿体無いことを…!」
「だって興味無いもの」
「だアホ!今の日本を作り上げてきた役者達になんて無礼だ!?」


また熱が入ってきた日向の言葉に面倒くさい…と伊澄は心の中で思う。口に出さないのは正しいだろうがいつまでも無限ループなそれに、ふうと息を吐き、日向に手もとのキーホルダーを差し出した。


「じゃあ、日向いる?」
「お前戦国武将の魅力を……は?」
「君曰わくレアなこのキーホルダー。私が持ってても宝の持ち腐れだし、大体家に持って帰っても結局捨てるわよ、私」
「え、あ、……いいのか!?」
「いらないならいいわよ。最終的に紙屑の中を泳がせるだけだから。あ、分別するならこの場合危険物になるのかしら」
「それだけは止めて!」
「冗談よ」


真顔で告げた伊澄は本気で焦る日向に「はい」とキーホルダーを渡す。手にしたそれに日向は目を輝かせていたが、伊澄が見ているのに気がつくとゴホンと一区切りし、くしゃりと微笑んだ。





ラッキーアイテム、武将の人形





(ありがとな、杉原!つか杉原ってどこ中出身?)
(帝光中)
(マジ!?でも帝光って遠くね!?)
(家引っ越したから。今はここから5分くらいのとこに住んでる)
(へー。通りで見たことない訳だ)
(じゃあ私帰って良いかしら)
(あ、何か用事あったか?)
(いや、お腹空いたから)
(……そ、そーか)(変なヤツ…)




先輩の高校生活1日目。クラッチこと日向との出会いでした。1日目から変人認識ですがお互いです。武将に熱が入る日向も大概変人だと思うよ。ここから先輩の武勇伝が始まります(始まりません)
友人第一号、日向。

思いっきり捏造だけど、とりあえず一年時は木吉やリコリコとは違うクラスかなーと。どうせ出すなら伊月にしたいです。や、捏造なんだけどね。
あと木吉に誘われるまで日向はバスケのことあまり詳しくなさそうなイメージなので帝光には反応させませんでした。…この辺ちゃんと読んでなかったから曖昧なんだよ。早く単行本、来い。
とりあえず二年生はみんな好きだから満遍なく絡ませたいです。あと日向にだアホ使わせて満足です。どんどん突っ込んでくれよクラッチ!

手痕を良くつけてたのは言うまでもなく青峰や黄瀬ですがさつきの強さでも簡単についちゃう弱さです、先輩。肌が白いから尚更なんでしょうね。また帝光時代でも書きたい。

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